千葉セクション(千葉複合セクション)の説明

「千葉セクション」の長所は、地磁気逆転の記録が極めて精度良く復元され、また同時に精密な年代も求められていることです。
この様な地層は世界的に非常に貴重であり、地質時代の決定だけでなく、過去の環境変動の復元にも重要な研究対象です。

千葉複合セクションは、
その中心となる千葉セクションを含む養老川セクション(35˚17.41’N; 140˚8.48’E)のほかに,養老田淵セクション(35˚17.41’N; 140˚8.49’E),柳川セクション(35˚17.15’N; 140˚7.88’E),浦白セクション(35°16.85’N; 140°7.47’E),小草畑セクション(35˚18.52’N; 140˚11.89’E)からなります(下図)。
こういったセクションは地層の特徴や同時に降り積もった火山灰層を追跡して「対比」されています。
この様に、地層を対比して、同時期の地層の積み重なりを調べることは地質学の基本です

千葉複合セクションの地層を柱状に表したもの(柱状図)。TB-2は千葉セクション近傍で掘削されたボーリング試料。ボーリング試料はGSSPにはならないが、千葉複合セクションの連続性を示すために重要なデータとなった。

千葉セクションで発見された地磁気逆転について

過去の地球磁場の様子は、地層中に古地磁気記録(※1)として残されます。古地磁気記録を調べることで、地球を大きな磁石に見立てたときのN極とS極の向きが、過去に何度も逆転を繰り返してきたことが明らかに なっています。最後に起こった地磁気の逆転は「ブルン-松山境界」(Brunhes-Matuyama境界)と呼ばれ、前期ー中期更新世境界GSSPの基準となっています。

千葉複合セクションおよび近傍の掘削試料では、複数カ所において地磁気逆転が既に確認されています(Suganuma et al., 2015;Hyodo et al., 2016;Okada et al., 2017)。とくに千葉セクションと養老田淵セクションは、約60 mほど離れた地層ですが、複数の火山灰によって細かく対比されています(下図)。この両セクションにおいて、「ブルン-松山境界」の地磁気逆転が確認されたことから、千葉セクションにGSSPをおくことを提案することとなりました。






「ブルン-松山境界」(Brunhes-Matuyama境界)の年代は海底堆積物の古地磁気記録から約78.1万年前とされていました。また、この値は、火山岩に含まれるアルゴン(Ar)を分析する40Ar/39Ar法という年代測定法での推定値(78.1〜78.4万年前)からも支持されていました。しかし、40Ar/39Ar 法については、基準試料のArの測定値と年代との対応に複数の見解があったことなどから、一部の研究者の間ではその正確さに疑問がもたれていました。また 近年、海底堆積物や南極氷床コアから他の年代決定手法を用いて推定されたブルン─松山境界年代とのずれも指摘されていました(文献1)。このずれの原因としては、特に海底堆積物の古地磁気記録の獲得に伴う問題が挙げられており(文献2)、従来のブルン-松山境界の年代が真の年代より古く見積もられている可能性が指摘されていました(文献3、4)。

そこで我々のグループは、基準試料の年代値がより正確に決められているU-Pb壊変系を用いることで、より信頼度の高い年代決定を行うこととしました。「千葉セクション」中に見つかった「白尾火山灰(下図)」 と呼ばれるブルン-松山境界付近の火山灰層から、ジルコン粒(ジルコニウムZrのケイ酸塩鉱物)を取り出し、UとPbの存在比を測定しました。このとき、 ジルコン中のごく微量のUとPbの測定には、国立極地研究所に設置されている高感度高分解能イオンマイクロプローブ(Sensitive High Resolution Ion Microprobe: SHRIMPⅡ)が用いられました。測定の結果、地球磁場極性の逆転は、誤差を含めてもこれまでの定説より約1万年遅い約77万年前であることが分かりま した。さらに、地磁気逆転までの詳細な変化と、当時の海洋の酸素同位体比の変動を極めて高時間分解能で復元し、世界の他地域での海底堆積物や南極氷床コアの分析から求められた年代と比較しました。その結果、この新しいブルン-松山境界年代値が整合的であることを確認しました。



本研究の特に画期的な点は、ブルン-松山境界に非常に近い火山灰に注目したこと、新たに超高分解能で地層の古地磁気を測定したこと、そして、 非常に微量のUやPbを精密に測定できる最新の技術を導入した上で火山灰中のジルコン粒を一つずつ大量に測定したことにあります。これらの全ての面で既存 の研究を上回る精度で地磁気逆転の年代を決めたことが今回の成果に繋がりました。

また、本研究で対象としたブルン-松山境界の年代は、40Ar/39Ar法で求められた年代と他の年代測定法を比較する際の基準の一つになっています。そのため、ブルン-松山境界の年代値が修正されると、これまで40Ar/39Ar法によって求められてきた他の地質時代境界、例えば約6600万年前とされている白亜紀-古第三紀境界(いわゆるK–Pg境界)などの年代が改められる可能性があります。

詳細は、国立極地研究所プレスリリースへ <リンク


※1 古地磁気
岩石などに残留磁化として記録されている過去の地球磁場(地磁気)を解析する地球物理学・地質学の一分野。火山岩や堆積岩には、それができた時のできた場所の磁場が記録されており、それを分析することで、地磁気の逆転や大陸移動の様子などを調べることができる。

文献1: Suganuma Y., Yokoyama Y., Yamazaki T., Kawamura K., Horng C. S., Matsu-zaki H., Be-10 evidence for delayed acquisition of remanent magnetization in marine sediments: Implication for a new age for the Matuyama-Brunhes bound-ary, Earth Planetary Science Letters, 296, 443-450. 2010.

文献2: Suganuma Y., Okuno, J., Heslop, D., Roberts, A.P., Yamazaki, T., Yokoyama Y., Post-depositional remanent magnetization lock-in for marine sediments deduced from Be-10 and paleomagnetic records through the Matuyama-Brunhes boundary, Earth Planetary Science Letters, 311, 39-52, 2011.

文献3:菅沼悠介、Brunhes-Matuyama境界年代値の再検討, 第四紀研究、51, 297-311, 2012

文献4:Suganuma Y., A Reassessment of the Matuyama–Brunhes Boundary Age Based on the Post-depositional Remanent Magnetization (PDRM) Lock-In Effect for Marine Sediments, STRATI2013, Springer.