「手で食べる」と聞くとみなさまどんなイメージを持たれるでしょうか。 お箸で食べるのがままならない幼い頃についつい手を使って叱られてしまったことや、育ち盛りの頃にお母さんの目を盗んでおかずをつまみ食いしたことを思い出すでしょうか。古くから箸を使う文化圏にあった日本人にとって、現時点で家庭の食卓で手を使う行為は褒められた行為ではないのかもしれません。しかし、同時に、寿司やおにぎりなど、場合によって手で食する習慣も確かに残っています。 世界にはさまざまな食べ方があります。東アジアを中心とする箸を使う方法、欧米を主とするカトラリーを用いる方法、そしてアジア・アフリカで主流でありその他の地域でも一部に残る手食です。手食人口は5割に達するという説もあり、食べ方としては世界標準、つまりグローバルスタンダードだといえます。 手食について「野蛮である」とか「未開の地で行われていることだ」と考える向きもあります。「不潔だ」という人もあるそうです。しかし、手食文化圏では手を洗う習慣が定着している一方で、その他の文化圏では手を洗う行為が省略されていたりします。誰が使ったか分からないナイフやフォークを使うことと、自らの手を使うことのどちらがより清潔かは議論の分かれるところでしょう。 「手食は二度おいしい」という言葉があります。食べ物をまず自分の手で確かめ、その後口に入れてじっくり味わうのです。手で触れられないような熱いものを口にすることは果たして正しいのでしょうか。手食には、現代日本人が忘れた、食べ物と向き合う姿勢を思い出させてくれます。まずは、手食にトライして下さい。箸文化を捨てるべきと主張するつもりは全くありませんが、ひとつのスタイルとして手食への理解が増すことを願います。 私が手食の普及を始めたきっかけは、自らが経営するレストラン(パクチーハウス東京)でのある試みからでした。2009年11月に新しくランチ業態で「地球を救うカレーライス」を始めようというときに、より美味しく食べていただくための方法をいろいろ考えていました。カレーの発祥とされる南アジアの歴史や風土を調べていて、「手で食べる」習慣を持つ人が、予想以上に多いことを知りました。 まずは自分たちで試してみました。すると予想以上に美味しく、しかも鮮烈な体験に楽しさを感じました。その後金属や木のスプーンを使って同じものを食べてみると、舌にスプーンが当たる瞬間に違和感を感じました。この違いを感じてほしいと、ランチのカレーライスをサーブするとき、手食を勧めることにしたのです。 お客さまの評判は上々でした。「手で食べることをお勧めしています」と聞いた瞬間はみなさま目を丸くするのですが、次第に食べる行為に熱中してくださいます。脳が活性化したなどと仰る方も多いですし、一気に口にかき込むことができないので、ゆっくりと落ち着いて食事をすることができ、満足感も増すようです。 「手食万歳!」 多くのお客さまからこの言葉をいただきました。食事を楽しむ方法の一つとして、手食を知ってほしい。食という毎日不可欠な行為を、より大切にしてほしい。そんな思いから手食の普及を決意いたしました。一人でも多くの方にご賛同いただきたいと切に願います。 日本手食協会・理事長 佐谷恭 |