vol.7 萬代基介(後編)

建築が建築として成立する限界点を模索する建築家、萬代基介(後編)

若手建築家のインタビュー。前回に続く萬代基介の2回目では、彼が手がけたもうひとつの東北復興プロジェクト、そして幅広い活動を支える彼の方法論について話を聞いた。



もう仮設の建物は観たくないという声に応えて

萬代基介は鮎川浜でもうひとつ別の復興プロジェクトも手がけている。「石巻市復興まちづくり情報交流館 牡鹿館」は地域の復興情報や観光情報、歴史などの展示、地域住民や観光客の交流を目的とした施設だ。この建物は復興事業が完了するまでの仮設的な施設して計画されているため、軽量鉄骨を用いた簡素なデザインで安価に建設できることが求められた。

「設計の条件が厳しかったのは事実です。市から提示された予算と工期は、普通のプレハブの建物と同じです。けれども地元の人たちはそんなことは知りません。ただ『家も店も仮設なので、もうこれ以上、仮設の建物は見たくない』という声が大きかった。このギャップをどう埋めて、いかにいいものを作るかが、自分に与えられた役割だと思いました」
  
写真(上)/石巻市復興まちづくり情報交流館 牡鹿館 Ishinomaki Community & Info Center in Oshika 
2016 Photos by Mandai Architects(2枚とも)
(上)外観。建物の外周部は可動式の透明な建具で囲われている。建具を開け放つと、前面道路に向かって建物が広がり、人々を迎え入れる環境が生まれる。
(下)建物の内部。展示室や談話室として使われる部屋は、壁の一部が回転式のパネルになっている。パネルをオープンにして、部屋の外と内を繋げた展示を行うこともできる。

完成した交流館は、「おしか番屋」と同じように、大きな屋根の下に小さな部屋があり、その周りが開放的な半屋外空間となっている。この半屋外空間の外周部には簡易的な透明な引き戸が巡らしてある。この引き戸を開閉することで、街と建築の関係がダイナミックに変化する。
「自分の個性をどう出すかよりも、普通にいい建築をつくりたいと思いました。自分のような建築家が被災地の復興に関わることの評価は、そう簡単には決められないと思います。それは数十年後という時間のスパンを経て、初めて答えの出る問題だと考えています」
 



答えのないものを追求してくところにこそ建築の面白さがある

萬代は建築の設計と並行して、店舗の空間デザインや展覧会の会場構成も手がけている。彼が作り出す展示空間は、独特の浮遊感が際立っている。まるで商品や展示物が支持体なしで宙に浮かんでいるような空間。この浮遊感を可能にしているのは、フォルムを構造的にぎりぎりのところまで削ぎ落とした什器のデザインだ。そこには彼の方法論が建築以上にストレートに現れているとも言える。

「基本的な考え方は建築と同じです。ただし建築の場合は法規の網がかかっているので、構造の限界はそこで自動的に決まってしまいます。しかしインスタレーションや展示ではその制限の枠組みがない。どこまでやるかというボーダーラインを自分で設定することができるわけです」
 
写真(上)/ 日本橋木屋 本店 izutuki KIYA Nihonabashi main store izutuki 2014  Photos by Yasuhiro Takagi. 
日本橋にある老舗刃物店の内装。個々の商品に合わせた小さな棚板はスチール、突き板、FRPのハイブリッドで、小口の厚みは2ミリしかない。棚板の存在感を極力消すことで、職人の手で作られた道具の数々が最も美しく見える空間を実現している。
 
写真(上)/MINA-TO spiral 2016 Photo by Yasuhiro Takagi
青山のスパイラル内にあるコミュニケーションスペースの内装。繊細なステンレスメッシュを曲面状に組み合わせて作ったキューブが展示用の什器。軽やかなキューブは、光線の具合によって、存在感を主張したり、ほとんど見えなくなったりと、さまざまに表情を変える。

建築として成り立つかどうかのボーダーラインを可能な限り自分で設定するという考え方は、彼が石上純也の設計事務所で働いた経験とも無関係ではないだろう。従来の建築の限界を超えようとする石上の発想からは大きな影響を受けたという。

「石上事務所に入って、『これまで大学や大学院で学んだことはいったい何だったのだろう?』と思うほど、建築に対する意識が大きく変わりました」と萬代は語る。建築に対する既成概念を一度白紙に戻したうえで、自分なりの方法論で建築の本質を掘り下げていく。彼にとっての設計とは、決して終わることのない探求の営みなのだ。

「高校生の頃は物理がすごく好きで、絵を描くのも好きでした。でも建築にはあまり興味はなくて、安藤忠雄さんの名前も知りませんでした。
建築が面白いと思ったのは大学に入ってからです。今も建築には底知れない奥深さを感じています。いくら深く掘り下げても、よく分からないところがあって、正解というものがありません。答えのないものを追求してくところにこそ、建築の面白さがあるのだと思います」

建築が建築として成立する限界点とは何か。その探求を現実の建築や空間に落とし込みつつ、建築と人間のより豊かな関係を模索する。大胆さと熟慮が共存する彼の試みはまだ始まったばかりだ。
 


【プロフィール】
萬代基介(まんだいもとすけ)
1980年神奈川県生まれ。2003年東京大学工学部建築学科卒。2005年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。2005〜2011年石上純也建築設計事務所勤務。2012年萬代基介建築設計事務所設立。2012年〜2015年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手。2016年より東京大学非常勤講師。


取材・文/鈴木布美子、撮影/岸本咲子、コーディネート/柴田直美


建築家にアンケート 萬代基介
Q1. 好きな住宅建築は?
A サヴォワ邸/スカイハウス
Q2. 影響を受けた建築家は?
A フラー/ミース/妹島和世
Q3. 好きな音楽は?
A ゆるめの音楽
Q4. 好きな映画は?
A ゆれる
Q5. 好きなファッションは?
A かわいい服。
Q6. 自邸を設計したいですか?
A 隠居したらしたいです。カプマルタンの小屋のように。
Q7. 田舎と都会のどちらが好きですか?
A 都会で育ってしまったので、田舎への憧れがあるかも。
Q8. 最近撮影した写真は?
A 京都の紅葉。
Q9. 行きたいところは?
A ベネチア/インドネシア/インド/ブラジル
Q10. 犬派ですか? それとも猫派?
A 飼ったことないけど猫派。


もし何の条件も制限もなかったら、建築家はどんな家を考えるのか?

「夢の家プロジェクト」

【夢の家プロジェクト】

今回の連載に登場する建築家の皆さんに、それぞれの考える「夢の家」を描いていただいた。「夢の家」の条件は「住宅」という枠組みだけ。実現可能性や具体性にとらわれず、各自の創造性や問題意識をぞんぶんに活かし、自由にイメージをふくらませて考えていただいた作品だ。

萬代基介が考える「夢の家」
 
「自然と共に生きるための家。大きな自然の中にある様々な環境の中でゆったりと暮らす。建築が環境をつくるのではななく、今ある環境の中に建築がひっそりと寄り添うように建つ。洞窟の中の寝室、川沿いの食堂、森の中の書斎、牧場の作業小屋、湖畔の展望台、草原の台所……それらをトコトコと歩き、大きな地球を旅をするように暮らす家」
                                            萬代基介