砲弾型から風船型へ ~IT社会を導く為のパラダイム変化~

posted May 7, 2011, 8:27 PM by Makoto Yokozawa ‎(MOIS.ASIA)‎   [ updated May 8, 2011, 2:36 AM ]
日経デジタルコアのコラム投稿を元にした復刻版です。(当時のものを元に改変しています。)


あまりマスコミでは取り上げられていないようだが、年度替りに前後して今後の日本社会の情報化を左右しそうな、政府の動きがいくつかあった。総務省や経済産業省から、デジタルIDや情報家電など、いくつかの重要なテーマに関する委員会が報告書をとりまとめたり、新たに活動を開始した。更にe-Japan戦略政策の評価を行う「評価専門調査会」が、中間報告書をまとめ、新たなベンチマークの為の考え方を提言している。今回は、これらの動きについて少し考えてみたい。

■実績のある砲弾型政策
これまでの日本の政策立案は、事前に時間をかけて議論を重ねて間違いが少ないように万全の準備をするタイプであったと思う。実際には必ずしも理想的には行かないケースも多く、時間切れ見切り発車となる事もしばしばであったが、入念に計算を行って後のふらつきが無いようにするスタイルは、いわば砲弾型の政策展開といえる。
社会全体の変化が今と比べてまだ小さく、価値観もそれほど多様でなかった時代には、こうした入念な政策立案が有効だったのだろう。専門外なので詳細に調べたわけではないが、おそらく時代が大きく動くとき以外は、砲弾型のスタイルの方が分かりやすくもあり、運用の為のコストも少なく済む方法だったのだろう。反面で、一度始めたら後戻りできない事の弊害も、前世紀末あたりから目立ってきた。有明湾の埋め立てや、各地のダム建設の見直しなども、そうした認識を反映したものだといえよう。

■情報化社会にふさわしい政策立案スタイルとは?
情報化社会に向けての変化のスピードは早く、入念な砲弾の軌道設計しているうちに戦況が刻々と変化してしまうような状況である。また、価値観もますます多様化して、絶対唯一の正解というものがそもそも存在しにくい。
一方で、明確な政策や判断基準が存在しない事による弊害も、刻々と深刻になってゆく。個人情報や知的財産の保護については、次第に整備が進められようとしているが、匿名掲示板の利用や、電子商取引の暗黙ルールなどをめぐっては、様々な見解が錯綜しており、その利用自体が憚られてしまう事も少なく無いだろうと思う。
実は、e-Japan政策については、このコラムでも取り上げられる事が多いが、砲弾型政策立案からの脱却という観点で隠れた意義があると思う。3000万世帯の高速インターネット接続、1000万世帯の超高速インターネット接続を2005年までに実現するとした、野心的な政策であったが、同時に進行に際して評価と見直しを行う事が、あらかじめ明確に盛り込まれていた。
砲弾型の政策立案スタイルに対して、随時風向きと目的地の妥当性について判断しながらナビゲーションを進めてゆく、風船型のスタイルという事ができる。

■風船型スタイルの成立する条件
風船というからには、最低限備えていなくてはならない条件がある。まず、最初に風船を打ち上げるときに、どこへ向かおうとしているのか、経由地はどこか、そのための最初の舵取りの方位はどっちなのかなどを、分かりやすく説明しておく必要がある。また、運行中は周囲の状況と風船自体の状態について、誰からでも分かるようになっていなくてはならない。
続いて、船頭多くして混乱しないように、明確な情報に基づいた、地図と測位手法、データが必要である。政策のベンチマークとして、諸外国でも様々な手法が考案されているが、情報化の時代に即した手法を開発する必要があるだろう。
最後に、航路の修正が間違いなく行われるように、システムを作っておく事が必要だ。実行の段階にまで来ている政策は、ややもすると中断や修正に対して多くのエネルギーを必要とすることがあるが、バランス感のある身軽さがこれからは求められるだろう。
中でも最も重要なのが、「オープンで適時性のある情報」である。ベンチマークを行うための基礎データが無いことには評価もままならないし、社会全体の納得感も得られない。情報化社会においてリーダシップをとり、円滑にナビゲートするために一番重要なのが、やはり「情報」なのだと思う。

■政策のベンチマーク手法を早急に確立する事が必要
3月末に出された内閣府の「評価専門調査会」中間報告書においては、2005年をゴールとする日本政府のIT戦略政策の進捗について、詳細な評価が行われている。残り2年をきった2004年の段階で、率直に評価できる点と、更なる努力が必要な部分について、施策担当者と外部有識者の共同作業によるチェックが行われた。詳しくは内閣府ホームページから入手できる報告書を参照していただきたいが、こうした「政策ナビゲーション」には、政策評価の手法が重要である。
変化の激しい時代だからこそ、その変化を読む為の努力が、国家レベルでも、個人のレベルでもますます求められるようになっていく事だろう。

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