排泄ケア総合研究所(排総研

排泄に関する問題を理解し、必要な知識とスキルを身につけることで、みんなが快適に生活できる社会の実現する目的のために活動します!!

 ※スローガン:「みんなが快適に生きるための排泄革命」

         「排泄の問題を解決し、快適な社会を築こう」

         「知識と協力で、快適な排泄ライフを実現する」

         「排泄に関するスキルを学び、共に創り上げる快適社会」

はじめに


病気、老齢、または障害のために入院した後、患者は日常活動を行う能力の低下を経験し、排泄の問題を抱えて退院する場合があります。 介護保険サービスがあるにしても、自宅での介護は難しい場合があります。

食事に関しては、利用できるさまざまな情報や器具機材が身近にありますが、排泄ケアはしばしば汚名を着せられ、恥ずかしい、または他人の責任と見なされます。

おむつを不必要な方にまで使用するケースがあります。また、不適切な使用方法によって漏れや頻繁な交換等につながるケースがあります。一部の人々は、排泄の問題によって外出が制限され、うつ状態になることもあります。こうした人々に対し、身体的および心理的なニーズを考慮したサポートや教育の提供が重要となります。排泄の問題は避けられない生活の一部だからです。

 

そこで、排泄ケアの知識と手技を分かりやすくお伝えするために、この教本を書きました。失禁を恥ずかしく思ったり落胆したりしている方、ご家族、介護者、一般の方を読者対象にしています。

また、理事長特命による排泄ケア総合研究所(排総研)の設置と関連事業の展開を受け、排泄に悩む方とそのご家族・介護者のサポートはもちろん、医療・福祉機関との連携も図っていきます。協力体制を促進し、基本的な知識とスキルで排泄ケアの解決に結び付けます。

 

この本を世に出す最大の目的は、より多くの人々が、一般的な排泄の問題について学び、必要な知識とスキルを身につけ、誰もが快適に暮らせる社会づくりを目指し、協調する機会を提供したいと考えたからです。 

 

この本が、排泄ケア総合研究所の排泄ケア相談員養成研修や認定を目指すための指針となる教本として、また、排泄問題を理解しようとする人々の自己啓発に役立つことを願っています。

失禁という用語 

「失禁」という言葉は、オランダ語のlekheid(漏れ)の訳語として蘭方医によって考案された言葉です。「禁」という字には、「ふさぐ」「とどめる」といった意味があり、「失」という字は「あやまち」や「そこなう」といった意味があります。このことから、「失禁」は「とどめそこなう」という意味で作られた言葉だと考えられます。つまり、失禁とは、自分の意思とは無関係に、排泄が起こってしまうことを指します。「禁」は自分でコントロールすることを意味し、「失」は文字通り「なくす」、「うしなう」を意味します。両方を合わせると、「失禁」は排泄のコントロールを失うことを意味します。

 

逆に考えると、「失禁」の反対語は日本語では「禁制」となります。つまり、排泄などのコントロールができていることを意味します。英語では、「continence」という言葉が使われ、節制や抑制を意味します。「禁制」の反対語は「失禁」であり、コントロールを失った状態を指します。英語では、「incontinence」という言葉が使われ、排泄の自制ができない状態を指します。

 

「おしっこ」という言葉の語源については、「お」という接頭語は御を意味し、美化語の表現です。「し」という字は、江戸時代の女性が用いた言葉「しし」あるいは「しーしー」に由来し、小便を表します。「っこ」は、接尾語の「こ」で、何かをする行為を表わすものです。例えば、「かけっこ」や「にらめっこ」などがあります。

 

一方、「うんこ」という言葉は、「うん」といういきむ声に、接尾語「こ」が付いたものです。他方では、「阿吽」の阿ははじまりを表し、「吽(うん)」を終末として関連付ける説もあります。この説では、中国仏教で大小便を最終産物の「吽」と呼び、大小便の溜まり場を「吽置(うんち)」としていたことから、そのことが日本に伝わったようです。

 

一般社会を見渡すと、どの業界にも独自の言葉使いがあり、それを理解している人にとっては効率的ですが、理解していない人にとっては混乱を招きます。これらの業界用語を使うことは一見、合理的で効率よく思えますが、業界以外の人や専門的な経験知の乏しい人々にとっては誤解を招き、重要な情報が伝わらない可能性があります。

 

そのため、業界用語等の専門用語、または省略語等はなるべく避け、平易な言葉を使うようにしたいと考えますが、逆に業界人や専門家にとっては難しいことなのです。しかし、たとえ難解な専門用語であっても、時間をかけて丁寧に解説することで、誰もが意図したメッセージを理解できるようになると思います。多くの人の理解が進めば、存在意義や効率的生産性が向上します。

 

しかし、一方または両者が専門用語を学習しない限り、コミュニケーションが成り立たないことになります。つまり、その用語の学習には、多くの時間と労力が必要になります。海外旅行で言語の壁に遭遇した時を創造してください。それも、言葉の習得が面倒な高齢になってからは、特に言語の壁を克服するには苦労すると思われます。同様の問題は、医療や介護・福祉を求める人にとっても同様です。これは、患者と医師との間のコミュニケーションの問題にもなり、医療の質の低下につながる場合があります。

 

そこで、排泄ケア総合研究所(排総研)は、排泄ケアに特化したサポート、教育、および広報活動を通して、このコミュニケーションギャップを埋めることに挑戦しようと考えています。本来なら、排泄は生物としての基本的な営みであり、義務教育の中で触れられていれば、専門用語でなく一般用語・一般教養となります。

 

大きな書店に行くと食事や料理に比べて排泄に関する本は少ないですが、社会で排泄ケアの意識を高めることは重要です。紙の消費は文化のバロメータとも言われていました。しかし、現在はインターネットや情報機器の普及でペーパーレス化し、この言葉は死語になっています。明治維新には、江戸時代に一般的なヘアスタイルであった「ちょんまげ」を切った「散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」との流行語が、現代は「スマホやパソコンを叩けば文明開化の音がする」とでも言うべき時代が到来しています。

 

また、若者は時事に疎く新聞を見ないとのこと。教育者に聞くと自宅に新聞紙を持たない子供たちが多数いると聞きます。求人広告を新聞に載せても若い対象者に繋がらないのは最もで、ホームページやSNSでの広報が効率的かつ効果的である所以です。つまり、情報が既に電子に置き換わっていることから、この教本も電子書籍として、アマゾンから供給してもらうことにしました。そうした活動が、社会のより多くの皆さん方に生きるための排泄に興味を持っていただき、その結果として、排泄ケアへの理解が深まり、誰もが快適に生活できる環境に向けた社会貢献につながると確信しています。 

吽育(うん育)のすすめ 

「生きることは食べること」とよく言われますが、私共が運営するひまわり保育園の厨房には、子どもや保護者が食事を作る様子が見える「食育の窓」を設けています。食育の目標は、人々に食について教え、健康的な食生活を身につける手助けをすることです。しかし、私たちは「生きることは排泄すること」を忘れてしまっているようで、学校の多くの子どもたちがトイレでストレスや恥ずかしさを感じています。

 

著者は最近、多くの糖尿病患者が自分の病気の名前に感じる不快感についての記事を読みました。この不快感は、差別や偏見につながる可能性があります。著者は臨床検査技師として、大便が人の健康に関する重要な情報を提供していることを知っています。しかし、現代社会では、身体の機能が不潔だとか不都合だとか、議論したり、認めたりすることを避けがちです。

 

この問題を解決するために、子どもたちが排泄の重要性を学び、自分自身の健康に関心を持つことを目的とした「便育」という活動を推進している人々がいます。排泄は生命の自然で必要な部分であることを理解しておくことが重要であり、排泄について話したり、関連する問題に対処したりすることを恥じるべきではありません。

 

そこで、諸説ある「うんち」の語源の阿吽説から最終産物の意を汲んで「吽育(うん育)」との用語を造語してみました。つまり、「吽育(うん育)」とは、排泄の意味を知り、自分たちの生活を振り返り、自分自身の健康や生活に興味を持って欲しいという活動です。まさに、今こそ「吽育」が必要になっていると考えます。 

雑学の効用と排泄トリビア 

トリビア(雑学)には多くの利点がありますが、その1つは、新しいことを学ぶ機会を与えてくれることです。また、さまざまな分野の知識を結び付け、専門用語などによって生じる障壁を打ち破るのにも役立ちます。新しいことを学ぶことで、視野が広がり、想像力が豊かになります。

トリビア(雑学)は脳を活性化し、日々のモチベーションを高めてくれます。では、排泄にまつわる次の選択式問題に答えてみましょう

 

1.トイレで流水音を奏で排泄音を消す「音姫」の起源はいつ?

①   江戸時代

②   明治時代

③   大正時代

④   昭和時代

解説:正解は①江戸時代です。

女性はトイレで音が出るのが恥ずかしいと感じることがあります。しかし、「2度流し」をすると水道料金が高くなってしまうため、女性専用の音を消すための「音姫」が普及しています。実は、江戸時代にも排泄音を気にすることがあり、身分の高い女性たちは「音消し壺」と呼ばれる装置を使っていました。この装置は、お手伝いの人が壺の栓を抜くことで、ちょろちょろと水がこぼれる音で排泄音を隠していたのです。現代の「音姫」は、この「音消し壺」が原点となっています。また、「音姫」を設置するだけで、ランニングコストを抑えることができます。

 

 

2.清涼飲料1瓶にビタミンC1000㎎含有。その成人1日必要量は?

①  10㎎

②  100㎎

③  1000㎎

④  5000㎎

解説:正解は②100㎎です。

アスコルビン酸としても知られるビタミンCには、いくつかの利点があります。最も重要な利点は、コラーゲンを生成する能力です。また、体内の酸化を防ぎ、鉄の吸収を助けます。ビタミンCは体内で生成できないため、毎日の食事で摂取することが不可欠です。ビタミンCは水溶性で、大量に摂取しても過剰に体内に蓄積されません。代わりに、余分な量は尿を通して排泄されます。

 

 

3.魚はエラ、人は肺と皮膚、ミミズは皮膚呼吸。腸呼吸する動物は?

①   カブトムシ

②   ドジョウ

③   カタツムリ

④   カエル

解説:正解は②ドジョウです。

呼吸は排泄の一形態です。昆虫は皮膚呼吸を使用して気門を介して呼吸しますが、カタツムリは肺で呼吸します。オタマジャクシは孵化後、えらで呼吸しますが、成体のカエルは肺と皮膚で呼吸します。ドジョウは通常、水中ではえらで呼吸しますが、泥などの低酸素環境では、腸呼吸に切り替えて、腸から酸素を取り入れます。驚くべきことに、人間の腸粘膜には毛細血管が密集して分布しており、酸素吸入の代わりに血液で腸を満たして腸呼吸を可能にすることができます。新しい研究は、コロナウイルス感染COVID-19 パンデミックによる体外膜型人工肺 (ECMO)の不足に対処するために、腸呼吸による人工肺の開発に着手しています。

 

 

4.人間の大便を分類するために使用するスケールの名称は?

① レジナルドスケール

② グウェンドリンスケール

③ ブライアンスケール

④ ブリストルスケール

解説:正解は④ブリストルスケールです。

イギリスのブリストル大学の研究者であるヒートン博士は、1997 年にブリストル便形態尺度(BSスケール)を提唱しました。各スコアの特徴は次のとおりです。

1:硬くてナッツのような便

2:いくつかのかたまりのあるソーセージのような便

3:滑らかで柔らかい、ソーセージ(バナナ)のような便

4:軟便、半固形便

5:不規則な形の便、境界がはっきりしない

6:水様便

一般に、BSスケール1~2は便秘、3~5は正常な便、6~7は下痢に分類されます。

 

 

5.人の腎臓は生涯で約4.2k㎥の血液をろ過するが、どの湖を満たすのに適量か?

①  猪苗代湖(福島県)

②  諏訪湖(長野県)

③  浜名湖(静岡県)

④  摩周湖(北海道)

解説:正解は③浜名湖(静岡県)です。

湖の貯水量は猪苗代湖(福島県)54k㎥、摩周湖(北海道)27.5k㎥、諏訪湖(長野県)0.14k㎥であり、答えは浜名湖(静岡県)の3.5k㎥を満たす十分な量です。

クレアチニンクリアランス (CCr) は、老廃物であるクレアチニンが腎臓の糸球体によって1分間にどれだけろ過されるかを測定する臨床検査です。腎機能が低下するとCCr値が低下します。 

CCr値を100㎖/minとすると、80年で4.2k㎖が血液からろ過されます。計算式は、100㎖/分✕60分✕24時間✕365日✕80年間=4,204,800ℓ=4,204㎥=4.2k㎥

 

 

6.平均的寿命の人は、生涯で排泄のためにトイレに居る時間はどのくらい?

①   女性40日、男性20日

②   女性80日、男性40日

③   女性400日、男性200日

④   女性800日、男性400日

解説:正解は③女性400日、男性200日です。

性別、排尿でのトイレ内時間、排便でのトイレ内時間、平均寿命、トイレ利用開始年齢を考慮して、女性では(2分✕7回+5分)✕365日✕(87-2)才=589475分=9824時間=409日となります。男性では(1分✕7回+4分)✕365日✕(81-2)才=317185分=5286時間=220日となります。ただし、便秘の場合は短く、生理や化粧直しなどで長くなることがあります。

 

 

7.日本の公衆トイレの起源はいつ?

①  江戸時代

②  明治時代

③  大正時代

④  昭和時代

解説:正解は②明治時代です。

江戸時代の長屋には共同トイレがありました。しかし、幕末に横浜港が開港すると、外国人が来るようになり、公衆の面前で小便をすることが多くなりました。この行為は厳しい罰則付きで禁止されましたが、あまり役に立ちませんでした。そこで、1872年に横浜に日本で初めての公衆トイレが作られました。毎日排泄物を汲み取り、衛生面に気を付けたとのことです。

 

 

8.コアラの子どもが親の大便を食べる理由は?

①  栄養素の獲得

②  腸内細菌の獲得

③  水分の獲得

④  臭気の獲得

解説:正解は②腸内細菌の獲得です。

コアラが主食にしているユーカリの葉には他の動物が食べると死に至るほどの猛毒があります。しかし、コアラは腸内の特別な細菌のおかげでユーカリを消化することができます。しかし、コアラの赤ちゃんは、このバクテリアを持っていない状態で生まれるため、親の糞を食べて、ユーカリを消化するために必要な細菌を獲得します。

 

 

9.マッコウクジラの糞結石を見ることができるのはどこ?

①   海底に沈殿している

②   海面浮遊で海岸漂着

③   海中に拡散溶解する

④   糞をしないのでみえない

解説:②海面浮遊で海岸漂着です。

マッコウクジラの主な食料は丸呑みが可能なイカ類で、そのイカには消化しにくい硬いくちばしが含まれており、不消化のエサを消化分泌物で結石化させ排泄したものが龍涎香(リュウゼンコウ)と考えられています。マッコウクジラの漢字表記は「抹香鯨」で、マッコウクジラから排泄されたアンバーグリス(マッコウクジラの体内で作られた結石)は、水より比重が軽いため海面に浮き海岸まで流れ着きます。このアンバーグリスを中国では龍涎香と呼び「龍のよだれが固まったもの」とされ、大理石状の模様を持つ蝋状の固体で芳香を持ちます。日本では香料として伝来しましまた。

 

以上、排泄に関する四者択一問題について、正解できましたでしょうか。問題作成は容易にできると考えましたが、かなり困難さを感じました。著者の問題や回答に誤りをみつけた場合、または共有すべき新しい情報がある場合は、是非ともお知らせください。 

体液の成分と働き 

1.生体の恒常性(ホメオスタシス)について

生体の恒常性とは、体温や血糖値、免疫力など、環境や体内の変化があっても体を安定した状態に保つことです。恒常性を維持するためには、正常な呼吸、循環、排泄、食物摂取が必要です。また、恒常性の維持には、神経系、内分泌系、および免疫系が関与します。

 

恒常性を維持できないと、病気になったり、死に至る可能性があります。血液やリンパ液などの体液は、内部環境の濃度、pH、および温度を調節することにより、恒常性を維持する上で重要な役割を果たします。 

 

これらの液体は、私たちの体の60 兆個の細胞の機能を支えています。神経、内分泌腺、および免疫系は、恒常性を制御する役割を担っていますが、血液とリンパ液は実働物質として機能しています。生体機能は、恒常性を維持するためのフィードバックメカニズムとして機能します。

 

2.フィードバック メカニズムについて

フィードバックメカニズムは、体がバランスを維持するのに役立ちます。センサーの役割をするレセプターが環境の変化を検出し、必要な調整を行うコントロールセンターである調節中枢に情報を送信し調整が行われます。

 

3.外部環境と内部環境の違いについて

私たちの体は約60兆個の細胞で構成されており、それらが私たちの身体内外の環境基盤を形成しています。

 

外部環境とは、空気、温度、湿度、光、音など、私たちの体の外にあるすべてのものを指します。それは私たちの体を取り囲み、常に私たちに影響を与え、生命を維持しています。

 

一方、体内環境は、私たちの60兆個の細胞一つ一つを取り巻く環境です。血液などの体液が酸素と栄養素を細胞に届け、老廃物を取り除く環境です。この環境は細胞生命を維持するために不可欠であり、細胞外液と呼ばれます。

 

4.体液の組成

体液は、細胞内液と細胞外液に分類できます。細胞内液は細胞の中にあり、細胞外液は細胞の外にあります。細胞外液はさらに血管内(血漿、リンパ液、脳脊髄液)と血管外(間質液)に分けることができます。

 

間質液は、細胞の外側や組織間にある液体成分で、血液に由来し毛細血管から滲出します。 細胞膜を介した細胞との物質交換により、細胞への酸素と栄養素を届け、細胞からの老廃物の除去を仲介します。

 

5.体液量について

体内の水分量は、性別や年齢によって異なります。体液量が体重の約60%の男性に比べて、女性は体液量が少なく、体重の約55%です。乳児は体液の割合が高く、約75%ですが、成人では約60%に減少します。さらに、高齢者は成人よりも体液の割合が低くなります。(次の図参照)

 

6.体に必要不可欠な水

体は安定した内部環境を維持するために水分を必要とします。これを恒常性と呼び、外界がたえず変化していても、体内の状態(体温・血液量・血液成分など)を一定に保ち、維持することです。

 

水は、栄養素、老廃物、酸素、電解質などの多くの物質を溶け込ませることができ、生命維持のための体内代謝にとても重要です。水は体内を循環し、さまざまな物質を運ぶことで、恒常性を維持するのに役立ちます。

 

水は比熱が大きいため、温度を変化させるには多くのエネルギーが必要です。このことにより、体温を安定に保つことができます。水の比熱が低いと、環境の変化によって体温が変化しやすくなります。体温の変化で体内のタンパク質が損傷を受けると、死に至る可能性があります。

 

一方で、水は皮膚から汗として蒸発することにより、体が熱を放散するのを助けます。これは、水が液体から気体に変化する気化熱エネルギーとして、蒸発するときに体から熱を奪うためです。

 

7.体液量の調節機構について

成人は通常、1,500mlの水を飲み、800 mlを食事から摂取し、代謝によって200 mlを生成します。(次の図参照)

 

つまり、体は2,500㎖の水を排泄し、そのうち1,500㎖が尿、200㎖が糞便、700㎖が不感蒸泄*で失われ、100㎖が汗として排出されます。

 

成人の腎臓は体内の水分量を調節し、1日に約160,000㎖(160ℓ)の水をろ過しますが、尿として排泄されるのはわずか1,500㎖です。脳の一部である視床下部は、水分バランスを調節する機能を持っています。抗利尿ホルモン(ADH)と呼ばれるホルモンを生成し、体がより多くの水を必要とするとき、腎臓での水の再吸収を増加させます。

体内の水分が過剰に失われると、脱水症状が起こり、発汗、発熱、下痢、嘔吐などの症状を引き起こします。また、視床下部は、のどが渇いたときに水を飲むように指示します。

 

※不感蒸泄(ふかんじょうせつ)とは

呼気に含まれる水蒸気や感知できない程度に皮膚から分泌される汗などです。不感蒸泄の量は1日で700〜900㎖にもなります。

 

8.体液の成分について

体液はさまざまな成分で構成されています。体液には、細胞内液、細胞外液、血管内液、間質液などさまざまな種類があり、それぞれ成分が異なります。ただし、それらはすべて、一定の生物学的バランスを維持するのに役立つ電解質を含んでいます。

 

電解質は、水に溶けてイオンを形成する物質です。細胞外液には、海水の組成に似たナトリウムイオン、重炭酸イオン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、塩化物イオンなどが多く含まれています。細胞内液には主にカリウムイオンが含まれています。

 

体液に含まれる主な電解質は、カルシウム、ナトリウム、塩素、カリウム、リン、マグネシウムです。カルシウムは主に骨と歯に見られ、ナトリウムと塩素は細胞外液の浸透圧*を調節します。カリウムは細胞内液に豊富に存在し、細胞内液の浸透圧*とpHを調節します。リンは骨に存在し、浸透圧*とpHを調節します。マグネシウムは生体内で約50~60%がリン酸塩や炭酸塩として骨に沈着しています。残りの約40%は筋肉や脳、神経に存在し、その機能を維持するのに役立ちます。

 

電解質は、体液の分布を調節して恒常性を維持するだけでなく、体液の浸透圧*と酸塩基バランスを維持し、正常な神経と筋肉の反応を確保する上で重要な役割を果たします。

 

※浸透圧とは

浸透圧とは、2つの濃度が異なる液体が半透膜(水は通しますが、水に溶けている砂糖などの分子は通さない膜)を介して隣り合った時に、濃度を一定に保とうとして水分が濃度の薄い側から濃い側に移動する圧力のことです。

また、体液の浸透圧を一定に保つことを浸透圧平衡といいます。脱水によって体から水分が失われると、体液がより濃縮され、浸透圧が上昇します。 浸透圧平衡を維持するために、腎臓は尿細管でより多くの尿を再吸収し、体液の量を増やして浸透圧を安定したレベルに保ちます。

 

※血液中の電解質濃度等については、次の図に示す検査伝票にある基準値(正常値)を参照。


9.浸透圧について

細胞膜、毛細血管壁、尿細管壁は半透膜の性質を持っています。この膜は、水分、無機塩、アミノ酸、単糖などの低分子量物質は自由に通過させますが、タンパク質などの高分子量物質は通過できません。

 

濃度の異なる2つの液体を半透膜で隔てると、液体に溶けている物質が濃度の低いところから濃度の高いところに移動します。これにより、低分子量の物質が低濃度側から高濃度側に移動し、浸透圧が発生します。

 

正常範囲からの逸脱は深刻な症状を引き起こす可能性があるため、浸透圧は厳密に管理する必要があります。

 

10.体液のpHについて

血液やリンパ液などの体液は通常、pH7.40±0.05の弱アルカリ性です。体全体の細胞はこのpH範囲内でしか機能できないため、この狭い範囲は非常に重要です。

 

pHが7.35を下回るとアシドーシスが発生し、pHが7.45を超えるとアルカローシスが発生します。呼吸不全は呼吸性アシドーシスを引き起こす可能性があり、腎臓または消化器疾患は代謝性アシドーシスまたはアルカローシスを引き起こす可能性があります。(次の表参照)

 

病理学的には、アシドーシスとアルカローシスは体内のさまざまな臓器やシステムに影響を与える可能性があります。アシドーシスは、心拍出量の減少、細胞代謝の障害、電解質の不均衡、および免疫機能の障害を引き起こす可能性があります。対照的に、アルカローシスはカルシウムとカリウムのレベルの変化を引き起こし、筋肉のけいれんや不整脈を引き起こします。

 

pHバランスを維持するために、体は重炭酸塩、リン酸塩、タンパク質緩衝システムなどのさまざまな緩衝システムに依存しています。肺と腎臓はまた、血液中の二酸化炭素と重炭酸イオンのレベルを調節することにより、酸塩基バランスを維持する上で重要な役割を果たします。

 

つまり、適切な酸塩基バランスを維持することは、体が適切に機能するために不可欠です。アシドーシスおよびアルカローシスは、呼吸器または代謝因子によって発生する可能性があり、治療せずに放置すると重篤な状態になる可能性があります。

 

11.血液の成分について

血液は、赤血球、白血球、血小板などの細胞と、細胞間液である血漿を含む結合組織です。血液を遠心分離すると、血漿と血球に分離します。血液の約45%を占める固形成分は主に赤血球で、約55%を占める液体成分は血漿です。ヘマトクリット値は、血液に対する赤血球の割合で、通常は40~45%程度です。

 

血漿は、血清とフィブリノゲンで構成されています。血清には、アルブミンやグロブリンなどのタンパク質、電解質、栄養素、老廃物が含まれています。フィブリノーゲンは、フィブリンに変換して血液を凝固させることができるタンパク質です。

 

血清タンパク質には、アルブミン、グロブリン、マクログロブリン、および約80種のタンパク質が含まれます。アルブミンは低分子量の血清タンパク質で、血圧の浸透圧を維持する上で重要な役割を果たします。グロブリンはさらにαグロブリン、βグロブリン、γグロブリンに分けられます。αおよびβ-グロブリンは血中の脂質、鉄、およびホルモンの輸送に関与していますが、γ-グロブリンはリンパ球によって産生され、免疫に関与する抗体です。

 

12.血液の働きについて

血液には①輸送、②調節、③保護の3つの働きがあります。

 

①  輸送: 血液は、酸素、栄養素、ホルモン、老廃物などの重要な物質を全身に運びます。酸素は肺から細胞に運ばれ、老廃物は腎臓と肝臓に運ばれて除去されます。

 

②  調節: 血液は、酸塩基バランス、体温、血圧など、体内のさまざまなプロセスを調節するのに役立ちます。たとえば、体が熱すぎると、皮膚の血管が拡張して熱を放出しますが、体が冷たすぎると、血管が収縮して熱を保持します。

 

③  保護: 血液には、感染や損傷から体を保護するのに役立つ細胞とタンパク質が含まれています。血液中の免疫系細胞は外来の侵入者を識別して攻撃しますが、凝固因子は血管が損傷したときに出血を止めるのに役立ちます.


排尿トラブルの考え方  

トイレが近くなった。夜に4~5回トイレに行って、良く寝られない。夜中2時間おきにトイレに行き、間に合わなくて下着を濡らした。トイレに行った後、終わっても勝手に漏れて下着を汚した。会議中に強い尿意をもよおし、トイレにかけこんでも、尿が素直に出ない。尿をしても、まだ残っている感じがあり、何度もトイレに通う…等々の排尿トラブルが発生している。高齢になるとこういった症状を訴える方が多くなる。しかし、高齢を理由にまったく見過ごされるケースがあります。

 

1.尿失禁

尿失禁とは、無意識に尿が漏れてしまうことをいいます。加齢による神経機能の低下や、前立腺がんなどの深刻な病気など、さまざまな原因が考えられます。尿失禁は生命を脅かすものではありませんが、精神的苦痛や社会的問題など、日常生活に重大な問題を引き起こす可能性があります。したがって、適切な治療を受け、それを管理するための措置を講じることが重要です。

 

尿失禁の原因はさまざまです。腎臓は尿を生成し、膀胱に蓄えます。膀胱は伸縮性のある筋肉でできており、成人で最大 500ml の尿を保持できます。尿が溜まって膀胱の筋肉が伸びると、脳が脊髄から信号を受け取り、尿意を引き起こします。しかし、尿意を感じてもすぐには尿が出ません。脳は膀胱と尿道に信号を送り、便器に排出されるまで尿を保持します。尿失禁は、これらのメカニズムの異常によって引き起こされます。

 

  骨盤底筋の緩み

骨盤底筋の緩みは尿失禁の原因となります。これらの筋肉は、膀胱や尿道などの臓器を支えており、加齢、肥満、妊娠などの要因によって衰える可能性があります。咳やくしゃみをしたり、重いものを持ったりするなど、腹圧がかかると、弱った筋肉が尿漏れを防ぎきれなくなることがあります。

 

  膀胱や神経機能の異常

年齢を重ねると膀胱の機能が低下し、膀胱が過度に収縮して急激に尿意が強くなることがあります。これにより、尿失禁が生じる可能性があります。また、脳梗塞やパーキンソン病などの神経疾患による排尿の神経制御異常も、急な尿意や尿失禁につながることがあります。

 

③  排尿障害

前立腺肥大症や前立腺がん、糖尿病などによって排尿障害が起こると、膀胱内に多量の尿がたまるようになるため、たまった尿が少しずつ漏れ出るように失禁することがあります。

 

  身体機能・認知機能の低下

加齢による身体機能や認知機能の低下により、トイレに間に合わなくなったり、正しい場所に排尿できなくなったりするなどの症状が現れ、尿失禁を引き起こすことがあります。

 

前述のように夜間の頻尿、尿もれ、排尿困難などの排尿障害の症状について説明しましたが、これらの症状は高齢者によく見られ、骨盤底筋の衰弱、膀胱や神経機能の異常、排尿障害、身体機能や認知機能の低下など、さまざまな要因によって引き起こされる可能性があります。無意識に尿が漏れてしまう尿失禁は、日常生活に大きな支障をきたす可能性があり、適切な治療と対策が必要です。

 

過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)

過活動膀胱とは、突然頻尿になり、尿失禁を伴うことが多い病気です。 OABは、膀胱の筋肉の不随意収縮によって引き起こされます。この収縮は、神経疾患、感染症、投薬など、さまざまな要因によって発生する可能性があります。OABは高齢者によく見られますが、若い人にも発生する可能性があります。

 

尿路感染症(UTI:urinary tract infection)

尿路感染症は、細菌が尿路に侵入して感染を引き起こすときに発生します。尿路感染症は、排尿時の強い衝動、排尿時の灼熱感、および頻繁な排尿の必要性を引き起こす可能性があります。尿路感染症は男性よりも女性に多く、抗生物質で治療できます。

 

前立腺の問題

前立腺肥大などの前立腺の問題は、排尿困難、頻尿、尿の流れの弱さを引き起こす可能性があります。前立腺がんは、血尿や尿失禁などの泌尿器症状を引き起こすこともあります。

 

糖尿病

糖尿病は、膀胱を制御する神経に損傷を与え、尿失禁や過活動膀胱を引き起こします。血糖値が高いと、頻尿になることもあります。

 

薬の問題

利尿薬などの特定の薬は、尿の生成と排尿の頻度の増加を引き起こす可能性があります。α遮断薬などの他の薬は、膀胱の筋肉を弛緩させ、尿失禁を引き起こす可能性があります.

 

適切な診断と治療により、生活の質が大幅に向上する可能性があるため、これらの排尿の問題が発生している場合は、医療提供者に相談することが重要です。


効率の良い勉強方法とそのコツ 

効果的な学習方法とヒントは次のとおりです。

 

①  明確な目標を設定する: 学習から達成したいことを特定し、期限を決めた目標を設定します。

 

②  自分の学習スタイルを理解する: 読む、書く、聞く、または実践的な活動など、どのように学習するのが最適化を判断します。自分に最適な学習方法を選択してください。

 

③  学習内容に優先順位を付ける: 最も重要な内容を特定し、最初に取り組みます。優先順位を付けることで、時間を効果的に管理できます。

 

④  休憩を取る: 学習セッション中に短い休憩を取り、脳を休ませ、燃え尽き症候群を防ぎます。

 

⑤  積極的な学習を実践する: 学んだことを要約、言い換え、実際の状況に適用することで、積極的に取り組みます。

 

⑥  自分自身をテストする: 練習問題、クイズ、テストを通じて理解度を定期的に確認します。

 

⑦  整理整頓: 学習エリアを整理整頓し、カレンダー、To Doリストなどのツールを使用して、学習状況を常に把握します。

 

⑧  ヘルプを求める: 理解に苦しむ場合は、専門家、または学習グループに助けを求めましょう。

 

⑨  モチベーションを維持する: 学習計画の完了や友人との勉強に対する楽しみを設定するなど、モチベーションを維持する方法を見つけます。

 

⑩  自分のメンテナンスをする: 十分な睡眠を取り、定期的に運動し、バランスの取れた食事を取り、ストレス管理テクニックを実践して、健康と集中力を維持してください。

 

本書は尿失禁や排尿困難等の症状を有していても恥じらいから放置したり、高齢だからとあきらめている方々、あるいはそのご家族や介護者への教本として、一般的な教育では扱われない知識や技術を中心に、容易に理解を深めるための教本として執筆したものです。

 

また、前述した社会的背景から、排泄ケア総合研究所を創設し事業展開せよとの理事長の特命に従い、症状をお持ちのご本人はじめご家族や介護者のみならず医療や福祉等の職員が、ここで獲得した知識や技術をもって連携し、医療機関への紹介や診断・治療への協力等、自ら提案し相談に対応できる排泄ケア相談員の育成と輩出を目的としています。

 

本書は排泄ケア総合研究所での排泄ケア相談員認定資格の教本として、また、排泄トラブルの理解に向けた自己啓発書として、ご活用願いたいと考えています。

 

次に、本書の大まかな流れを紹介します。急ぐ場合や難しいと思える場合には、先ずは飛び越して先に読み進んでください。例え一部であっても必要な部分について理解を深めていただければ幸いです。

 

尿失禁、排尿困難の症状を有する方々の生活の質(QOL)、おむつ外し、さらには排尿の自立を目指し、排尿症状の把握・分類及び対策・治療の一端に役立てるため、次の手順を示し解説を進めます。

 

 1.排泄の基本的な知識

 2.排尿日誌の意義と記録方法

 3.排尿チェック表

 4.尿失禁タイプと尿排出障害

 5.尿失禁タイプと尿排出障害への対応

 6.排便トラブルとコントロール

 7.失禁関連皮膚炎IAD

 8.おむつの当て方、交換の仕方

 9.排泄ケア相談員の初級認定試験、その他

 

本書は症状をお持ちのご本人はじめご家族や介護者のみならず医療や福祉等の職員を対象として、それぞれが獲得した知識や技術で排尿障害に連携した対応をもち、必要な医療機関への紹介、診断や治療への協力を必要に応じて行うことができるよう提案・支援する排泄ケア相談員の育成と輩出を目的としています。

 

より多くの方が身近な排泄トラブルについて深く学ぶ機会となり、正しい知識や技術を身に着け、誰もが生ある限り輝けるような社会環境の良化・改善に繋がることを祈念しております。


排泄の医学的な考え方 

1.排泄とは?

排泄とは、さまざまな生命活動の中で生成される老廃物や有害物質を体外に排出するプロセスを指します。このプロセスには、肺から二酸化炭素を除去するための呼吸、腸から食物の残骸を除去するための排便、皮膚からの不感蒸泄、および発汗が含まれます。しかし、ほとんどの老廃物は腎臓を中心とした尿路系を通じて排出されます。

 

新陳代謝中、細胞によって生成された老廃物は血液に溶解し、体全体を循環します。腎臓はこれらの老廃物を尿として血液から排出し、血液をきれいな状態に戻します。尿は老廃物や有害物質が溶解した溶液です。

 

2.不感蒸泄とは?

不感蒸泄とは、吐き出す息に含まれる水蒸気と、皮膚から微量に分泌される汗のことです。不感帯の発汗量は1日700~900㎖ 程度です。

 

3.なぜ排泄が必要なの?

人体は、血液によって運ばれた栄養素をエネルギーとして燃焼する多数の細胞で構成されています。この過程で細胞内の栄養素が燃え尽きず、燃えカスなどの老廃物が発生します。老廃物も細胞の代謝によって作られます。

 

これらの老廃物は血液に戻り、全身を循環します。不要な物質や老廃物は体に有害であり、除去しなければさまざまな悪影響を引き起こす可能性があります。したがって、それらは体から排泄される必要があります。腎機能が低下すると、不要な物質や老廃物をうまく排泄できなくなり、尿毒症と呼ばれる状態になります。

 

※尿毒症とは?

尿毒症は、腎臓が尿素毒素を排泄できず、血液中に蓄積する状態です。尿毒症の症状には、疲労、貧血、高血圧、浮腫、肺水腫などがあります。

 

4.尿量に影響する要因

私たちが食べたり飲んだりすることで消費したり排泄したりする水の量は、一定の平衡を保つためにバランスが取れています。水分摂取量が減少すると、血液循環量が減少し、尿排泄量が減少します。同様に、発汗、下痢、嘔吐、大量出血、熱傷などの他の排泄プロセスが増加すると、血液循環の低下により尿排泄量も減少します。逆に水分摂取量が増えると、血行が良くなるため尿量も増えます。

 

脳障害、腎障害、代謝障害、心臓障害、およびその他の状態も尿量に影響を与える可能性があります。脳腫瘍や頭部外傷により脳下垂体後葉が損傷すると、抗利尿ホルモンの分泌が抑制され、尿の濃度が低下し、尿量が増加することがあります。

 

腎臓のネフロンが部分的に破壊されて起こる急性腎不全では、一時的に尿量が減少しますが、機能しているネフロンの数に応じて、残りのネフロンの代償機能により最終的に尿量が回復します。

 

糖尿病などの代謝障害も尿量を増加させる可能性があります。血液中のブドウ糖レベルが高いと、尿細管の浸透圧が上昇し、ナトリウムと水の再吸収が抑制され、尿量が増加します。

 

心不全により心機能が低下したり、失血量が多い場合、腎臓の血流が減少し、尿量が減少します。また、前立腺肥大症や腫瘍、結石などで尿道が狭くなると、一度に排泄される尿の量が減り、頻尿になります。病状が進行すると、尿道が詰まり、尿が出なくなることがあります。

 

※前立腺肥大症とは?

前立腺肥大症とは、前立腺が肥大して膀胱の出口が収縮し、尿路を圧迫して排尿が困難になる状態です。この状態は、アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)の間の不均衡によって引き起こされます。

 

5.加齢と腎機能の関係について

排泄とは、体が腎臓や泌尿器系を介して、尿素や過剰な塩分などの代謝からの老廃物を排除するプロセスです。加齢に伴い、糸球体や尿細管の構造変化、毛細血管の動脈硬化などにより、腎臓の機能が徐々に低下することがあります。腎臓には損傷を補う予備力がありますが、損傷が進むとろ過能力や尿を濃縮する能力が低下し、高齢者では多尿や頻尿などの症状が現れることがあります。

 

※頻尿とは?

頻尿とは、人が1日に8~10回以上排尿する必要がある場合です。 

 

※ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は、腎臓の糸球体に影響を与える疾患で、尿中に大量のタンパク質が排泄されます。ネフローゼ症候群の4つの主な症状は、タンパク尿 (尿中のタンパク)、低タンパク血症 (血液中のタンパク濃度の低下)、浮腫 (腫れ)、脂質異常症 (異常な脂質レベル) です。

 

以前は、ネフローゼ症候群の人はタンパク質制限食を厳守する必要がありましたが、現在は副作用の懸念から制限が緩和されています。ネフローゼ症候群のときにタンパク質の摂取を制限する理由は、タンパク質が腎臓から急速に排泄され、体内のタンパク質が不足する可能性があるためです。これを補うために、肝臓はより多くのタンパク質を作ろうとするため、脂肪が生成され、アンモニアの分解が遅れます。しかし、最近の研究で、厳格なタンパク質制限が悪影響を与える可能性があることが示されているため、制限が緩和されています。

 

6.腎機能の低下について

腎臓が正常に機能していない場合、老廃物の除去だけでなく、全身に影響を与える可能性があります。腎臓で血液をろ過する糸球体が損傷を受けると、血液中に老廃物が蓄積します。ただし、最初は症状に気付かない場合があります。悪化すると様々な症状が現れ、最終的に腎不全に至ります。

 

Serginの分類では、腎不全に至る過程を4つの段階に分けています。最初の段階は腎予備能低下期と呼ばれ、糸球体のほぼ半分が損傷したときに発生します。この段階で、腎臓は適切に機能する能力を失い始めます。

 

さらに糸球体の損傷が進行すると、腎機能低下期となります。この段階では、腎臓は血液中の老廃物をろ過することができず、血液中の窒素が増加します。症状としては、夜間多尿、脱水、貧血などがあります。

 

第3段階は代償不全で、腎機能がさらに低下し、クレアチニンクリアランスが30㎖/分を下回ると発生します。この段階では、高窒素血症、貧血、代謝性アシドーシス、高リン血症、低カルシウム血症、および多尿を引き起こす可能性があります。

 

4番目の最終段階は尿毒症の段階です。クレアチニンクリアランスが10㎖/分以下になると体内環境が維持できなくなり、尿毒症を引き起こします。この段階で、血液透析が必要になります。

 

※腎不全(じんふぜん)とは?

腎不全は、腎臓が正常に機能できなくなった状態です。急性または慢性の場合があります。

 

※血液透析とは?

血液透析は、血液をろ過して老廃物や不要な物質を除去することにより、機能不全に陥った腎臓の機能を置き換える治療法です。これは、透析膜を介して血液と透析液を接触させ、拡散と限外ろ過によって血液を浄化することによって行われます。

 

7.腎機能の評価指標

腎臓での排泄機能を数値的に評価する指標がクリアランスです。

 

クリアランスは、腎臓が特定の物質を一定時間 (通常は1分間) にどれだけ効率よく不要な物質を血液から除去しているかを示す数値です。

 

クリアランスを計算するために、腎臓によって再吸収または分泌されないクレアチニンやイヌリンなどの物質が使用されます。物質のクリアランス値が100㎖/分の場合、腎臓が1分間に100㎖の血漿を濾過したことを意味します。このろ過機能を糸球体ろ過率と呼びます。

 

クレアチニンクリアランス (CCr) は、腎機能の最も重要な指標です。クレアチニンは糸球体機能を正確に反映する老廃物だからです。したがって、CCr は腎機能の評価に広く使用されています。

 

CCrの正常な参照範囲は70~130㎖/分です。糸球体濾過率が低下すると、CCr値も低下します。

 

8.尿が腎臓からどのように排泄されるか?

腎臓の漏斗(ろうと)状の腎盂に集まった尿は、直径4~7mmの一対の細い尿管に送られます。尿管の壁が波状に収縮し、尿が膀胱に向かって押し出されます。蠕動(ぜんどう)と呼ばれるこのプロセスは、1分間に約3~4回発生し、速度は約2~3cm/秒です。尿の量が増えると、蠕動運動も増加します。

 

尿管は膀胱壁を斜めに通り、弁のような構造を介して膀胱につながっています。膀胱が尿でいっぱいになると、尿管の壁を圧迫し、尿が尿管に逆流するのを防ぎます。膀胱には3層の平滑筋があり、収縮すると尿道から尿が排出されます。

 

※尿路結石とは?

尿路結石は、腎臓、尿管、膀胱、または尿路に沿ったあらゆる場所に形成される可能性があります。それらの場所に応じて、腎臓結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石などに分類できます。結石はカルシウム化合物でできていることが多く、痛みや血尿を引き起こす可能性があります。

 

※血尿とは?

血尿は、尿中に赤血球が存在することであり、腎臓から尿道までの尿路のどこかで出血していることを示しています。血尿には肉眼で確認できる肉眼的血尿と、尿検査や顕微鏡でしか確認できない顕微鏡的血尿の2種類があります。

 

9.膀胱にためられる尿量について

膀胱には350~600㎖の尿をためることができますが、ほとんどの人は200㎖程度の尿が溜まると尿意を感じます。

 

しかし、障害によって排尿困難(排尿困難)が生じる場合には、最大2,000㎖(2ℓ)の尿が残ることがあります。

 

膀胱の内面は移行上皮で覆われています。膀胱壁は、空っぽのときはしわが寄っているように見えますが、尿で満たされると伸びてしわが消えます。

 

尿道は、膀胱から尿を排出する管です。男性と女性では違います。

 

成人男性の場合、尿道の長さは約18cmで、前立腺、陰茎、亀頭の先端を通り抜けています。


 

 成人女性の場合、尿道は長さ3~4cmで、膣の前を通り、膣前庭に通じています。

 

女性は尿道が短いため、尿路感染症にかかりやすくなっています。

 

 

※尿路感染とは?

尿路感染症は、尿道から始まり、腎臓に影響を与える可能性がある感染症です。炎症の部位によって、腎盂腎炎、膀胱炎、尿道炎などさまざまな種類があります。

 

※膀胱炎(ぼうこうえん)とは?

膀胱炎は、通常は大腸菌による細菌感染によって膀胱が炎症を起こした状態です。長時間の排尿、風邪、月経などにより体の免疫システムが弱まっている場合に発生する可能性が高くなります。

 

10.排尿のメカニズム

尿は、左右の尿管を通って一定の速度で少量ずつ膀胱に入ります。 ただし、これは必ずしも尿意を引き起こすわけではありません。

 

膀胱内の尿量が400㎖を超えると、膀胱内の圧力が上昇します。この膀胱壁の伸張は伸張受容体を活性化し、信号を脊髄に送り、次に脳幹と大脳皮質に送ります。大脳皮質が排尿の指示を受け取ると、膀胱内の排尿筋(平滑筋)が収縮し、内尿道括約筋(不随意筋)が弛緩します。さらに、外尿道括約筋(随意筋)も弛緩し、腹圧が排尿を助けます。(次の図参照)。

 

 

※脊髄損傷と泌尿器疾患について

仙骨脊髄に由来する骨盤神経は、排尿の開始に関与しています。一方、腰髄から出ている下腹神経は排尿を抑制します。両方の神経が膀胱の平滑筋と括約筋を制御します。仙骨脊髄からの陰部神経は、尿道から外尿道口へと尿を押し出す。脳幹と大脳皮質の泌尿器中枢は、これらの神経を統合的に調節しています。

 

仙骨脊髄の上の損傷により、抑制性神経支配が失われ、排尿反射を刺激する骨盤神経のみが残ります。しかし、仙骨脊髄が損傷すると、排尿反射が起こらなくなり、排尿障害につながる可能性があります。

 

11.排尿の我慢について

尿意を感じたときは、電車の中や会議中など、排尿に関わる筋肉を自発的にコントロールすることで、尿意を抑えることができます。

 

脳が尿を蓄えるしくみは次のとおりです。膀胱に 400ml 以上の尿が溜まると、内部の圧力が高まります。これにより反射が引き起こされ、膀胱壁が弛緩し、内尿道括約筋が収縮し、脊髄感覚神経を介して排尿中枢に信号が送られます。

 

つまり、脳が一時的に尿を溜めようと判断し、陰部神経が反射的に外尿道括約筋を収縮させて排尿を止めるのです。この自発的な筋肉をコントロールして、尿を保持することができます。尿に強い衝動があっても、 最終的に排尿するときは、膀胱の筋肉が尿の抑制から弛緩しているため、収縮するのに時間がかかる場合があります。

 

12.失禁の形態

尿失禁は、膀胱が尿を保持できないために尿が不随意に排出されるときに起こります。これは、膀胱が尿でいっぱいになったときに、膀胱内の圧力と尿道内の圧力のバランスが崩れるために発生します。失禁にはさまざまな形態があります。

 

① 切迫性尿失禁

このタイプの失禁は、脳梗塞や脳出血などによって脳の尿中枢が損傷を受け、排尿を制御できなくなったときに発生します。また、膀胱炎、尿道炎、膀胱結石などの下部尿路に損傷を与える状態によって引き起こされることもあり、感覚切迫性尿失禁につながります。

 

② 反射性尿失禁

反射性尿失禁は、脊髄の損傷によって引き起こされます。膀胱が尿でいっぱいになると、膀胱が制御不能に収縮し、尿道が無意識に弛緩し、反射排尿を引き起こします。脊髄損傷、脳腫瘍、脊髄腫瘍でよく見られます。

 

③ 腹圧性尿失禁

このタイプの失禁は、人が咳をしたり、くしゃみをしたり、重いものを持ち上げたり、笑ったりしたときに発生します。これは、骨盤底筋の弱体化と、膀胱頸部および近位尿道の緊張の低下によって引き起こされます。特に出産後の中高年女性に多く見られます。

 

   溢流性(イツリュウセイ、オーバーフロー)尿失禁

尿道の閉塞や膀胱の収縮力の低下などにより残尿が多くなる場合に、溢流性尿失禁が起こります。膀胱壁が過度に引き伸ばされると、残尿が徐々に漏れ出し、溢流性尿失禁につながります。良性前立腺肥大症、直腸がん、または子宮がんの手術後によく見られます。


排泄ケアの生活行為アセスメント 

適切な失禁ケアを提供するには、エビデンスに裏付けられた正しい知識と技術が必要です。排泄トラブルは誰にとってもデリケートな問題であり、運動機能の低下や排尿・排便の衝動の低下により、高齢者に多くみられます。

 

また、年齢とともに身体機能が低下すると、排泄の問題が同時に発生することが多く、予防的なケア方法や製品が必要です。一人ひとりのQOL(Quality of Life)を向上させるためには、排泄を総合的に理解し、一人ひとりに合わせた排泄ケアを実践することが重要です。そのため、まずは排泄の基礎知識を身につけることが不可欠です。

 

1. ICFによる障害の捉え方

WHO(世界保健機構)が1980年に国際疾病分類(ICD:International Classification of Impairments, Activities,and Participation)の補助として発表した国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairments, Activities,and Participation)が用いられてきた。この分類による身近な障害の例として、近視になって黒板が見えずに勉強できなくなる。すると、それは社会的不利につながる。同様に、足に障害があり歩行できなくなると、社会的不利に直結するとのことで、眼鏡や車いす等の福祉用具の発達により、社会的不利につながらなくなってきた。

図. ICID(国際障害分類)

 

そこで、WHOでは、2001年5月の第54回総会において、その改訂版として国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)を採択した。それは、例え、近視になって黒板が見えずに勉強できなくなっても補助具の眼鏡や黒板の近くに座るなどの環境因子の改善で、授業を受け勉強ができ社会的不利につながらない。同様に、歩けなくとも車いすがあり、バリアフリーであれば、社会的不利につながらないことが、説明できるようになった。

つまり、ICIDでは、補助具や環境の要素が入っていない考え方が問題となっていたが、ICF導入により説明がつくようになった。

 

図ICF(国際生活機能分類)

 

ICFを詳しく説明すると、図のように人間の生活機能と障害についての分類法として、病気やケガ、体調の変化などの「健康状態」。手足の動きや視覚・聴覚、内臓、精神などの「心身機能」と指の関節、胃や腸、皮膚などの「身体構造」、歩くことや日常生活に必要な動作をはじめ、家事や仕事、余暇活動などを「できる活動」と「している活動」の2つの面に分けて捉える「活動」、主婦としての役割や職場などの組織で役割を果たすこと、地域の会合や趣味の集まりの「参加」を表す『生活機能』。

建物や交通機関、家族や友人などの人間関係、法律や制度、サービスや福祉用具などの「環境因子」と年齢、性別、民族、生活歴、価値観、ライフスタイルなどの「個人因子」を表す『背景因子』の各要素がそれぞれ影響し合って成り立ち、約1,500項目に分類することができます。

国際の名がつく通り、世界共通のスタンダードであり、専門分野や立場の異なる人々の共通理解を促進するツールとなってます。

 

2.排泄プロセス解析とアプローチ方法

排泄の仕組みや生活習慣などを理解することで、排泄ケアの質を向上させることができます。

 

排泄のプロセスは、排尿や排便の衝動を認識し、トイレに移動し、衣服の上げ下げ処理と座って、排泄と後処理を行い、部屋を出ることが含まれます。

 

尿意は、尿が膀胱に溜まり神経を刺激することで起こります。便が直腸に入ると、便意が生じます。

 

寒さや他の人がトイレに行くのを見るなどの外的要因は、排尿の閾値を下げる可能性があります。行きたい衝動を抑えると、便秘を引き起こす可能性があります。自発的な排泄には、良好な骨盤底筋機能と脚と体幹の筋力が必要です。

 

排泄動作におけるプロセス解析

 身体機能を正確に評価するには、プロセスを分解し、ICF*に基づき、パフォーマンス低下の根本的な原因追求や対策の立案をすることが重要です。排泄動作に含まれるステップを分析することで、具体的な問題とその解決策を導くことが容易となります。(排泄行動の工程図を参照)

 

 

次の図に示した包括的なチェックリストを使用し、排泄プロセスの中に、できることとできないことを調査・検討することで問題を特定し、詳細な目標を設定できます。これにより、各ステップの問題を解決して、最終的にはより自立を達成することができます。排泄は、さまざまな身体的および精神的要因が関与する複雑なプロセスです。各ステップの障害を特定するために「できること」に○、「できるのにしていない」ことに△、「できないこと」に✕の記号をチェックリストに記載します。

 

個人の挑戦を促し、困難な部分をサポートすることで、残りの機能を維持し、より大きな自立を達成することができます。このチェックリストを使用して、問題の原因となっている手順を特定し、それらを解決する方法を見つけてください。

 

例えば、

①  尿意・便意を感じるでは、医療での治療・投薬や時間誘導、声掛けで、排泄の有無の自覚として「出ました」の伝達行動へ誘導する。

②  トイレまで移動するでは、動線の検討、移動能力の改善、杖や車いす、福祉用具の活用、動線の環境整備等を検討する。

③  ズボンや下着を下げるでは、ウエストゴムやスカート活用などの衣服の工夫、手の精密で巧みな動作である巧緻(こうち)動作の改善、立位バランスの獲得、更衣スペースの確保等を検討する。

④  便器に上手く座るでは、手すりや便器の高さなどの福祉用具、足場、照明、動作スペースを含めた環境整備、便器に座るための足関節及び膝関節など関節稼働域確保、下肢筋力、バランス能力の改善等を図る。

⑤  排尿・排便をするでは、腹圧コントロールなどの下部体幹筋の強化、座位姿勢の保持、緊急ブザー設置などの安全面への配慮(安心感の獲得)等を検討する。

⑥  後始末をするでは、排水レバーの操作、トイレットペーパーやウォシュレット等、何を使うか。衛生用品の配置や使い勝手、手洗い動作の獲得、使用済みの衛生用品を処理するためのゴミ箱等の配置や使い勝手の工夫を考慮する。

⑦  下着やズボンを上げるでは、ウエストゴムやスカート活用などの衣服の工夫、手の巧緻動作の改善、立位バランスの獲得、更衣スペースの確保等を検討する。

⑧  部屋へ戻るでは、帰路の体力維持・獲得、移動能力の改善、福祉用具の活用、動線の環境整備等を工夫検討する。

 

3.排泄の自立に関する考え方

排泄の自立には、機能的自立と社会的自立の2つの側面があります。

 

機能的自立は、個人が自分自身で排泄を行う能力を指します。つまり、トイレに行き、身体的な動作や生理的な機能を維持しながら排泄できることです。具体的には、尿道を開閉し膀胱に尿を溜めたり、大便を直腸に留め置いたりする機能が必要です。また、トイレでの脚力や座る体幹保持力も重要です。機能的自立を向上させるためには、手摺にしがみついてでも30秒ほど起立できれば、介助によりパンツの上げ下ろしができるようになり、背もたれがない状態で10分座れればポータブルトイレで用を足せるようになります。トイレまでは車椅子でも移動できます。

 

一方、社会的自立は、個人が日常生活で自立して活動し、社会的な関わりを持ちながら生活できることを指します。これには、トイレに行くことや排泄物の処理を自分で管理する能力が必要です。個人が自らの排泄を行う能力に制限がある場合でも、介護者のサポートや適切な支援によって一部の自立が回復することもあります。介護の有無に関わらず、個人の能力や状態に合わせた段階的な目標設定とトレーニングを通じて、排泄の自立を向上させることができます。

 

要するに、排泄の自立には機能的自立と社会的自立の2つの側面があります。機能的自立は身体的な能力に焦点を当て、排泄の技術と関連します。一方、社会的自立は日常生活や社会活動における自己管理能力に関連します。介護や介助の支援を受けながらも、個人の可能な範囲での自立を促すことが重要です。適切なサポートと個別のケアを提供することによって、排泄の自立を最大限に引き出すことができます。

 

 

4.タスク回避的および目標指向のアプローチ

介護には、問題回避型アプローチと目標指向型アプローチの2つのアプローチがあります。

 

問題回避アプローチは、問題を特定して解決することに焦点を当て、その人が元の状態またはより良い状態に戻るのを助けます。ただし、問題を解決できない場合、このアプローチは機能しない可能性があります。 また、本人は問題を問題として認識していなくても、家族や介護者は問題として認識している場合があります。目標は、問題を見つけて解決し、その人の生活を改善することです。

 

一方、目標指向アプローチは、具体的な目標を設定し、それを達成することによって、その人の状況を改善することを目的としています。長期ケアでは、このアプローチは問題回避アプローチとともに使用されます。たとえ解決できない問題があっても、その人の状態や希望を考慮し、達成可能な目標を設定することで、より充実した人生を実現することを目的としています。しかし、介護では、解決できない問題である高齢化や障害を対象とすることが多くあります。したがって、介護では課題回避型アプローチを併用しつつ目標志向型アプローチを中心にして進めることになります。本人の状態や希望などを総合的に勘案して目標を設定し、それを達成することで、より充実した生活・人生を獲得しようとする手法です。

 

そこで、NLP*というコミュニケーション手法を紹介します。NLPとは「脳の取り扱い説明書」と言われ、目標の実現法や問題、悩みの解決に役立てられています。思考と行動、そして感情をコントロールすることができるようになるだけでなく、他者への影響力を高めることが可能になります。そして、コミュニケーションスキルとして、仕事や家庭などの人間関係の構築や修復にも活用されています。この手を使わない手はないと考えています。

 

※NLP:Neuro Linguistic Programming(神経言語プログラミング)とは、「脳の取扱説明書」とも呼ばれるコミュニケーション手法です。 目標達成や問題解決、心配軽減等に役立ちます。NLPは、自分の思考、行動、感情をコントロールし、他者への影響力を高めることにも利用できます。これらは、職場でも家庭でも関係を構築し、修復するために使用できる貴重なコミュニケーションスキルです。

 

NLPは、心理学と言語学の観点から、1970年代初頭にリチャード バンドラーとジョン グラインダーによって開発されました。NLPは、言語と行動が互いにどのように影響するかを主体とする、人間の心理とコミュニケーションのシステムです。

 

NLPは、2種類の人々を認識しています。目標を達成することに意欲的な個人と、トラブルやリスクを回避することに集中する傾向がある問題回避型の個人です。目標指向の個人をやる気にさせるには、「達成すること」、「獲得すること」、「入手すること」を強調する言葉を使用する必要がありますが、問題を回避する個人は、回避、防止、排除(取り除く)を強調する言葉によく反応します。

 

タイプに応じて、他の人とコミュニケーションをとるときは、適切な言語を使用することが重要です。たとえば、歯ブラシを販売する場合を例に、目標志向の人には、「歯が白くきれいになる」ということに関心が高まりますが、問題を回避する人は「口臭や虫歯を予防できる」を強調する言葉によく反応します。

 

他の人に影響を与えたり説得したりするのに苦労している場合は、対象の視点と言語を理解することが重要です。NLPでは、相手の世界観を尊重し、その言葉に耳を傾けることを重視しています。自分の使い慣れた言葉や指示を使用するのではなく、彼らが理解し、反応する方法でコミュニケーションすることが重要です。

 

失禁ケアに関しては、患者とその家族のニーズをよりよく理解し、それに対応するために、コーチングとコミュニケーションのスキルを再考する必要があります。

 

5.排尿のトラブル

 

加齢による尿の問題

年齢を重ねるにつれて、身体機能が低下し、排尿が困難になることがあります。排尿障害には大きく分けて、頻尿、尿失禁、排尿困難の3種類があります。頻尿と尿失禁は蓄積障害と見なされますが、排尿障害は排出障害と見なされます。それぞれの病気の症状、原因、治療法について説明します。

 

1).頻尿の定義

頻尿は、人があまりにも頻繁に排尿する必要があると感じた場合です。 通常、頻尿とは、1日に8回以上トイレに行くことと定義されています。

 

通常、頻尿は生命を脅かすものではありませんが、以前はできていたことができなくなってしまった等のお悩みがある場合は、注意と治療が必要です。セルフケアは重要ですが、治療が必要な場合もありますので、問題を抱えている人は医療機関の受診を勧めます。

 

  習慣的な頻尿

習慣性頻尿とは、強い尿意を感じなくても、膀胱がいっぱいになる前にトイレに行くことで、排尿回数が増えている状態です。こまめにトイレに行くなど、尿意がない状態や少し尿意がある状態で排尿するので、排尿回数が増えてしまうことが原因です。

 

  水分摂取過多による多尿で頻尿

水を飲みすぎて、頻繁に尿意を感じたり、一度に大量の尿を排出したりする人もいます。水を過剰に飲んでも、必ずしも血液がサラサラになったり、見た目が良くなったりするわけではありません。水分の摂取量は体重によって異なり、余分な水分は尿として排泄されます。1日の水分摂取量は体重の2~2.5%、24時間の尿量は体重1kgあたり約20~25㎖ にする必要があります。

 

  過活動膀胱

過活動膀胱は、強い尿意があり、尿を我慢するのが困難な場合に起こります。これにより、頻繁に排尿する可能性があります。特に男性の場合には前立腺に問題がある可能性があります。治療の選択肢は、他の基礎疾患を除外した後に決定されます。

 

④不完全尿閉による頻尿

不完全尿閉とは、排尿直後に再び排尿する必要があると感じる状態です。これは、膀胱に尿が残っていることが原因である可能性があります。 治療せずに放置すると、腎機能に悪影響を及ぼす可能性があります。治療の選択肢には、薬物療法と膀胱から残りの尿を排出する処置が含まれます。この状態については、医師の診察を受けることが重要です。

 

  夜間頻尿

夜間頻尿とは、日中は問題がないにもかかわらず、夜間に何度も排尿する必要があることを指します。これは、ベッドに入ってから起きて出るまでの排尿回数によって測定されます。ただし、食事や入浴を終えて就寝し、本を読んだりテレビを見たりしてから就寝する場合は、測定に含まれません。70歳以上の人の約20~30%が3回以上の夜間排尿を経験しています。夜間頻尿によって生活の質が影響を受けている場合は、専門医療機関の受診を勧めます。夜間頻尿は、膀胱貯留障害、多尿、夜間多尿、および睡眠の問題によって引き起こされる可能性があります。排尿の回数や量を記録する「排尿日誌」で原因を特定し、それに応じた治療を行うことが重要です。膀胱貯留障害は泌尿器疾患によって引き起こされることが多く、水分摂取量、下肢のむくみ、および高血圧をチェックすることが夜間多尿症に役立ちます。睡眠の質を改善するには、生活習慣の見直しや、専門医や医師への相談が必要な場合があります。

 

6.失禁(尿漏れ)

尿失禁としても知られる尿漏れは、女性の3~4人に1人が罹患し、原因に応じてさまざまな種類と治療法があります。週に数回尿もれを経験したり、頻繁にトイレに行く場合は、信頼できる専門医に治療の指導を受けることをお勧めします。

 

  尿失禁の種類

尿失禁の種類には、(a)腹圧性尿失禁、(b)切迫性尿失禁、(c)溢流性尿失禁、(d)機能性尿失禁があり、次にそれぞれを説明します。

 

(a)腹圧性尿失禁(SUI: Stress Urinary Incontinence)

腹圧性尿失禁は、重いものを持ち上げたり、走ったり、ジャンプしたり、せきやくしゃみをしたりするなど、お腹に圧力がかかることで尿漏れが起こるタイプの尿失禁です。骨盤底筋の衰弱が原因であり、軽度の場合は骨盤底筋のエクササイズ*や減量で改善できます。

 

骨盤底筋のエクササイズ

次に示す4つの方法から身体的に可能なものを選択し、骨盤底筋のエクササイズを毎日正しく行うと、2~3週間以内に尿失禁の予防と改善に役立ちます。

 

(1) 足を肩幅に開いて仰向けに寝ます。 息を吸い込み、肛門と膣を胃に向かって5秒間締めてから、5秒間離します。これを5回1セットとし、1日5セット程度行います。

 

(2) 壁を背にして床に座り、膝を少し離します。肛門括約筋の近くに手を置き、骨盤底に感覚意識を集中します。寝転がる運動と同じように、1分間のサイクルを10回(約10分)繰り返します。

 

(3) 椅子の背もたれに背をつけて座り、肩の力を抜きます。肛門、尿道、膣を5秒間締め、陰部全体を感覚的に引き上げてからリラックスします。これを1分周期で10回(約10分)繰り返します。

 

(4) 足を肩幅に開いて立ち、両手を肩幅に開いて腰の高さのテーブルにもたれます。5秒間キープし、肛門、尿道、膣を締め、陰部全体を感覚的に引き上げてからリラックスします。これを1分周期で10回(約10分)繰り返します。

 

骨盤底筋を鍛える際の注意点は、肛門(おしりの穴)を締めることです。通常、お尻を締めると他の筋肉も同時に働くので、尿失禁の予防と改善に役立ちます。

 

おしりの穴を締めるイメージは途中で尿を止めることと同じ感覚で骨盤底筋を鍛えます。

 

上記の方法に慣れてきたら、次の方法も意識すると良いでしょう。

 

男性は睾丸の引き上げを意識。女性の場合は、膣で水分を吸い取ることを意識してください。また、お尻の割れ目にタオルを入れて、お尻でタオルをつかむのも効果的です。

 

(b)切迫性尿失禁(UUI:Urgency Urinary Incontinence)

 膀胱は尿を溜めるとき膨張し、逆に収縮して尿を放出しますが、これらは脳によって制御されています。しかし、この働きがうまくいかないと、自分の意思とは関係なく膀胱が勝手に収縮し、急に尿意を感じること(尿意切迫感)を引き起こし、切迫性尿失禁と呼ばれる尿もれを生じる場合があります。過活動膀胱は、尿意切迫感が主な症状で、切迫性尿失禁を引き起こすこともあります。この状態は、外出時や乗り物に乗るときにトラブルを引き起こします。脳血管疾患のように原因が明らかな場合もありますが、多くの場合、具体的な原因はありません。男性は前立腺肥大症が原因で切迫性尿失禁を経験することがありますが、女性は膀胱脱や子宮脱などの骨盤臓器脱が原因でそれを経験することがあります。

また、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁は合併することがあり、『混合性尿失禁』と呼ばれます。

 

切迫性尿失禁の治療

抗コリン薬は、過度の膀胱活動を抑えるために使用できます。専門医に相談して、症状に応じて薬の種類や量を調整することが不可欠です。 水分摂取量のコントロール、骨盤底筋トレーニング、膀胱トレーニング*などの行動療法も組み合わせて使用できます。

 

※膀胱トレーニング(bladder training)とは、尿意を感じた後に排尿を抑え、排尿の間隔を徐々に広げることで、膀胱容量を増やし、排尿症状を改善するトレーニング方法です。

 

排尿機能と尿失禁のメカニズムを学び、排尿間隔を徐々に延ばしていく排尿計画を立てます。間隔は5~15分から15~60分に増加します。尿意を感じたら、患者はリラックスするか気を散らし、排尿の間隔を延ばしてください。運動は、患者が一度に200~400㎖の尿を保持し、睡眠中を除いて2~4時間ごとに排尿できるようになるまで、患者の排尿状態に合わせて調整されます。

 

(c)溢流性(いつりゅうせい)尿失禁

溢流性尿失禁は、尿が膀胱から完全に排出されずに溢れ出てしまうことで起こります。この状態は、男性の前立腺肥大または癌、および女性の子宮脱によって引き起こされる場合があり、尿道を開けて膀胱を収縮させることが困難になった可能性があります。直腸がんまたは子宮がんの手術による神経損傷も、この状態の一因となる場合があります。残尿は細菌感染や腎臓の問題を引き起こす可能性があるため、早期に医師の診察を受けることが重要です。

 

溢流性尿失禁を治療するには、尿道狭窄の根本的な原因に対処する必要があります。原因が前立腺肥大である場合は、そのサイズを小さくするために投薬や手術が必要になることがあります。頻尿の薬で治療すると、症状が悪化する可能性があり、薬だけでは対処できなくなります。多くの場合、手術または断続的なカテーテル挿入が必要です。

 

 間欠的カテーテル法では、膀胱の容量が500㎖を超えないように、定期的にカテーテルを使用して膀胱を空にします。カテーテル挿入の頻度は、生成される尿の量に基づいて調整する必要があります。

 

(d)機能性尿失禁

機能性尿失禁は、泌尿器系に問題はなくても、トイレからの物理的な距離などの環境要因や、認知症や歩行困難などの精神的および身体的な制限により、個人が膀胱を制御できない場合に発生します。たとえば、認知症の人はトイレの使い方がわからなかったり、時間通りにトイレに行けないことがあります。そのような場合、介護やリハビリによって生活環境を改善することができます。

 

※医療機関における尿失禁の診断

尿失禁を診断するには、医療機関でさまざまな検査を行い、患者さんの尿失禁のタイプを特定する必要があります。

 

診断プロセスは、尿漏れが発生した時期、排尿の頻度と量、およびその他の関連情報を判断するための問診から始まります。患者は、排尿日誌を数日間記録するように求められる場合があります。病歴、妊娠・出産歴、服用している薬、職歴、生活習慣などもお聞きします。スムーズな診断を確実にするために、検査前にこれらの情報を要約することをお勧めします。

 

尿検査、パッドテスト(尿失禁患者において、体動時の失禁尿をパッドにより採取し、定量的な尿失禁の評価を行うテスト)、超音波残尿量測定などの非侵襲的検査を使用して診断を行います。医師はまた、骨盤底筋の動きを評価するために内診を行い、原因を特定するために脳と脊髄のCT画像を使用することもあります。

 

1) 排尿日誌

数日間の排尿状態を患者や家族に記録してもらうものです。どのような時に尿が漏れるのか、1日の排尿回数や1回の排尿量、尿意切迫感などから、尿失禁の原因を推定して、その後どのような検査が必要かを分析する資料にします。

 

2) 内診・超音波検査

内診台にて、膣の中に入れる超音波と会陰(膣の表面)からの超音波検査を行い、尿道の過可動や骨盤底筋の動きを確認します。

 

3) 膀胱・尿道内圧測定

尿道から膀胱に細い管を入れて、その管から水を少しずつ入れて膀胱や尿道の圧力を測定するものです。尿をためる時や排尿する時の膀胱の圧力を測り、膀胱や尿道の機能に異常がないか調べます。

 

4) 尿流量測定

機械のついたトイレに排尿して頂き、排尿の勢いと時間を測ります。

 

5) 残尿測定(超音波検査)
 排尿後に膀胱内の尿が残っていないかを超音波で調べます。

排尿日誌(FVC)の効果 

排尿日誌は、FVC (Frequency Volume Chart) とも呼ばれ、起床から翌朝までの時間と排尿量を記録します。特別な知識や技術を必要とせずに、被検者の排尿状態や失禁タイプに関する情報を提供できるツールとなります。

 

排尿日誌は排尿ケアの質の向上に役立ちますので、定期的に記録することをお勧めします。医師はこの排尿日誌を使用して、下部尿路機能障害を検査および診断できます。

 

排尿日誌には、頻度量チャート、膀胱日誌(エントリ数が最も多い)、排尿時間チャートなど、いくつかの種類があります。主に尿の頻度と量を記録する頻度量チャートは、しばしば排尿日誌と呼ばれます。

 

排尿日誌は、頻尿または尿失禁に苦しむ患者にとって特に有用です。 排尿回数、失禁回数、失禁量、1回の排尿量、1日の排尿量などのデータを記録することで、医師は客観的に症状を観察し、尿失禁の種類を判断することができます。そして排尿障害の程度を把握します。

 

患者へのインタビューだけでは、排尿習慣を理解するには不十分な場合があります。たとえば、問診中に頻尿を訴える患者は、多尿と誤って診断される可能性があります。ただし、排尿日誌は、患者の排尿習慣に関する客観的な情報を提供し、下部尿路機能障害の診断と治療に役立ちます。

 

排尿日誌を使用することは、尿の状態を監視するための経済的で非侵襲的な方法でもあります。患者は、日誌を書き続けることで、自分の排尿習慣を見直し、自己監視スキルを向上させることができます。

 

まとめると、排尿日誌は、排尿状態を評価し、下部尿路機能障害の効果的なケアを提供するための有用なツールです。排尿の時間と量、および尿失禁の状態を記録することにより、患者と医師は尿のパターンをよりよく理解し、より効果的な治療計画を立てることができます。

 

排尿日誌のつけ方

排尿日誌は、排尿の頻度、尿の量、水分をいつ飲んだかなど、排尿にまつわる習慣を記録するものです。医師が膀胱や尿道の問題を診断するのに役立ちます。

 

実際の排尿日誌のつけ方は次のとおりです。

 

①  排尿にまつわる日常を少なくとも24時間、理想的には3日間記録します。

①  飲水または排尿するたびに用紙に記入してください。排尿の時間と量、漏れや尿意を書き留めます。

②  カップ等を使用して、トイレに行ったときに排泄される尿の量を測定します。おむつを着用している場合は、濡れたおむつの重さを量ってください。

①  水分をいつ、どれだけ飲んだかを記録します。

①  意思表示が難しい場合は、事前に計画を立て、実際の状況を記録してください。

②  不快感や尿漏れを感じた場合は、それらを書き留め、可能であれば原因を記録してください。

③  24時間後、次の排尿までに用紙に記入してください。

①  膀胱訓練中も排尿日誌をつけておくとよいでしょう。

②  医師が十分な情報に基づいた診断を下せるように、正確かつ最後まで一貫して記録することを忘れないでください。

 

排尿時刻と尿量、特記事項

トイレで排尿した時、尿量を測定して記入する。

 

排尿量の測定は、目盛り付き紙コップ、採尿器などで行う。おむつに排尿した場合は、ぬれたおむつの重さをはかり、乾いた新品のおむつの重さを引いて、排尿量とします。

おむつをしていて、自分で尿意を訴えない方の場合は、1時間ごとにおむつのぬれ具合をチェックして、排尿時刻を調べるなど工夫してください。

 

意思表示できない方の場合は排尿の法則性を読み取るため事前計画をたて実際の状況を記録します。

 

排尿した時間については、尿意があってトイレへ行ったのかどうか(あったら☑を記入)

 

尿切迫感(我慢のできない尿意):それまで何もなかったのに突然トイレに行きたくなり、がまんすることが難しい症状があれば☑を記入。


排尿時の違和感(残尿感、痛みなどをメモする)

 

尿もれ、特記事項

尿がもれた場合は☑をつける。漏れた原因について以下を参考にメモ欄へ記録する。

 

次の尿もれ量の量り方を参考に、パッドの重さを量った時は重さを記入する。

 

尿もれ量の量り方(パッドテスト)

(尿もれ後のパッドの重さ)-(もともとの新品パッドの重さ)= 尿もれ量(g)

 

水分摂取時間と飲み物種別・量

飲み物の種類と量の目安を参考にして、飲んだ飲み物の量を記入する。

 

飲み物種別

(A)水

(B)日本茶・紅茶・コーヒー

(C)ジュース・コーラ・炭酸飲料

(D)日本酒・ビール・水割り・ハイボール

(E)味噌汁・スープ・他

 

飲み物の量の目安

(A)コップ(高さ 約8.5cm):約180ml

(B)湯呑み(高さ 約6cm):約120ml

(C)コーヒーカップ(高さ 約6cm):約120ml

(D)マグカップ(高さ 約7cm):約200ml

(E)汁椀:約150ml

●記入開始から24時間経過したら、その次の排尿までを1枚の表に記入するとよいでしょう。

●膀胱訓練期間中は連続して記録することが望ましい。

 

排尿日誌の解釈

①   夜間(夜間生成)の尿量とは、就寝後と起床時の尿量の合計です。

②   昼間の尿量とは、起床時尿量を除いた就寝までの総尿量です。

③   排尿量は、失禁尿量と自然排尿量を区別します。

④   おむつの場合、使用後のおむつの重量から使用前のおむつの重量を差し引いて、排尿量を算出します。

⑤   排尿日誌に排尿の時間と量、尿失禁の状態を記録することで、排尿の状態と尿失禁の種類を大まかに把握することができます。排尿パターンを知ることは、排尿ケアの計画にも非常に役立ちます。

⑥   排尿日誌に水分摂取時間と水分摂取量を記録することで、尿量と比較することができます。

⑦   食事に含まれる水分は、汗、呼吸、糞便として排泄されると考えられるため、水分摂取量の記録には含めないでください。

⑧   3日程度の記録が望ましいですが、これが難しい場合は精度が落ちますが1日の記録でも可能です。

⑨   排尿日誌は、専門家による診断に役立ちます。大切に保管し、専門医を受診する際にお持ちください。

⑩   排尿から飲水までの間隔、尿量、飲水量を比較することで、多飲・多尿による頻尿を改善する「膀胱トレーニング」の目標を設定することができます。つまり、最大排尿量は、その時点まで尿を保持できる膀胱容量を示します。最長の排尿間隔と膀胱容量によって、我慢できる目標が決まります。

  1日に数回、合計500~1200㎖の水を飲むことをお勧めします。特に、過度の飲酒による夜間多尿の患者には、朝は水分を多く、午後は水分を控え、夕食後は水分を制限するようにアドバイスする必要があります。

 

排尿日誌の事例検討

特徴的な排尿日誌の事例を5つ示します。ただし、参考文献として、Nursing Times 28.01.15/Vol 111 No 5/www.nursingtimes.netから得たので、米国人は体格がよく尿量も日本人より多目です。

 

図1.健常者(38才女性)の排尿日誌

日中排尿回数   5~7回

夜間排尿回数   0~1回

1日排尿回数   6~7回

1日排尿量  1,900~2,000㎖

最大1回排尿量    500㎖

 

図2.腹圧性尿失禁症例(29才女性)

水分摂取量    

1日摂取回数     11回

1日摂取量       2,080ml

カフェイン飲料摂取回数  6回

尿の排出と失禁       

日中排尿回数     7回

夜間排尿回数     1回

1日排尿量       1,925㎖

最大1回排尿量          450㎖

失禁状況         5

パッドの使用   

商品名        Panty liner

使用頻度         5

 

図3.過活動性膀胱症例(48歳男性)

水分摂取量    

1日摂取回数     7回

1日摂取量       1,450㎖

カフェイン飲料摂取回数  6回

アルコール飲料          1回

尿の排出と失禁       

日中排尿回数     12回

夜間排尿回数     2回

1日排尿量       ※不明

失禁状況         1回

パッドの使用   

商品名        なし

使用頻度         0

 

図4.間質性膀胱炎症例(55才女性)

水分摂取量    

1日摂取回数     13

1日摂取量       2,150㎖

カフェイン飲料摂取回数  5回

アルコール飲料          1回

尿の排出と失禁       

日中排尿回数     17回

夜間排尿回数     7回

1日排尿量       90㎖

失禁状況         5回

パッドの使用   

商品名    給水パッド

使用頻度         3回

 

図5.混合性尿失禁症例(42才女性)

日中排尿回数  10回

夜間排尿回数  2回

1日排尿回数  12回

1日排尿量 980㎖

最大1回排尿量   130㎖

 

※下記のアドレスに排尿日誌の様式を置いておくので、ダウンロードしてご利用くださいhttps://www.sutokukai.or.jp/cssc/about/haisetsu.html

失禁の種類を検出する自動プログラム 

適切なケアを行うためには、尿失禁の症状や種類を理解することが重要です。状況によって必要なケアが異なりますので注意が必要です。

 

排尿障害タイプ自動判別プログラムによる排尿の状態と行為を観察することによる排尿障害タイプの識別結果は、専門医による診断とよく一致することが示されています。(出典:名古屋大学泌尿器科)

 

【排尿障害タイプ自動判別プログラムの使い方】

プログラムの使用方法は、チェックリストの各質問内容に該当した場合は、項目欄をクリックして☑を入れることで、各質問のポイントを自動計算し、排尿障害のタイプを想定します。プログラムは失禁のタイプや排尿障害を判定できます。一定値より大きい値は陽性の診断を示します。また、複数の診断結果を示す場合がありますので、注意してください。

 

※下記のアドレスに排尿障害タイプ自動判別プログラムを置いておくので、エクセルをお持ちの場合は、ファイルをダウンロードしてご利用いただけます。

https://www.sutokukai.or.jp/cssc/about/haisetsu.html

排便トラブルの考え方と対処法 

排便障害は、便秘(排便困難)、下痢(頻繁で軟便)、便失禁(便の漏れ)などの排便に関連するトラブルです。これらのトラブルは、病気、加齢、投薬など、さまざまな要因によって引き起こされる場合があります。

 

排便障害の原因は、結腸、直腸、肛門の異常の3つに分類されます。これらのトラブルは、腫瘍や炎症などの大腸に影響を与える病気や、糖尿病、腎不全、甲状腺などの全身性疾患に起因する可能性があります。 加齢、肛門手術、骨盤底筋の弱体化などの要因も、排便の問題の一因となります。

 

排便のトラブルに対処するには、排便を監視し、頻度、タイミング、またはその他の特徴の変化に注意することが重要です。排便のパターンは人によって異なるため、日記をつけて記録してください。これらの問題を管理しようとするときは、身体能力、運動、食事、投薬などの要因を考慮してください。排便が困難な場合は、肛門から便を指で取り除く摘便や浣腸などが必要な場合があります。この場合については、医師や訪問看護師に助けを求めるのが最善です。

 

排便障害を予防するには、十分な水分を摂取し、野菜を多く含むバランスの取れた食事をとり、定期的な排便習慣を維持してください。便秘や下痢が続く場合は、専門家に相談することをお勧めします。

 

便失禁の場合は、トイレに簡単にアクセスできるようにすること、適切なタイミングで排便すること、排便後に徹底的に体をきれいにすることが重要です。この状態を管理するために、おむつなどの製品を使用する必要がある場合もあります。問題が解決しない場合は、専門家に相談することをお勧めします。複数の薬や下剤を長期間服用している高齢者は、専門医に相談して、投薬計画が適切であることを確認する必要があります。 

排便管理に必要な知識 

  排便管理に必要な知識

排便管理を維持するには、排便の頻度と便の硬さを監視しながら、下剤の摂取量を調整する必要があります。排便が困難な場合は、浣腸、座薬、摘便が必要になることがあります。

 

  定期的な排便の重要性

定期的な排便がないと、肛門への食物や消化液の流れが妨げられ、腹部膨満、痛み、吐き気、嘔吐、さらには腸の壊死を引き起こし、生命を脅かす可能性があります。したがって、健康を維持し、便失禁を防ぎ皮膚の問題を回避するには、定期的な排便を促進することが重要です。

 

  便の質を理解する

ブリストル便性状スケールは国際的に認められた便の質の尺度です。1(硬い便)から10(水っぽい便)までの範囲の10点スケールで便の硬さ、形状、およびその他の要因を評価します。正常な便の硬さは3~5の間です。

 

 

正常な便の水分含有量は70~80%が一般的です。黒い便は上部消化管からの出血を示唆している可能性があり、赤い便は大腸、直腸、または肛門からの出血を示唆している可能性があります。白い便は、ロタウイルス感染症、炎症、または肝臓や胆嚢のがんを示している可能性があります。

 

便秘は、基礎疾患や身体機能の低下、食事や水分の摂取、薬の副作用、ストレスなど、さまざまな要因によって引き起こされます。

 

便秘はメカニズムによって器質性便秘と機能性便秘に分類できます。器質性便秘は胃や小腸、大腸、肛門などに何らかの基礎疾患があり、それが原因で便秘になっている状態で、器質性便秘は医師の診察が必要となるので注意が必要です。

 

機能性便秘は自律神経のバランスが崩れ、大腸が機能不全を起こしたことによる便秘です。食生活や生活習慣が原因で起こり、日常生活の改善で便秘も快方に向かうので、排便管理で管理できます。機能性便秘はさらに弛緩性と痙攣性、直腸性の3つに分類されます。

 

弛緩性便秘は、食物繊維の不足や運動不足、腹筋力の低下が原因で大腸の運動機能が低下して腸の中で長期間、便が滞留することによって起こります。例としては、デスクワークで着席時間が長い場合になりやすく、主に高齢者や事務員、妊婦などに多くみられます。

 

痙攣性便秘は、大腸の過緊張によりぜんどう運動が強くなり過ぎて腸がけいれんを起こし、便の輸送に障害をきたしている状態です。大腸の働きを調節する自律神経がバランスを崩すことによって起こります。生活上の強いストレスや、ストレス解消が下手な人がなりやすく、若年者やサラリーマンに多くみられます。

 

直腸性便秘は、便が直腸に到達しても便意を催さず、直腸内に留まってしまうために起こる便秘です。便意を我慢したり、浣腸の乱用で排便リズムが崩れた人に起こります。特に高齢者や寝たきり、不規則な生活の人などによくみられます。便秘の対策として、不溶性食物繊維や水溶性食物繊維などの食物繊維は、腸の蠕動運動を促進し、腸内環境の改善に重要な役割を果たします。海藻、オクラ、サトイモ、果物は、水溶性食物繊維の優れた供給源です。

 

腸内フローラまたは腸内微生物叢としても知られる腸内細菌は、人間の腸管に生息し、消化器の健康に重要な役割を果たします。バランスの取れた食事を維持し、下剤への依存を避けることは、善玉菌を促進し、消化器系の問題を防ぐのに役立ちます。なお、排便管理表を記録することは、消化器の健康を監視するためのツールにもなりますので、利用をお勧めします。

 

※下記のアドレスに排便管理表の様式を置いておくので、ダウンロードしてご利用ください

https://www.sutokukai.or.jp/cssc/about/haisetsu.html

排泄物による失禁関連皮膚炎IAD 

排泄物によって引き起こされる失禁関連皮膚炎(IAD:Incontinence Associated Dermatitis)について理解を深めることは重要です。

 

排泄物関連失禁による皮膚炎

失禁関連皮膚炎は、皮膚が排泄物、滲出液、排泄物などの刺激性の液体に長時間さらされると発生します。このさらされた部分は、浸軟(しんなん:皮膚が大量の水分を吸収し、腫れて白くなる現象)が発生し、損傷を受けやすくなります。皮膚への刺激が続くと、皮膚のバリア機能が徐々に低下し、最終的には皮膚障害につながります。尿や糞便にさらされることによって引き起こされる失禁関連皮膚炎は、褥瘡の危険因子でもあるため、特に懸念されています。

 

水分による肌の変化

正常な皮膚細胞は、外部からの刺激や水分に対するバリアとして機能します。しかし、発汗や失禁などで皮膚の湿った状態が長く続くと、角質細胞(皮膚細胞)が水分を吸収して膨らみ、それらをつなぎとめている構造が崩れてしまいます。その結果、皮膚の耐久性やバリア機能が弱まり、表皮剥離が起こりやすく、異物や微生物が侵入しやすくなります。

 

排泄物関連の失禁による湿った皮膚

多汗症、多量の汗、失禁による便や尿の汚染で湿った皮膚は、IADの発症につながる可能性があります。これは、尿失禁または便失禁のために臀部の皮膚が常に湿っている場合に発生します。

 

失禁関連皮膚炎を理解するには、先ず、皮膚の役割と構造を理解することが重要です。皮膚の主な機能は、外部要因から身体を保護するバリアとして機能することで、表皮、真皮、皮下組織(脂肪)の3つの層で構成されています。表皮には、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4つの層があります。基底層は、毎日新しい細胞が生成される最下層であり、成熟するにつれて、皮膚の表面に向かって上方に移動します。一番外側にある角質層は、水分を保持するセラミドなどの脂質で満たされ、皮脂腺からの皮脂や汗で覆われています。

 

簡単に言えば、健康な肌は、水分の蒸発を防ぎ外的要因から守る皮脂膜(一次バリア)と、水分を保持して肌の潤いを保つ角質層(二次バリア)の2層構造になっています。

 

加齢による皮膚変化

表皮の一番内側にある基底層でつくられた細胞が分裂して新しい細胞をつくり、少しずつ形を変えながら肌の外側の層に向かって押し上げられます。角質層まで到達した細胞がやがて垢となって剥がれ落ちることで、表皮の細胞が生まれ変わります。

 

年齢を重ねるにつれて、肌はさまざまな変化を遂げます。細胞分裂の能力が低下し、表皮が薄くなります。細胞が最下層から表層に移動して生まれ変わるサイクルも遅くなり、角質層が厚く老化していきます。また、皮膚は細胞間脂質の生成が少なくなり、毛包や皮脂腺からの汗や皮脂の分泌が減少するため、水分を保つのが難しい乾燥肌になります。また、真皮や皮下脂肪のコラーゲンやエラスチンなどの繊維が減少し、弾力が失われます。バリア機能や物理抵抗力が低下した乾燥肌は、老化肌の典型です。高齢者では、尿や便からの水分によって引き起こされる皮膚の浸軟が原因で、失禁関連皮膚炎が発生することがあります。

 

浸軟による失禁関連皮膚炎

失禁関連皮膚炎は、尿や便が皮膚に触れることによって引き起こされる皮膚炎の一種で、おむつを着用する高齢者にとって大きな問題となっています。高齢者の皮膚は弱く、尿や便の刺激が通りやすくなっています。おむつはまた、湿気によりムレが生じ、問題を悪化させる可能性があります。皮膚が湿った状態で長時間続くと、むくみや刺激を受けやすくなります。少しこすったり動かしたりするだけでも、赤みやただれの原因となります。

 

失禁関連皮膚炎の予防と自立排泄への取り組み

失禁関連皮膚炎を予防するためには、横になったままの排便を避けることが重要です。特に、座位になると重力や内臓の重みで排便が楽になります。また、おむつだけに頼るのではなく、自律的な排便を促し、浸軟を引き起こす可能性のある尿、軟便、水様便では、トイレを使用することが役立ちます。ただし、ADLの低下や下痢のある方はおむつが必要です。最も重要なことは、失禁関連皮膚炎を防ぐための適切なスキンケアと、適切なタイプのおむつの使用が必要です。

 

失禁関連皮膚炎予防のためのスキンケア

失禁関連皮膚炎を予防するには、徹底した洗浄、保湿、保護、おむつの選択が重要です。それらを順番に見ていきましょう。

 

  洗浄

刺激の少ない洗剤を使用して、性器と臀部を1日1回洗います。皮膚バリアを刺激して弱め、IADのリスクを高める可能性があるため、細かい粒子を含んだ洗剤やごしごし擦ることは避けてください。すすいだ後、真菌感染を防ぐために鼠蹊部と臀裂に特に注意を払いながら、その部分をそっと押して乾かします。物理的な刺激や感染を避けるために、柔らかく、吸収性の高い使い捨ての拭き取り布等を使用してください。

 

  保湿

肌の乾燥を防ぐため、洗顔後はすぐに保湿をしてください。そのためには、のびがよく、すばやくのびる水溶性保湿剤が、最適な保湿ケアとしてお勧めです。

 

  保護

保護剤で皮膚表面を保護し、便の付着や水分の蒸発を防ぎます。1日の尿量や体型に合わせて、吸収性・通気性に優れた高機能商品を選びましょう。パッドを重ねて貼ると、漏れやムレ、浸軟の原因となりますので、避けましょう。ギャザーを頻繁にチェックして、股間部分にぴったりとフィットするようにします。

 

  おむつの選択

摩擦や滑りを軽減し、通気性と吸収性に優れた高機能製品を選択してください。その人の1日の尿量と体型に合わせて、適切なサイズと量を選択してください。スキンケアは日中に行い、生活リズムを整えて、ぐっすり眠れるようにしましょう。

 

失禁関連皮膚炎予防は、皮膚の痛みと不快感を避けるための鍵です。安心の介護がスタッフの負担を軽減し、高齢者のQOLを向上させます。高齢者の地域での在宅ケアへの移行に伴い、介護者は褥瘡やスキンケア、失禁関連皮膚炎について理解を深め、予防ケアを推進する必要があります。

おむつの当て方、交換の仕方 

介護者によっておむつの装着方法は異なる場合があり、おむつが適切にフィットするよう装着するための重要な手順がいくつかあります。これらの手順に従うことで、漏れを防ぎ、おむつが利用者にとってより快適なものとすることができます。おむつ装着のポイントは次のとおりです。

 

1. おむつ・パッドの準備と装着方法

①  軽く引っ張り空気を入れること(さもないと、ふわふわクッションがなく隙間ができて身体にフットしない)

②  ディスポ手袋を着用すること(さもないと、衛生的でない手で菌を媒介する恐れがあり、相互に安全を保つ必要がある)

③  パッドやおむつを振らないこと(おむつの中の吸水ポリマーが偏り尿漏れの原因となる)

④  包装されたおむつやパッドは、きっちりたたまれ圧縮されているので、パッドの長方両端を持ち軽く引っ張る。すると、パッドのギャザーがしっかり立って、パッドが立体の船形になり、体にフットするようになる。

⑤  おむつを広げ、縦の中心で折ってから左右に伸ばすことで、立体ギャザーをしっかり立てる。(さもないと尿を堰き止められずに漏れの原因となる)

⑥  ギャザーをしっかり立てるためには、介護者は人差し指と親指を開き、ギャザーの端から端まで内側を通してギャザーを確実に立てる必要がある。(ギャザーが立っている確認の意味でも実施する)

 

2.おむつを交換をするには

①   ベッドの高さを調整して、利用者を介助する必要がないようにします。

②   介護者側のサイドレールを取り外します。

③   ラテックス手袋やプラスチック手袋などの清潔な使い捨て手袋を着用します。

④   おむつを替えるときは、きれいなところと汚いところを見分ける。ユーザーの顔に近い手は清潔であると見なされ、ユーザーの足に近い手は汚れていると見なされます。頭側の手で物を持ち上げたり、シャワーボトルを持ち、足側の手で陰部を拭きます。汚れた手できれいな部位に触れたりしないでください。

 

3.おむつ交換の際は、異常の早期発見に努める

おむつ交換の際は、肛門、外陰部、下腹部、臀部、股間など、おむつカバーの縁が擦れる部分の赤み、湿疹などの肌トラブルを確認します。また、便の硬さ、色、臭いなどの性状や尿の色、濁り、固形物などの変化を確認し、尿路感染症の症状を示しているか確認します。

 

4.テープ式おむつの当て方手順

①   まず、おむつの端を腰に合わせ、しっかりと固定されていることを確認します。

②   利用者に横になってもらい、腰の部分がよく見えるようにします。

③   おむつの中心を背骨に当てて体の中心に合わせ、もれや不快感を防ぎます。

④   オムツを左右に伸ばして、ゴム部分が腰の位置になるようにします。

⑤   おむつを腰の下にスライドさせて広げます。

⑥   患者が仰向けになっている場合、おむつを裏側から優しく引っ張ってください。

⑦   おむつを足の間まで引き上げ、中心マークを体の中心線に合わせます。

⑧   おむつの前面を左右から腰の下に挿入します。

⑨   下のテープは骨盤に沿って斜め上向きに、上のテープは斜め下向きに貼り付けることで、歩行や、座位や寝た場合の突っ張り等の不快感を防ぎます。

⑩   最後に、前後左右対称に調整して、おむつの見栄えと快適性を確認します。

 

※当て方について、さらに詳しく説明すると

①  男女別の装着

テープ式おむつ・失禁パッドの男女別装着方法は、女性は幅の広い方を後ろ、男性は前にしてください。尿道口は、広い部分の中央に配置する必要があります。ただし、男性の場合はペニスの向きによって配置を変える必要があります。後ろを向いている場合は、女性のように配置する必要があります。

 

  パッドはズレないようにギャザーに収める

テープタイプのオムツにパッドを入れる際は、オムツのギャザーの縦横中央に挟み、ズレを防止してください。パッドが大きすぎる場合は、ギャザーの上に置きます。

 

  おむつが傾いていないかを確認

おむつが傾いていないか、パッドが適切に配置されているかを確認してください。(仮にずれて尿道口がパッドのギャザーに当たると、ギャザーは撥水加工なので、尿をはじきます。すると、パッドはきれいなのに衣類は濡れるという不思議な現象が生じる場合があるので注意)基本的にはテープ式と同様に、前後左右対称になるようにセットするのが基本です。

 

※パッドを中心に当てない例外処置

片麻痺の方や、半側臥位(はんそくがい)で寝る習慣をお持ちの方などは、パッドの中央よりも外側に尿が流れてしまう傾向があり、パッドが片方だけ汚れて、外に漏れる場合があります。この場合は、パッドを漏れやすい方に少し寄せることで対処できます。

 

  おむつのシワを伸ばす

もれや肌へのダメージを防ぐためには、テープタイプのオムツやパッドのシワを伸ばすことが大切です。両方を持ち、つま先に向かって左右に軽く1回ずつ引っ張ります。皮膚の損傷を防ぐため、強く引っ張りすぎないでください。(この加減が重要で、強すぎると皮膚の損傷等につながるので、優しく引く程度である)しわがあると、身体との隙間ができ、漏れや皮膚を傷める原因になります。また、しわがあると、お尻がモコモコして、ズボンを上げにくい状態になる。シワを伸ばすことで、ズボンを履かせやすくなり、更衣介助の負担も軽減できます。

 

  おむつを装着する

おむつを装着する際は、太ももの内側に当たって肌を傷めることがありますので注意が必要です。摩擦や痛みを防ぐために、おむつを半分に折ります。パッドのギャザーがしっかりと立ち上がり、股間と一直線になるようにします。おむつは股間より広く、内股部分の皮膚を擦ることになります。そこで、半分に折ってから(山折り谷折り何れも可)当てるようにします。パッドの当て方はメーカーにより、ギャザーを持つ、山折りにする、谷折りにする、つまむなど、推奨される方法は異なっています。基本的にはパッドのギャザーがしっかり立って、足の付け根である鼠径部に沿っていれば良いことになります。

 

  おむつに挟んでしまっている皮膚の処理

股間にパッドを当てる場合、筋肉量が少ない方ほど、皮膚がたるんで、周囲の皮膚を巻き込んでしまう場合があるので、外に出すようにしましょう。さもないと、皮膚を巻き込んで挟んだままにすると、おむつの中に隙間ができて、尿漏れに繋がります。パッドで皮膚をおむつに挟まないよう外に出しながら当てましょう。パッドはテープ式おむつのギャザー内に収めることが重要です。

 

  テープは上下が交差し、重なるように貼る

テープはパッドがずれないように下の両サイドから留めます。左右のバランスを考え斜め上の方向に持ち上げるようにしてテープを留め、太ももの外側がフィットしているのを確認します。このとき、テープを真横に向け留めるとまた関節の自由度が奪われ、特に動きが阻害され足が挙がらない状態になり歩行等もしにくくなります。

 次に上の両サイドのテープを留めます。上のテープは腸骨の上に係るように体の線に沿わせ斜め下方向きに留めます。真横に水平に留めると座位になったときに腹部を圧迫することに繋がります。逆にお腹まわりが緩いと漏れにつながるので注意が必要です。また、やせた方だと体にフィットせずに落ちる場合があるので留意してください。

 最後に、お尻の部分にしわがないこと、パッドがはみ出していないこと、前後左右対称でフットし、見た目が良いこと、利用者に不快感がないことが重要ですので確認してください。

 

  おむつ交換の後処理

おむつ交換後、汚れたらシーツやパジャマを交換し、ベッドのサイドレールを元に戻し、ベッドを元の高さに戻します。汚れたおむつやパッドを新聞紙で包み、袋に入れ、袋をしっかりと結んで廃棄に出します。そして、手洗い、消毒、部屋の換気をします。

 

  おわりに

 介護の負担を軽減し、不快感を与えないためには、おむつを正しく装着して漏れを防ぎ、肌を清潔に保ち褥瘡(床ずれ)や尿路感染症を防止することが重要です。

介護保険制度のしくみ 

介護保険の保険料は40歳から徴収されます。高齢化が進む日本では、80歳代前半で約3割、85歳以上で約6割が要支援・要介護認定を受けています。ちなみに、介護保険は申請しなければサービスは受けられませんので、介護制度を理解することが重要になります。

 

介護保険制度は「現物給付」が原則です

介護保険制度は、原則として「現物給付」です。これは、お金をもらうのではなく、介護サービスや予防介護サービスを提供するという意味です。これらのサービスを利用するには、発生した費用の10%から30%の負担をお支払いいただきます。

 

介護保険サービスの自己負担率

1.単身世帯(65歳位以上の人が1名のみ)

  65歳以上で本人の合計所得金額が280万円未満の場合→1割負担

  65歳以上で本人の合計所得金額が280万円以上340万円未満の場合→2割負担

  65歳以上で本人の合計所得金額が340万円以上の場合→3割負担

 

2.65歳以上の人が2名以上の世帯

  65歳以上で本人の合計所得金額が160万円未満の場合→1割負

  65歳以上で本人の合計所得金額が160万円以上220万円未満で、同一世帯の65歳以上の人の所得合計が346万円未満の場合

→1割負担

  65歳以上で本人の合計所得金額が160万円以上220万円未満で、同一世帯の65歳以上の人の所得合計が346万円以上の場合

→2割負担

  65歳以上で本人の合計所得金額が220万円以上で、同一世帯の65歳以上の方の所得合計が346万円以上463万円未満の場合    →2割負担

  65歳以上で本人の合計所得金額が220万円以上で、同一世帯の65歳以上の方の所得合計が463万円以上の場合→3割負担

  なお、上記に関わらず以下のような方は1割負担となっています。

   ・40歳以上64歳までの方

・生活保護受給者

・市区町村民税非課税者

※要介護・要支援認定を受けた方は、毎年7月頃に市区町村から負担割合が記された証(負担割合証)が交付されます。自身の負担割合証の「利用者負担の割合」の欄にて自己負担割合は確認することができます。

 

補足

※1).合計所得金額とは、収入金額から必要経費に相当する金額(収入の種類により計算方法が異なる)を控除した金額のことで、扶養控除や医療費控除などの所得控除をする前の金額である。なお、分離譲渡所得に係る特別控除がある場合は、合計所得金額から特別控除額を控除した額を用いる。

※2).年金収入には非課税年金(障害年金・遺族年金)は含まれない。

※3).その他の合計所得金額とは、合計所得金額から、年金収入に係る雑所得を除いた金額である。

 

また、介護保険制度は現物給付です。要支援・要介護度ごとに月々の標準支払限度額が設定されており、超過分は本人負担となります。 ただし、利用者が月の上限額を超えて支払った場合、超過額を返金する「高額介護サービス費」があります。

 

ご自身でサービスを支払い限度額内に組み合わせるのは難しいため、要支援認定を受けた方は地域包括支援センターの職員による支援を受け、要介護認定を受けた方はケアマネジャーと呼ばれる介護支援の専門家による支援を受けます。ケアプラン(介護サービス計画)を作成し、サービス提供者と連携して適切な介護サービスを利用します。なお、市町村は、ケアプランの作成にかかる費用を全額負担します。


※額は介護報酬の1単位を10円として計算

 

介護保険制度は年齢により受けられる保障が異なる

介護保険制度は、年齢に応じてさまざまな給付が受けられます。介護サービスを受けるには、要支援・要介護認定を受ける必要があります。65歳以上の方(第1号被保険者)は、原因のいかんを問わず、一定の条件を満たすと要支援・要介護認定を受けます。ただし、40歳から65歳までの方(第2号被保険者)については、特定の疾病のみが認定対象となります。

 

※次に特定疾病の一覧を示す。

1.がん(末期)

2.関節リウマチ

3.筋萎縮性側索硬化症

4.後縦靭帯骨化症

5.骨折を伴う骨粗鬆症

6.初老期における認知症

7.進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病

8.脊髄小脳変性症

9.脊柱管狭窄症

10.早老症

11.多系統萎縮症

12.糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症

13.脳血管疾患

14.閉塞性動脈硬化症

15.慢性閉塞性肺疾患

16.両側膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

 

支援・介護認定は、認定調査員による調査と主治医の意見により決定します。「要支援」とは、自立生活はできるが部分的な介助が必要な状態をいいます。「要介護」とは、運動機能が低下し、思考力や理解力が低下していることを意味します。認定条件は、心身の状態や生活環境により異なる場合があります。

 

以下は、認定の具体的な状況です。

 

要支援1

このレベルでは、掃除や身の回り品の手伝いが必要で、複雑な動作のサポートが必要になる場合があります。 ただし、ほとんどの場合、その人は自分の面倒を見ることができます。

 

要支援2

このレベルでは、身の回りの世話をする必要があり、複雑な動きにはサポートが必要な場合があります。 ただし、ほとんどの場合、その人は自分の面倒を見ることができます。

 

介護度1

このレベルでは、身の回りの世話をする必要があり、複雑な動きにはサポートが必要な場合があります。 ほとんどの場合、自分のことは自分でできますが、行動に問題があったり、理解力が低下している可能性があります。

 

介護度2

このレベルでは、排泄と食事の介助、身の回りの世話と複雑な動作の介助が必要です。 問題行動や理解力の低下がみられることがあります。

 

介護度3

このレベルでは、身の回りの世話、排泄、および複雑な動作に介助が必要であり、歩行や自力での移動ができない場合があります。問題行動や理解力の低下がみられることがあります。

 

介護度4

このレベルでは、身の回りの世話、排泄、および複雑な動きに介助が必要であり、患者は自力で動くことができません。 その人は、多くの問題行動や理解力の低下を抱えている可能性があります。

 

介護度5

このレベルでは、生活のあらゆる面で完全な支援が必要であり、その人は多くの問題行動や理解力の低下を抱えている可能性があります。

 

介護保険対象の介護サービスと対象外サービス

介護保険では、掃除や洗濯などの生活援助に関するサービスと、食事や入浴などの身体の介護に関するサービスが補償されます。保険の対象となる介護サービスは、認定区分やお住まいの市区町村によって異なります。介護サービスを利用するには、ケアマネージャーや地域包括支援センターの職員が作成するケアプランや介護予防プランが必要です。

 

ただし、散歩や趣味の外出、車での移動介助、家族や同居するペットの世話などの家事介助は対象外です。自己負担となりますが、介護を行うご家族の負担を軽減し、介護を受ける方の生きがいにもつながります。

 

介護保険の対象となる主な介護サービスの例は次のとおりです。

 

1.自宅で使用するサービス

  訪問介護:ホームヘルパーが入浴・排泄・食事などの介護や、炊事・洗濯・掃除などの家事を行います。

  訪問看護:医師の指示のもと、看護師が健康診断や療養のケアを行い、患者さんが自宅で療養できるようにします。

  福祉用具レンタル:日常生活や介護に役立つ福祉用具(車椅子、ベッドなど)をレンタルできるサービス。

 

2.日帰り施設利用サービス

  通所介護(デイサービス):食事や入浴のサポート、心身の機能維持・向上のための機能訓練、口腔機能改善サービスなどのデイケアサービスを提供しています。

  リハビリテーション外来(デイケア):施設や病院で理学療法士や作業療法士などによるリハビリテーションを行い、利用者の日常生活の自立を支援することで、利用者の心身の機能の維持・回復を目指すサービス。

 

3.宿泊サービス

  短期入院生活介護(ショートステイ):施設に短期間滞在し、食事や入浴のサポート、身体や精神の機能の維持・向上を目的とした機能訓練のサポートを行うサービス。

  特定施設入居者生活介護:有料老人ホームに入居されている高齢者の方が、生活支援や介護サービスを利用できます。

  特別養護老人ホーム:常時介護が必要で、自宅での介護が困難な方が入所する施設です。 食事や排泄などの一貫した介護を提供します。 (※原則として要介護3以上の方が対象です)

 

地域密着型サービス

  小規模多機能居宅介護:施設への「通学」を中心に、ご利用者様のご希望により、ご自宅での短期の「宿泊」と「訪問」を組み合わせた日常生活の中での介護が可能です。 . サポートと機能訓練を提供するサービスです。

  定期巡回・随時訪問介護:定期巡回や随時通報への対応など、利用者の心身の状態に応じて24時間365日、必要なサービスを柔軟に提供するサービスです。 訪問看護師や看護師などが連携し、介護と介護の一貫したサービスを提供しています。

 

介護保険料は40歳から一生涯払い続ける

介護保険料は40歳から一生涯徴収されます。要支援・要介護認定を受けてサービスを受けても、保険料は払い続けなければなりません。40歳になるとは、40歳の誕生日の前日で、その日の属する月から介護保険の第2号被保険者になります。例えば、5月2日生まれの場合、第2号被保険者になった日が5月1日となり、5月分の請求となります。

 

40歳から64歳までの第2号被保険者は、健康保険料と一緒に介護保険料を支払います。会社員の場合は給与から天引きされ、保険料は会社が負担します。支給時期は通常翌月の給与です。自営業の場合は、国民健康保険料と同時に全額を自己負担しなければなりません。国民健康保険料を滞納すると、介護保険料も滞納する可能性があり、将来の介護サービスの受給資格に影響を与える可能性があります。保険料の支払いが困難な場合は、役所に連絡してください。

 

65歳以上の第1被保険者は、2つの方法で介護保険料を支払うことができます。介護保険の被保険者証は、原則として誕生月の初めに送付され、翌月初めに保険料決定通知書が送付されます。納付方法は、保険料を年金から天引きする「特別徴収」と、銀行振込または納付書による振込で納付する「普通徴収」の2種類があります。特別徴収の対象となるのは、年金の年額が18万円以上である必要があります。特別徴収が望ましいですが、特別徴収対象者には各市区町村から通知がありますので、よく確認してください。

 

介護保険制度は、時代の変化に対応し、より持続可能なものにするために、3年ごとに定期的な見直しを行っています。これまでの改正で、高所得者の負担が増えた。現在、要介護・要支援にならないようサービスを充実させる改正が行われています。