はじめに

  今では、その説明をする必要さえ無くなり始めている「GIS」。これが「システム」なのか、「科学」なのか、「サービス」なのか、あるいは「ソフトウェア」なのか...議論は大きく分かれるところではあるが、情報技術を駆使して「空間情報」を扱うという点に関しては総意を得る事ができるであろう。1960年代に、地理学から産まれた「GIS」は、現在では情報諸科学の参入が活発化している。また、応用分野での普及という点では、人類学や歴史学、考古学、民俗学といった分野におけるGIS利用も活発化し、今では一般的なツールとして受け入れられている。

  GISが登場し始めてからの50年間、GISの発展は情報技術の技術水準に依存する部分が多かった。当初は、非常に単純な二次元のベクトル図形と、極めて低解像度のラスタしか扱えなかったが、現在では、複雑な3次元図形や高解像度のラスタ画像を扱えるようになった。より大容量のデータを扱えるようになると、今度は、そういったデータを扱うための仕組みや、解析手法が開発されるようになった。今では、時系列で変化する事象をGIS上で扱う試みも増加しており、都市における人の流れや、大気や水質といった環境に関わる研究などで用いられている。

  さて、GIS上で「時間と空間」を同時に扱うという試みが進められていくと、「時間」を巡って「ある疑問」が湧いてくる。すなわち、現在では「年・月・日・時・分・秒」といった単位で「時間」を扱うことが一般的であるが、あらゆる「時間概念」はこれらの「単位」のみで扱いきれるのか?という疑問である。生物の進化速度、考古学の土器の様態の変化速度、思い出の残存/消失速度などは、相対的な変化であり、必ずしも、従来の「時間」では扱いきれない。それにも関わらず、GISが、こうした多様な時間概念の実装を必要とするのであれば、既成概念にとらわれず、多角的な視点から「時間」について検討する必要がある。「時系列」に対する、一種の「疑惑」とこれに代わる概念を考える必要もある。

  「時間GIS研究」は、この途方もない「疑問」に対して、分野や専門あるいは立場を問わず、あらゆる人々が対等に「時間」について議論し、「GISにおける時間の根本概念の整理」と、そうした概念の整理に基づく、「GISにおける時間の実装の実現」を目指すものである。本研究会では、「理哲工文」を問わず、あらゆる分野の方々との分け隔てない情報交換を通して、この難問に取り組むとともに、GIS研究の新たなる展開に寄与したいと考えている。

時間GIS研究会会長 藤本 悠