このセクションは、Patrick, A, Mello (2021) Qualitative Comparative Analysis An Introduction to Research Design and Application, Georgetown University Press のpp.201-210に掲載されている Glossaryの日本語版です。日本語版あるいは原著をお読みの際に日本語での用語解説が必要な場合に、ご活用ください。
この用語集は、本書で使用される主要な用語の定義を示したものです。用語集は、QCA の代表的な教科書（Kahwati and Kane, 2019; Rihoux and Ragin, 2009; Schneider and Wagemann, 2012）や研究手法の一般的な用語集（Gerring, 2012; Seawright and Collier ,2010）の記載内容を反映しています。
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この用語集のベースとなっている文献は以下の通りです。ハイパーリンクになっている文献はamazon.co.jpの該当ページにつながっています。
【QCAの代表的な教科書】
【研究方法の文献】
Seawright, J. and Collier, D. (2010) "Glossary" in Brady, H,E. and Collier, D. (eds) (2010) Rethinking Social Inquiry, Rowman & Littlefield, Lanham, MD.,
逸脱ケース(deviant case)： 解に帰属するにもかかわらず結果には帰属しないケース。ファジー集合の場合、これは解の帰属スコアが0.5を超え、結果の帰属スコアが0.5以下であることを意味する。
一般因果 (general causation) : 個々の観測を現象の類型の表現と見なす因果関係の視点。単称因果も参照。
INUS 条件 (INUS condition): それ自身は不要だが、結果には十分である条件の、不十分だが必要な部分（Mackie 1965）。
因果関係 (causation): ある原因とその結果との関係。因果関係の主な理論は、規則性、確率、反事実、またはメカニズムを重視している（第4章参照）。
因果関係の規則性理論 (regularity theories of causation)：潜在的な原因が繰り返し規則正しく現れるという因果関係の視点。
因果関係のメカニズム理論 (mechanistic theory of causation)：原因条件と結果を結びつける因果メカニズム (causal mechanism)を特定する因果関係の観点。
因果非対称性 (causal asymmetry) : 因果複雑性を参照。
因果複雑性 (causal complexity) : QCAが依拠する3つの方法論的前提を含む包括的概念。(1）結合因果 (conjunctural causation)とは、対象となる現象を生み出すのに単一の条件では不十分で、特定の条件の組み合わせが結果に対して共同的に十分であるような状況を表す。(2）等結果性 (equifinality)とは、個々の条件や条件の組み合わせからなる複数の経路が独立して同じ結果を導くという設定である。最後に、（3）因果非対称性 (causal asymmetry)とは、通常、結果を説明するレシピ（訳注：条件の組み合わせ）を対称的に反転させても非結果を説明できず、別の分析が必要であることを意味する。
因果メカニズム (causal mechanism) : いくつかの要素が相互作用して結果をもたらす生成過程。条件と結果の間の因果関係の特定を目的とする過程追跡によるケース内（訳注：因果推論）手法と密接な関係がある。マルチメソッド研究 (multimethod research)も参照。
X-Yプロット(X-Y Plot)：ファジー集合（帰属度）間の集合関係の視覚的表現。
fsQCA : ファジー集合QCA (fuzzy-set QCA)を参照。
MDSO-MSDO：ケースと条件を一対のブール演算で比較する手法。MDSOはmost different cases, similar outcomeを意味し、MSDOはmost similar cases, different outcomeを意味する（De Meur and Gottcheiner, 2009）。
mvQCA：マルチバリュー QCA を参照。
オイラー図 (Euler diagram) : ベン図 (Venn diagram)が論理的に可能なすべての交差を示すのに対し、クリスプ集合（2値）間の既存の交差を視覚的に表現したもの。
解(solutions)：QCAには3つの異なる解のタイプがある。これらは、ブール代数による最小化(Boolean minimization)手順と論理残余(logical remainder)の扱いに起因する。保守解、簡略解、中間解を参照。
外的基準 (external standards): 集合論的キャリブレーション (calibration)に使用される基準で、直接法キャリブレーションの経験的基準点の定義において特に重要である。
解被覆度(solution coverage): 与えられた解のすべてのパスによって経験的証拠のどれだけが説明されるかを評価するのに役立つ指標。素被覆度、固有被覆度も参照。
改良標準分析 (Enhanced Standard Analysis：ESA)：標準分析の分析的改良（Ragin 2008b）であり、適切でない仮定 (untenable assumptions)に基づく論理残余を除外する（Schneider and Wagemann 2013）。
確率的因果理論(probability theories of causation)：潜在的な原因を、その効果の発生に対する確率を高めるものと見なす因果関係の視点。
頑健性のテスト(robustness tests)：ケース選択基準、キャリブレーション閾値、あるいは整合性や度数のレベル、論理残余の扱いなど、分析全体を通じて行われる決定すなわち特定の分析的選択に集合論的分析の結果がどの程度条件付けされるかを確認する手順。
簡略解(parsimonious solution：3 種類の解のうちの 1 つ。簡略解は、結果に関連し、研究者が指定した整合性と度数の閾値を満たす真理値表行のブール代数による最小化(Boolean minimization)から得られる。より複雑でない解を導くために、簡略解の手順では、ペアワイズ最小化においてすべての論理残余を考慮する。使用される論理余剰は、結果の解を単純化し、反事実のケースに関する仮定に依存するため、単純化仮定(simplifying assumptions)と呼ばれる。注意すべきことは、簡略解は適切でない仮定(untenable assumptions)に基づいている場合がある。保守解、中間解も参照。
関連するケース(relevant cases) ： (1) 結果と非結果が、世界について知られていることによって可能とみなされるケース、 (2) 研究の目的に照らして実質的に重要であるケース。一般的な原則としては、ケース（事例）選択には関連するケースのみを含めるべきである。反意語：関連のないケース。不可なケースも参照。
関連のないケース (irrelevant cases)：(1) 結果または非結果が、世界に関して知られていることでは不可能とみなされるケース、または(2) 研究の目的に照らして実質的に重要でないケース。一般的な原則としては、ケース選択には関連するケース (relevant cases)のみを含めるべきである。反意語：関連するケース。不可能なケースも参照。
帰属スコア (membership score)（同義語：membership value）：ある集合におけるケースの帰属を数値で表したもの。クリスプ集合の帰属は１と０を想定しているが、ファジー集合の帰属はこれらの値の間の小数のスコアも取ることができる。
キャリブレーション (calibration): 質的・量的な生データ（キャリブレーションされていないデータ）をターゲット集合内のメンバーシップスコアに変換すること。キャリブレーションの直接法 (direct method)は、ソフトウェアベースの変換で、研究者が3つの経験的アンカーを定義する必要がある。マニュアル・アプローチ (manual approach)では、研究者が集合論的なメンバーシップスコアをケースに直接割り当てる。あまり使われないキャリブレーションの間接的 (indirect method)では，個々のケースに予備スコアを割り当てた後、統計的推定技術を適用して、生データと最初に割り当てたスコアに基づいて予測されるファジー値を計算する必要がある。各手法とも、事前に整合性のある基準を定義し、基礎となる社会科学の概念と密接に対応させる必要がある。
キャリブレーションの間接法 (indirect method of calibration): キャリブレーションを参照。
キャリブレーションの直接法 (direct method of calibration)：キャリブレーションを参照。
共通部分・交叉 (intersection)：2つ以上の条件 (conditions)の組み合わせ。ブール演算子 AND を参照。
Quine-McCluskey アルゴリズム(Quine-McCluskey algorithm)：真理値表アルゴリズムを参照。
クリスプセットQCA (crisp-set QCA)：すべての条件と結果における集合メンバーのスコアが2値を取る、クリスプ集合のみで実施される分析。
クロスオーバー (cross over)：集合論的キャリブレーション (calibration)のための経験的基準点のことで、集合の帰属と非帰属の間の質的分岐点を指定する。最大曖昧点（point of maximum ambiguity）とも呼ばれる。
経路(Path)：解の中の1つの構成のこと。通常、解の中にはいくつかの経路が含まれる。
ケース（事例） (case): 分析の単位。真理値表では、ケースは、集合への帰属スコア (set-membership score)が最も高い構成 (configuration)に割り当てられる。
ケース（事例）選択 (case selection): 集合論的分析(set-theoretic analysis)のためのケースの特定。QCAのケース選択は、最も一般的なアプローチとして、合目的的選択 (purposeful selection)、所与の母集団 (given population)、範囲条件 (scope conditions)に基づくことができ、これらはQCAの定性的研究論理とも合致している。さらに、一定の要件を満たせば、ランダムサンプリングや層別サンプリングなどのサンプリング技法を用いてケースを選択することも可能であろう。一般的な原則としては、ケース選択には関連するケース (relevant cases)のみを含めるべきである。
経験的基準点 (empirical anchors)：質的基準点 (qualitative anchors)とも呼ばれる。キャリブレーションを参照。
結果(outcome)：集合論的分析で説明されるべき現象。統計的アプローチにおける従属変数(dependent variable)に似ている（ただし同一ではない）。
結合因果 (conjunctural causation)：因果複雑性を参照。
原始式(primitive expression)：結果に関連する真理値表の行を表す式。主項も参照。
研究サイクル(research cycle)：研究問題や研究課題の定義から始まり、理論的期待の形成、ケースや条件の選択、データ収集、キャリブレーション、集合論的分析などを経て、実体的解釈で締めくくる社会科学的研究プロセスの理想型概念で、その結果、研究サイクルの初期段階の再検討をもたらすことがある。
限定的な多様性 (limited diversity)：論理的に可能な構成（＝条件の組み合わせ：訳注）の数が、経験的ケースの数を上回る場合に起こる現象。したがって、ある分析でどの程度多様性が限定されているかは、真理値表 (truth table)における論理残余 (logical remainders)の行の数から知ることができる。
構成 (configuration)：真理値表 (truth table)の1行に表される条件の組み合わせ。
肯定的なケース(positive case)：結果(outcome)に帰属するケース。
合目的的選択(purposeful selection)：ケース（事例）選択を参照。
固有被覆度(unique coverage)：経験的証拠のどれだけが与えられた解のパスによって説明されるかを評価するのに役立つ指標。解被覆度、素被覆度も参照。
困難な反事実 (difficult counterfactual)：単純化される（したがってより複雑でない解に寄与する）が、理論的・実体的な知識が結果の存在を示唆しない論理残余。困難な反事実は、中間解 (intermediate solution)から除外されるべきである。
最小化 (minimization)：ブール代数による最小化を参照
最大曖昧点(point of maximum ambiguity)：クロスオーバーを参照。
サンプリング(sampling)：ケース（事例）選択を参照。
残余(remainders)：論理残余を参照。
csQCA：クリスプセットQCAを参照。
支持できないもっともらしくない仮定(untenable assumption)：支離滅裂な反事実(incoherent counterfactuals)と不可能な反事実(impossible counterfactuals)を含む包括カテゴリー（Schneider and Wagemann 2012）。
実証主義(positivism)：新実証主義を参照。
質的基準点(qualitative anchors): 経験的基準点とも呼ばれる。キャリブレーションを参照。
質的比較分析(Qualitative Comparative Analysis: QCA)：ケースを条件の組み合わせとしてとらえ、ある結果に対して必要および／あるいは十分な条件を特定することを目的とした比較法。
集合(set)：ある特徴を共有する要素のグループ。
集合演算(set operations)：ブール演算を参照。
集合関係(set relations)：QCAは、必要性と十分性の集合関係を中心に発展してきた。必要条件と十分条件を参照。
集合論(set theory)：数学の統一理論。QCAでは、集合論に基づき、社会現象とその間の集合関係を分析する。
集合論的分析(set-theoretic analysis)：集合論的な必要性および／または十分性の関係を分析すること。真理値表分析も参照。
従属変数 (dependent variable)：結果を参照。
十分条件(sufficient condition):ある要因が存在するときは必ず結果も存在することを意味する。常に結果につながるので、十分条件は成功を説明する役割を果たすと言える。
主項(prime implicants)：結果に関連する真理値表行の最小化から生じるブール式（原始式(primitive expressions)）。主項は、派生する原始式の上位集合。主項表では含まれる情報が既に他の主項によってカバーされているか確認できるため、冗長な主項があるか判断するのに役立つ。このような場合、冗長な主項を削除することで、より単純な解項を導出できる。
条件 (condition): ケースの属性、特性、特徴で、結果を表現そして／あるいは説明するために使用されるもの。各条件において、ケースはキャリブレーションによって得られる集合論的な帰属スコアを持っている。この用語は、統計学でいうところの変数 (variables)に相当する。変数と条件の重要な違いは、後者がキャリブレーションから生じるのに対し、前者はキャリブレーションされていない測定値である場合もあるということである。
所与の母集団 (given population)：社会的事実によって限定されたケースのあらかじめ定義された集団（例えば、国際機関機関の加盟国、選挙区の有権者、株価指数に含まれる企業）。
支離滅裂な反事実 (incoherent counterfactuals)：以前に特定された必要条件と矛盾する論理残余。
新実証主義 (neopositivism)：社会現象を、研究者が客観的に評価できる観察可能な規則性に支配されていると見なす社会科学的な視点。
真理値表(truth table):真理値表は、条件の可能な組み合わせの数と、それらの構成にまたがるケースの経験的分布を示す。可能な行の数は2のk乗に等しく、ここでkは研究に含まれる条件の数である。真理値表はさらに、集合論的な十分性という関係が各行に対してどの程度整合性があるかを示す。
真理値表アルゴリズム(truth table algorithm): ブール代数による最小化およびQCAの解の項の構築に使用されるアルゴリズム。標準はQuine-McCluskey（QMC）アルゴリズムであり続けるが、これは改良版（eQMC）とConsistency Cubesアルゴリズムによって補完されている（Duşa 2018）。
真理値表分析(truth table analysis): 研究者が指定した整合性と度数の閾値に基づき、結果に十分な構成をブール代数により最小化する(Boolean minimization)分析手順。真理値表分析は、論理残余の扱いによって異なる解の項(solution terms)をもたらす。
SUIN条件(SUIN Condition): ある結果に対して、不十分だが必要な要因のうち、十分だが不要な要因の部分（Mahoney, Kimball, and Koivu 2009）。
整合性 (consistency)：経験的証拠と集合論的な必要性または十分性の関係との適合性を評価するのに役立つ指標。整合性は、必要条件と十分条件について別々に計算される。
説明条件 (explanatory condition): 条件を参照。
属性空間 (attribute space): ケースを配置することができる多次元空間。属性「空間」は、真理値表分析に含まれる集合の数と同じだけの次元を持つ。property spaceとも呼ばれる。
素被覆度(raw coverage)：経験的証拠のどれだけが与えられた解のパスによって説明されるかを評価するための指標。解被覆度、固有被覆度の項も参照。
存在論 (ontology)：社会的・物理的現実に関する視点（「世界が何でできているか」）。存在論的な仮定は認識論的および方法論的な意味を持つが、定義上、証明することはできない。
タイプレベル因果(type-level causation)：一般因果を参照。
単純化の仮定(simplifying assumptions)：簡略解および/または中間解を導き出す際に、結果に対して十分であるかのように扱われる論理残余(logical remainders)。
単称因果(singular causation)：より大きく一般的なパターンを想定することなく、単一のケースから因果関係の主張を導き出すという視点。一般因果も参照。
中間解 (intermediate solution): 3つの解の種類のうちの1つ。中間解は、結果に関連し、研究者が指定した整合性と頻度の閾値を満たす真理値表行のブール最小化 (Boolean minimization)から生じる。より複雑でない解を導き出すために、中間解の手順は、さらに、ペアワイズブール最小化において特定の論理残余を考慮することを許可する。これは、各条件の方向性期待 (directional expectations)を指定することや、もっともらしくない反事実 (implausible counterfactuals)を除外することで実現できる。中間解は、保守解 (conservative solution)と簡略解 (parsimonious solution)の間に位置づけられる。
適合度指標（measures of fit）：経験的データにおける集合論的な関係を評価するための測定基準。QCA の主な適合度指標は、整合性 (consistency)と被覆度 (coverage)であり、必要性と十分性という集合論的関係に対して独立に計算される。
典型事例(typical case)：解と結果に帰属し、後者の集合帰属スコアが前者のそれを上回るようなケース。パスウェイ事例も参照。
Two-stepアプローチ(Two-step approach)：QCA の変種で、遠隔条件と近接条件の区別に基づいて、分析を別々の真理値表手続きに分割するもの（Schneider and Wagemann 2006）。
等結果性 (equifinality): 因果複雑性を参照。
同時部分集合関係(simultaneous subset relations)：ファジー集合データにおいて、ある構成が結果の部分集合と非結果の部分集合の両方である場合に起こりうる現象。これは論理矛盾となる。しかし、整合性(consistency)と被覆度(coverage)の指標だけでは、ある構成が結果または非結果のどちらに対して十分なものとして扱われるべきかを判断することは難しい。このような状況を識別するために不整合減少率（PRI整合性）という指標が導入された。不整合減少率（PRI整合性）を参照。
トークン・レベル因果(token-level causation): 単称因果を参照。
特性空間(property space)：属性空間を参照。
Tosmana: 当初はクリスプセットおよびマルチバリューQCAのために開発されたソフトウェアだったが、ファジーセットQCAもカバーするように機能拡張された（Cronqvist 2019）。
取るに足りないこと(trivialness): 必要性および／または十分性の集合関係の基準を満たすが、些細な発見を意味する条件または条件の組み合わせ。必要性の関連性も参照。
生データ(raw data)：キャリブレーションを参照。
認識論 (epistemology): 知識の構成と起源（「何を知ることができるか」）についての観点。
パスウェイ事例(pathway case)：解における一つの経路（訳注：構成＝条件の組み合わせ）だけに固有に含まれるケース。典型事例も参照。
範囲条件(scope condition)：理論的または実質的な検討に基づいて、ケースの選択を制限する基準。
反事実 (counterfectual)：発生しなかったケースについて推論すること。論理残余 (logical remainders)は潜在的な反事実のケースである。つまり、研究者が結果のもっともらしさを評価できるような経験的事例のない条件の組み合わせである。
反実仮想的因果理論 (counterfactual theories of causation)：潜在的な原因が、それがなければ結果が発生しなかったであろうという差異形成要因 (difference makers)であるとする因果関係の観点。
被覆度（coverage）：必要条件および／または十分条件の経験的な関連性を評価するのに役立つ測定基準。十分性の集合関係では、条件または条件の組み合わせによって経験的証拠のどれだけが説明されるかを示す。必要性の集合関係では、これは、関連する必要条件と些細な必要条件を区別するのに役立つ。必要性の関連性 (relevance of neccesity: RoN)も参照。
非対称性 (asymmetry): 因果関係の複雑さを参照。
必要条件 (necessary condition)：必要条件とは、関心のある結果が発生するときに、ある要因が常に存在することを意味する。別の言い方をすれば、必要条件が存在しなくても結果は発生する。必要条件は現象が起こるための前提条件であるため、理論的な観点からは、失敗を説明するものであると言える。
必要条件分析 (Necessary Condition Analysis: NCA）：データセットにおける必要条件を特定するためのQCAとは異なる方法論。QCA のように整合性という指標で作業するのではなく、NCA では「レベル X はレベル Y に必要である」（Dul 2016; Vis and Dul 2018）というように、異なるレベルの条件を用いる（Dul 2018）。
必要性の関連性(Relevance of Necessity: RoN)：必要性の形式的基準を満たす条件が、取るに足らない必要条件である可能性を評価するための指標（Schneider and Wagemann 2012）。
否定 (negaition)：ブール演算子 NOTを参照。
否定ケース (negative case)：結果 (outcome)に帰属しないケース。
表記法 (notation)：QCA は、さまざまな表記法を用いている。分野によってブール代数、命題論理、および／あるいは集合論などの記号や用語を使用することが好まれることがある。
標準分析(standard analysis): 複雑解，簡略解，中間解を導く分析手順を説明するために使用される用語（Ragin 2008b）。改良標準解析も参照。
ファジー集合 (fuzzy sets): 0から1までのスコアでメンバーシップを段階的に設定できる集合。ファジー集合は質的・量的な違いを表現し、集合の内側（0.5以上）と外側（0.5以下）を区別し、集合の不完全な帰属の濃淡を表現できる。
ファジーセットQCA (fuzzy-set QCA): ファジー集合(fuzzy-sets)を用いて実施される分析で、条件および／または結果における集合への帰属スコアが 0 から 1 の値をとるもの。
ファジーセット理念型分析 (fuzzy-set ideal type analysis): QCAの変種で、体系的な経験的比較と類型的理論化のためにファジー集合を用いるが、結果の説明を目的としない（Kvist, 2007）。真理値表で囲まれた属性空間 (attribute space)は、ある分析における理念型の数を表す。
ブール演算 (Boolean operations): QCA では、ブール代数の 3 つの演算子、ブール演算子 AND、ブール演算子 OR、およびブール演算子 NOT を使用する。それぞれの定義を参照。
ブール演算子 AND (Boolean AND): 2つの集合の間の共通部分 (intersection)を指す論理演算子（命題論理の言語では論理積 (conjunction)としても知られる）。集合Aと集合Bの交差点におけるケースメンバーシップは、それぞれの条件にわたる最小メンバーシップスコアに等しい。
ブール演算子OR (Boolean OR): 2つの集合の和 (union)を意味する論理演算子(命題論理の言語では論理和 (disjunction)とも呼ばれる)。集合Aと集合Bの和のケースメンバーシップは、それぞれの条件におけるメンバーシップスコアの最大値に等しい。
ブール演算子 NOT (Boolean NOT): 集合の否定 (negation)を意味する論理演算子（集合論的言語では補集合 (complement)とも呼ばれる）。集合Aの否定におけるケースメンバーシップは1-Aに等しい。
ブール代数による最小化 (Boolean minimization):ブール式を一対一で比較し、無関係な要素を削除して、より単純な式を得ること。真理値表アルゴリズムの中核。
不可能なケース (impossible cases)：結果または非結果が、世界について知られているものによって不可能とみなされるケース。一般的な原則としては、結果が起こりうる可能性があり、かつ実質的に重要な関連するケース(relevant cases)のみを含めるべきである。関連のないケースも参照。
不可能な反事実 (impossible counterfactuals)：論理的に不可能な、あるいは世界に関して知られていることでは不可能な条件の組み合わせを必要とする論理残余。
複雑解 (complex solution): 保守解を参照。
複雑性(complexity) :因果複雑性を参照。
不整合減少率(Proportional Reduction in Inconsistency)（PRI整合性）：不整合減少率（PRI整合性）は、十分条件の分析において、同時部分集合関係(simultaneou subset relations)を識別するための指標。
ベン図(Venn diagrams)：オイラー図(Euler diagrams)が既存の交差点のみを示すのに対し、クリスプ集合（2値）間の論理的に可能なすべての交差点を視覚的に表現したもの。
方向性期待 (directional expectation)：条件の有無が分析結果と関連するかどうかに関する理論的または実体的な知識から導かれる期待。中間解 (intermediate solution)では、任意の数の条件について方向性期待を指定することができる。
補集合 (complement): ブール演算子 NOTを参照。
母集団(population)：ケース（事例）選択を参照。
保守解(conservative solution)（複雑解 (complex solution)とも）：QCAの3つの解のタイプの１つ。保守解は、研究者が指定した整合性と頻度の閾値を満たす結果に関連する真理値表行のブール演算による最小化から生じる。この解は経験的ケースのみで求められ、さらなる単純化を達成するために論理残余を組み込まないため、保守的と呼ばれる。簡略解 (parsimonious solution)、中間解 (intermediate solution)も参照。
マルチメソッド研究 (multimethod research)：2つ以上の研究方法を組み合わせて推論上の利点を得ること。集合論的な文脈では、マルチメソッド研究デザインは、典型的には、クロスケース分析のための手法としてのQCAと、ケース内分析、特に因果メカニズムの特定を行うためのプロセストレーシングの組み合わせを伴う。これは、QCAと他の定性的および／あるいは定量的手法との組み合わせを排除するものではない。
マルチバリューQCA (multivalue QCA)：多値をとる条件を組み込んだQCAの変種（Cronqvist and Berg-Schlosser 2009）。
ミルの方法 (Mill’s methods)：John Stuart Millが『A System of Logic』（1843年）の中で提唱した科学的探究の方法。ミルの方法には、一致法と差異法、さらにあまり知られていない剰余法と共変法、一致差異併用法などがある。QCAは、この合同法の体系的な適用を基礎としている。QCAは合同法の体系的な適用を基礎としている。しかし、QCAはミルの方法をはるかに超えていることに留意することが重要である。これには、因果複雑性 (causal complexity)、限定的な多様性 (limited diversity)、適合度指標 (measures of fit)、ブール代数による最小化 (Boolean minimizaiton)などを考慮し、体系的な比較手順と推論的分析を行っている。
矛盾 (contradiction)：質的に異なる結果（クリスプ集合のメンバーシップスコア1および0、またはファジー集合のメンバーシップスコア0.5以上および以下）を持つケースを含む真理値表の行。矛盾した構成 (contradictory configuration)とも呼ばれる。
矛盾した仮定 (contradictory assumptions)：結果と非結果の両方に対して十分であると仮定される論理残で、両方の分析に同じ論理残余を使用した場合に発生する。矛盾した単純化仮定 (contradictory simplifying assumption)、支離滅裂な反事実 (incoherent counterfectuals)とも呼ばれる。
矛盾した構成 (contradictory configuration)：矛盾を参照。
もっともらしい反事実(plausible counterfactuals)：以下の基準をすべて満たす論理残余。(1) 理論的・実体的知識が結果の存在を示唆している、(2) それぞれの構成が矛盾していない、(3) 経験的に可能である、(4) 必要条件の記述と矛盾しない。反意語：もっともらしくない反事実。
もっともらしくない反事実 (implausible counterfactuals)：以下の基準のうち少なくとも1つを満たすため、反実仮想としてもっともらしくない論理残余。(1) 理論的・実体的知識が結果の存在を示唆していない、(2) それぞれの構成が矛盾している、(3) 経験的に不可能である、(4) 必要条件の記述と矛盾している、のうち少なくとも1つを満たすため、反事実としてもっともらしくないもの。反意語：もっともらしい反事実。
モデル (model)：真理値表分析で使用される条件全体を表す用語。
モデルの曖昧性 (model ambiguity)：真理値表の構造や仮定によって、同じ実証データから論理的に等価な解項が複数導かれることがある現象（Baumgartner and Thiem 2017）。
良い反事実 (good counterfactual)：適切でない仮定 (untenable assumption)に基づかない反事実で、簡略化に寄与してもしなくてもよいもの（Schneider and Wagemann 2012）。もっともらしい反事実も参照。
容易な反事実 (easy counterfactual)：単純化される（したがってより複雑でない解に寄与する）、理論的および実体的な知識が結果の存在を示唆する論理残余。
ランダム選択(random selection)：ケース（事例）選択参照。
リサーチデザイン(research design)：科学的問題に対する適切な解決策を見出すことを目的とした、科学的な調査の戦略。
理念型 (ideal type)：ファジーセット理念型分析を参照。
類型的推論(Typological reasoning)：ファジーセット理念理想型分析を参照。
レシピ(recipe)：結果を得るために十分な構成(configuration)。構成という意味で、この用語は経路(PathやPathway)と互換的に使用される。しかし、レシピは解決策全体を示すのにも使われる。
論理残余 (logical remainder)：どの経験的ケースにも関連しない真理値表の行。
論理積 (conjunction)：2つ以上の条件の組み合わせ。ブール演算子 ANDを参照。
論理和 (disjunction)：ブール演算子 ORを参照。
和集合(union)：ブール演算子 ORを参照。