特別講演



2018年1月28日(日)

「ホロノミーと力学系-循環・反復から発展へ」

谷村省吾 先生

名古屋大学大学院情報学研究科複雑系科学専攻 

概要

 ホロノミーとは、システムの制御変数の初期値と終値が等しいときに、システムの状態変数の初期値と終値の差を指す概念である。例えば、床の上を転がり運動する一輪車のサドルとペダルの角度を制御変数とし、床上の一輪車の重心位置を状態変数とすると、ある時間を経て、サドル角・ペダル角を初期値に戻しても、重心位置は移動していることがある(だからこそ一輪車は移動手段になりうる)が、この重心移動がホロノミーである。
 ホロノミーという言葉は、もともと力学系のホロノーム拘束条件から派生した概念であり、いまでは「非ホロノーム拘束に伴う、系の非可積分な状態変化」のことを指して使われることが多い。「非」という文字が何度も現れてネガティブな印象を与えるかもしれないが、ミクロの世界の量子力学系や素粒子のゲージ場や、マクロの世界の力学系や熱力学系にも、ホロノミーにあたる現象が見い出される。その意味ではホロノミーは普遍的な概念だと言える。
一方で、我々の身の回りには、循環・反復しているように見えながら、小さなずれが蓄積していき、長期的には大きな変化を遂げているという類の現象がしばしば見られる。日周期に合わせて生物が毎日同じ行動を繰り返しているように見えながら少しずつ成長しているのもそうだし、生物個体が誕生・成長・繁殖・死というライフサイクルを繰り返しながらも世代を経て種としての変化を遂げるという現象も、そのように見える。このような「反復からのずれの蓄積としての発展」という型を、記述し理解する視点としてもホロノミーという概念は有効かもしれない。
 ホロノミーの数理と物理的例から話を起こして、最後は、やや妄想がかった話になってしまうかもしれないが、ホロノミー的な世界観とでもいうような話題を提供したい。

【参考文献】谷村省吾「ホロノミーと力学系:一輪車から猫の宙返り,量子コンピュータまで」 数理科学2011年4月号 pp.8-14.
(谷村のウェブページに公開されています。)
http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/paper/mathsci2011.pdf