Exercise Physiology 

Cardio-Respiratory Control Lab.

Tadayoshi Miyamoto, Ph.D.

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研究テーマ
統合的枠組みによる呼吸循環調節系の制御機構の解明とその応用研究を行っています。

研究活動

 生体には恒常性を維持するために多くの負帰還制御系(フィードバックシステム)が存在しています。呼吸化学調節系や動脈圧受容器反射系は、血液ガスやpH、血圧の恒常性維持に必要不可欠な負帰還システムであることはよく知られています。

 我々人間をふくめ、高等動物に代表される生命システムは進化や様々な環境への適応を通じて、動物特有の高度な運動生理機能を獲得してきたと考えられています。
運動開始時には、活動筋代謝の高まりに応じて、酸素を時間遅れなく供給するために、呼吸循環系を正確にかつ迅速に制御するメカニズムが必要となります。

 過去、100年にわたる研究により、運動遂行時の生体には、化学受容器反射や圧受容器反射によるフィードバック調節以外に、セントラルコマンドと呼ばれる中枢からの直接の神経信号入力による調節(フィードフォワード制御)、活動筋由来の機械受容器反射や代謝受容器反射による調節など様々な制御機構が働いていることが明らかにされてきました。

 運動時には、血液中の酸素や炭酸ガス、水素イオン濃度(PO2, PCO2, pH)、及び血圧の恒常性を維持すべく、数多くの制御機構が相互作用を繰り返しながら、合理的かつ合目的にその機能を分担し合っていると考えられます。運動時代謝に応じた呼吸循環系応答のダイナミクスが最終決定される過程には極めて柔軟でかつ精緻な制御メカニズムが時事刻々と働いていると考えられます。 

 運動に対する呼吸調節系と循環調節系の相互連関の制御機能を正確かつ定量的に評価するには、まず呼吸化学調節系や圧受容器反射系を構成しているサブシステムの特性、すなわち制御部である中枢コントローラシステム(脳、神経系)と制御対象部である末梢プラントシステム(呼吸器系、心臓・血管系)の機能特性を定量化する必要があります。

 私の研究室では、
運動時における負帰還制御系の動作原理をより深く理解するために、工学系の分野で広く用いられている線形システム解析を研究手法のひとつとして取り入れ、トップアスリートから呼吸循環器疾患患者までのヒトを対象とした臨床研究から、小動物を対象とした基礎および応用研究を行っています。

 最近の我々の研究では、心不全患者において運動時発現する呼吸異常や、スポーツ選手にみられる運動時の換気抑制は、呼吸調節系の動的制御機能の安定性や速応性機能が病態によって損なわれたり、逆に、長期トレーニング適応によってその機能が増強されるメカニズムが働いてるというデータを得ています。

 研究室全体としては、以下のテーマに対して段階的に取り組むことで、運動に対する生体適応現象を統合的に理解し、さらに、それらの研究を通じて複雑な生命現象の本質に迫るとともに、スポーツ科学や、基礎及び臨床医学の実践に役立てるべく研究成果をあげていきたいと考えています。

 2002年、「ヒトゲノムプロジェクト」の完了宣言が報じられました。今後は「遺伝子から個体へ」あるいは「分子からヒトへ」の視点に立って生体機能とメカニズムを解明するという、「システムバイオロジー」としての生理学研究の流れがポストゲノム研究の潮流になると考えています。その中において、私は運動に対する呼吸循環系の動的で複雑な反応をシステム的に理解し研究することの重要性や魅力をアピールし続けたいと考えています。

研究課題

~呼吸・循環器を制御する生体調節系の動作原理を解明する~

生体の統合的呼吸・循環調節機構の解明とシステム同定に関する研究

   ●生体の統合的呼吸・循環調節機構の解明

   ●呼吸調節と脳循環調節の相互連関機構の解明

   ●循環器系の神経性・体液性の制御機構の解明

   ●循環の因子が呼吸化学調節機構に及ぼす影響

   ●呼吸の因子が自律神経性の循環調節機構に及ぼす影響

   ●呼吸化学調節系のサブシステム(ControllerとPlantシステム)の内部構造の解明

   ●覚醒下、小動物で呼吸化学調節系の静・動特性を定量化するための方法論や実験系の確立


研究概要

姿勢変化時や無重力環境下では静水圧要因によって中心循環血液量(心臓や肺に分布する血液量)が変化し、呼吸や血液ガス動態に変化が現れることが報告されています。一方、心不全患者にはCheyne-Stokes呼吸や周期性呼吸、運動時の過剰換気亢進反応などの呼吸異常が発現し、これらの病状は心不全の重症化に伴ってより顕性化することが報告されています。しかし、この呼吸循環系の反応に見られる相互連関の機構や病態による修飾機序については未だ明らかにされていません。そこで私たちは、健常人を対象に、特別制作した水浸装置(WI条件)及び下半身陰圧負荷装置(LBNP条件-45mmHg)を用いて、中心循環血液量を増減させる条件を負荷し、呼吸化学調節系の制御部(Controller)と制御対象部(Plant)の二つのサブシステムに及ぼす影響を調査し、呼吸循環系の相互連関機構の解明研究に取り組みました。その結果、中心循環動態は、脳循環調節メカニズムを介して呼吸調節機序(制御部:脳)を変化させるだけでなく、制御対象部(肺)におけるガス交換機能をも大きく変動させ、呼吸変動をもたらす大きな要因として作動していることが判明しました。このメカニズムは心不全患者の呼吸異常発現に関わる病態生理機構の一つである可能性が示されました。

関連論文

  1. Miyamoto T, Bailey DM, Nakahara H, Inagaki, M, Ogoh S. Manipulation of central blood volume and implications for respiratory chemoreflex control function. Am J Physiol. Heart Cir. Physiol, 306: H1669-1678, 2014.
  2. Ogoh S, Nakahara H, Okazaki K, Bailey DM, Miyamoto T. Cerebral hypoperfusion modifies the respiratory chemoreflex during orthostatic stress. Clin. Sci (Lond). 125:37-44, 2013.
  3. Miyamoto T, Inagak M, Takaki H, Kawada T, Shishido T, Kamiya A, Sugimachi M. Adaptation of the respiratory controller contributes to the attenuation of exercise hyperpnea in endurance-trained athletes. Eur J Appl Physiol.112:237-51, 2012.
  4. Ogoh S, Hayashi N, Inagaki M, Ainslie PN, Miyamoto T. Interaction between the ventilatory and cerebrovascular responses to hypo- and hypercapnia at rest and during exercise. J Physiol. 586:4327-4338, 2008.
  5. Miyamoto T, Inagaki M, Takaki H, Kawada T, Yanagiya Y, Sugimachi M, Sunagawa K. Integrated characterization of the human chemoreflex system controlling ventilation, using an equilibrium diagram. Eur J Appl Physiol. 93:340-346, 2004.



~運動に対する呼吸・循環システムの適応機構を解明する~

運動負荷に対する生体反応(運動の生理)や長期運動トレーニングによる生体システムの適応メカニズム(トレーニング効果)の解明研究

 ●運動時の呼吸・循環調節機構(呼吸・循環系ダイナミクスのメカニズム)の解明

  ●長期運動トレーニングによる生体システムの適応メカニズムの解明

  ●高位中枢による予測的・見込み的制御(フィードフォワード制御)が運動準備期および運動開始時の呼吸・循環系応答に及ぼす影響

インターバルトレーニングが、スポーツ選手のみならず、呼吸・循環器疾患の病態改善、そしてQOL向上などの有益な効果をもたらすことが知られています。しかしながら、現在、最も効率の良いインターバルトレーニング手法の確立には至っていません。そこで我々は、週1回の低頻度で行うインターバルトレーニングであっても、十分な運動強度が確保されれば、呼吸循環系機能の改善効果が得られると考え、実験を行いました。健常な男子学生を対象に、3ヵ月に亘る週1回の高強度インターバルトレーニングを実施し、トレーニング前後の呼吸・循環機能を比較検討しました。週1回のインターバルトレーニングは、自転車エルゴメータを用いて行い、図-1に示してあるように、最大到達負荷量の80%の負荷(ペダルにかかる重さ)を疲労困憊まで持続させる高強度運動を、3分間の休息を挟んで合計3回繰り返し行う方式で行いました。トレーニングの結果、全身持久力の指標である最大酸素摂取量は、トレーニング前と比較して13%増加し、左心室心筋重量も28%増加することが確認されました。これらの事実に加えて、トレーニング後には、高い強度の運動(高強度運動)を、12%換気を抑制し、そして血中乳酸濃度を16%低下させて行えるようになりました(図-2参照)。本研究は、僅か週に1回のトレーニングであっても心肺能力の向上が可能であることを明らかにしただけでなく、運動種目に応じたトレーニングプログラムの構築、そして運動に対してモチベーションの低い者に対しても有用な情報を示しました。


関連論文

    1. Nakahara H, Ueda SY, Miyamoto T. Low-frequency severe-intensity interval training improves cardiorespiratory functions. Med Sci Sports Exerc. 47(4):789-798, 2015.
    2. 中原英博, 宮本忠吉. 短期間・低頻度の高強度インターバルトレーニングが呼吸循環機能に及ぼす影響. 生体・生理工学シンポジウム論文集 2010; 117-120.

    ~呼吸・循環器疾患の病態生理機構を解明する~

    慢性心不全の呼吸異常の成因解明と治療戦略に関する研究

       ●睡眠時や運動時において顕在化する心不全の呼吸異常(浅速呼吸、運動時換気亢進、周期性呼吸、睡眠時無呼吸等)の成因解明

       ●循環器疾患に対する根拠に基づく鍼治療の開発

       ●心不全患者の呼吸異常是正(QOL向上)を目的とした、非薬物療法(運動療法、酸素療法、CPAP療法、ヨガ、鍼等)の効果検証とその作用機序の解明

       ●生体調節系の異常にもとづく疾患の病態解明と、重症度評価法の開発および治療戦略の構築

    ~システム同定法を用いた呼吸循環制御システムの機能評価法とその応用を考える~

    生体システムの新しい定量評価法の開発に関する研究

       ●呼吸・循環系の動的フィードバック制御機能定量評価法の開発

       ●トレーニング効果を精度よく検出し得る、新たな評価・解析方法(簡便法)の開発

       ●種目特性に応じたスポーツ選手の競技力向上のための最適トレーニングプログラムの開発

       ●慢性心不全の呼吸異常を定量的にかつ精度よく検出するための、新たな評価・解析方法(簡便法)の開発

       ●各種病態に応じた運動療法の最適プログラムの開発

       ●長期運動トレーニングによる生体システム適応機構の解明と運動種目別最適トレーニング法の開発

       ●運動performanceの決定に関わる主要な生理学的メカニズムの解明


    一問一答

    ――先生の専門分野は何ですか?
     運動生理学です。その中でも、運動に対して呼吸循環系がどのように反応しているか、というメカニズムの解明に取り組んでいます。

    ――呼吸循環系のメカニズムとは、分かりやすく言えばどういうことですか?
    たとえば、走ったり自転車をこいだりといった運動負荷が掛かると、体から一気に酸素が抜き取られ、体内が酸性化して体が危機的な状況に陥ります。運動時に呼吸や心拍が上がるのはそのような危機から体を守るためですが、その際の呼吸や循環の調節はまるで職人技のように秒単位で正確です。それがどんなメカニズムで行われているかを明らかにしたいと思っています。

    ――どのような方法で明らかにするのですか?
    体の中の複雑な仕組みを明らかにするために、私はシステム生物学のアプローチを用いた研究を行っています。これは、たとえば飛行機の自動操縦のように何かをコントロールする仕組みを考える「制御工学」の手法を、生体のシステムを解明する際に応用したもので、比較的新しい学問領域といえます。

    ――具体的には、今どんな研究をしているのですか?
    小動物の呼吸と循環をそれぞれ独立して人工的にコントロールできるような実験システムを開発しているところです。呼吸と循環の調節をつかさどる場所は脳内の少し離れた場所にあるとされており、両者がどんな仕組みで相互にリンクしているかは分かっていません。この実験システムができれば、呼吸と循環の一方を外部から操作し、他方がどのように変化するかを調べることができ、両者の連携の仕組みについて検証できると考えています。

    ――呼吸循環のメカニズムを解明できれば、どんなことに応用できますか?
     スポーツ分野では、アスリートに最も効率のよいトレーニングを提案したり、医療分野では、呼吸器や循環器に疾患のある人が運動する際のしんどさを軽減する方法を見つけたりすることができると考えています。

    ――医療人を目指す学生に、運動生理学をどのように活かしていってほしいですか?
     以前は、内科系疾患の患者さんに運動をさせることは禁忌でした。しかし、ここ10~20年はそうした患者さんにも運動療法が奨励されるようになってきました。運動療法は今後の医療に欠かせないものになると思いますし、今の学生たちが運動への理解を深め、正しい指導ができるようになって、これからの医療を担っていってほしいと思います。