Untitled
 
 

 キャノピーが開いた。天井が恐ろしく高い。艦内で飛行訓練でもするのか、そうでなければ昔アニメで流行った人型ロボット戦闘機でも格納するのに違 いない。操縦席から立ち上がり、下を見る。広いハンガーデッキの中を走り回る何人かのクルーの姿が小さく見えた。だが、何かがおかしい。機から降りて、よ うやくその違和感の正体に気づいた。静か過ぎるのだ。戦闘中のデッキともなれば怒号が飛び交うのは当然だ。それが、各人忙しそうに駆け回っているものの、 誰一人大きな声で叫んだり、乱暴な物音を立てるものがいない。妙な船だ。
 出迎えの姿も見えなかったが、とりあえず艦橋に行って着任報告をしなければなるまい。大体の方向に目星をつけ、エアロックを開く。背後で扉が閉まるとほ とんど同時に「エア圧が正常になりました」というサインが点灯し、入ったのと反対側の扉が開く。その目の前に子供が立っていた。子供といっても軍服を着て 敬礼しているので軍人なのだろう。パイロットスーツのAPC(Air Pressure Controller)を開放してヘルメットを脱ぎ、敬礼を返す。
「メトー少尉ですね」
 軍人らしからぬ小さな声だが、周囲が静かなのでよく聞こえた。メトーが頷くと、子供は微笑んだ。
「よかった、デッキは滅茶苦茶になっているので、かえってお会いできない可能性があるかと思ったんです。あ、申し遅れました、小官はイサと申します。階級は准尉です」
 こんな子供が准尉ということよりも、あの静か過ぎるデッキをして「滅茶苦茶」という神経に驚いた。
「艦橋にご案内するように仰せつかってます。どうぞ」
 イサの後について艦内を歩く。艦内の通路は柔らかい白にペイントされていて、飾り気のないホテルと言った趣だ。もちろん、戦艦に乗りなれた軍人なら、壁 に埋設された設備を覆い隠す目立たない継ぎ目に気づくだろうが、そうでなければここが戦艦だなどとは思いつきもしないだろう。さらに艦内には極小さな音で 音楽も流れていた。最初はどこか遠くの居室で音楽を聴いている兵がいるのかと思ったが、戦闘中の仮眠は居室とは別の仮眠室で取るはずなので、それは有り得 ない。いくら歩いても音量が変化しないところからも、艦内全体に放送されている音楽なのだと分かった。
 イサが振り返って、キョロキョロと辺りを見回しながら歩くメトーの姿に軽く笑った。
「ヴェジュー艦は初めてですか?」
「ああ‥‥造船所のドックで進水式が終わったばかりのヤツを見学したことはあるが、そのときはまだ内装が完全ではなかった。それに、音楽をかけるなんて初耳だ」
「ははっ、音楽は全てのヴェジュー艦でかけているわけではありませんよ。本艦は作戦参謀指揮官殿の指示で、放送しているんです」
「その作戦参謀指揮官というのが‥‥」
 言いかけたとき、イサが横道の通路にちらと目をやった。
「イサ准尉!」
 イサが視線をやった横道から、十五、六歳くらいの少女が駆け出してきた。息を切らすほど走ってきたようだが、床に緩衝素材を使用しているらしく足音がほとんどしなかったのでメトーは全く彼女に気づかなかった。少女は息を切らせながらも素早く踵をあわせ、敬礼をした。
「なんでしょう、バリエ少尉」
 イサも敬礼を返す。
「MPLセンターのドクが至急おいでいただきたいとのこと」
 イサは少し困ったような顔をして、メトーを窺った。その仕草でバリエと呼ばれた少女もメトーに気づいて視線を寄越した。
「メトー少尉、こちらバリエ少尉です」
 敬礼を交わす。
「メトーだ。今期の補充兵として派遣された」
「バリエだ。よろしく頼む」
 よろしくといいながらもバリエ少尉はメトーには全く無関心のようだった。無関心なだけではなく、なぜか軽く見下しているようにも感じられる。バリエ少尉 は敬礼の後軽くメトーに一瞥くれただけで、すぐにイサのほうに向き直ってしまった。メトーに対する態度のぞんざいさに比して、本来階級は下であるイサに対 する態度は丁寧なのも不思議だった。
「メトー少尉」
 イサは申し訳なさそうに振り返った。
「申し訳ないのですが、ここで失礼させて頂いても良いでしょうか? 艦橋はここを真っ直ぐ行った突き当りの廊下を若干右に行ったところですので」
「ああ、多分大丈夫だと思う。船の構造なんてどこも同じだ。忙しいところ、すまなかった」
「いえ、こちらこそ」
 イサは会釈すると、では、とバリエが来た道の方へと去っていった。その後をバリエが追っていく。その後姿は屋外で遊ぶ弟の守りをする姉のように見える。 よくよく思い返してみれば、ハンガーデッキにいたクルー達も例外なく十台半ばの少年少女ばかりだった。その頃の子供といえば、大人に敵愾心を抱くのが普通 だ。思春期の子供ばかりの環境に突然紛れ込んだメトーに対して敵愾心とは言わないまでも、違和感を抱いたのかもしれなかった。
 艦橋の扉を開くと、巨大なスクリーンモニターに向かってずらりと並んだオペレーターが見えた。オペレーターたちもやはり年端も行かぬ少年兵たちだ。その 少年兵の周りを時折指示を与えながらうろついている男がいた。彼はメトーに気づくと微笑んで近づいてきた。軍服は黒い生地に大きく白の切替の入った艦長服 だ。メトーは踵をあわせて敬礼した。
「フェリル・メトー少尉、本日付で本艦第二戦闘艇部隊に配属されました。着任の許可を頂きたく」
「うむ、戦艦ジルデガード艦長のジャック・フリュイ准将だ。貴官の着任を許可する。貴官も知っていようが、本艦の戦況は日に日に厳しくなっている。貴官の働きに期待する」
「はッ」
 フリュイはメトーよりも一回り年上のようだ。艦長ともなるとさすがに少年兵というわけにはいかないか、とメトーは苦笑を漏らすとともに、大人と言える人間が艦内にいた事に安堵した。
「左舷方向に敵影! 増援部隊です!」
 索敵モニターの前に座っていたオペレーターの少年が、声変わりし切らない甲高い声で悲鳴を上げた。
「うろたえるな!」
 フリュイ艦長の台詞としてメトーが予想していた通りの言葉が聞こえたが、声を発したのは艦長ではなかった。声の主は背後の艦長席の脇に立っていた。この 世のものとは思えないほど整った顔立ちだ。年の頃はメトーと同じか、少し若いくらいだろうか。佐官の軍服に身を包み、兵士達を指差しながら艶のある声を張 り上げて次々と指示を出していく。
「砲撃手! 引き続き右舷に弾幕を集中しろ!」
「う、右舷に弾幕を集中、サー!」
「左舷から回りこまれる前に敵陣を突破しきる! 主機関出力十パーセント上昇」
「主機関出力十パーセント上昇、サー!」
 その様子を黙って見守っていたフリュイ艦長はメトーに向かって頷くと、艦長席の指揮官を顎で指した。
「クラウス・メリヴィル中佐、本艦の作戦参謀指揮官だ。陣頭指揮は全て彼に任せている。本来なら彼も含めて貴官に挨拶をするべきなんだが、そういうわけで容赦されたい」
「とんでもありません。では、彼がこの艦の‥‥」
「そう、ヴェジューだ。なんだ、イサはそんなことも説明しなかったのか?」
「いえ、イサ准尉はMPLセンターに呼び出されました」
「ああ」
 フリュイは眉間を指先で押さえた。
「まあ、そろそろだろうとは思っていたが‥‥クラウスの大喰らいにも参ったものだ」
「は、はあ‥‥」
「クラウスの仕事振りは完璧だよ。彼がいなければ太陽系を三歩出たところで我が艦は宇宙の屑と消えていただろう。だが、ああも燃費が悪くてはなぁ」
「それで補充兵を?」
「軍には再三要求しているのだが、反応は良くないな。それというのも近頃本艦の戦績が芳しくないからだが‥‥補充兵もなしにあんな大喰らいを抱えてずっと結果を出し続けろというのが無理な話だ。こんな辺境の銀河で沈没せずに生き残っているだけでも評価して欲しいくらいだ」
 メトーが苦笑いを浮かべているのに気づいたのか、フリュイは口を閉じた。
「すまない、愚痴ってしまったな」
「いえ。せっかくの補充兵がこんな年寄りでガッカリされたのではないかと思っただけです」
 ここがヴェジュー艦でさえなければメトーなど青二才呼ばわりされる所だが、この環境では自分が若いとはとても思えなかった。
「なに、子供でないからといって、夢を見られないとは限らぬよ」
 艦長はメトーの肩を叩いた。
「それに私も、子供とヴェジューの相手ばかりでは疲れる。案外良い人選だと思うよ」
「ありがとうございます」
「クラウスには後で紹介しよう。長時間飛行で疲れているだろうから、まず休むがいい。本日は貴官の出撃は必要ない‥‥といいたいところだが、戦況によってはないともいえない。そのつもりだけはしておいてくれ」
「承知しました、サー」
 頷いて立ち去りかけたフリュイはハタと立ち止まった。
「そうか、メトーを居室へ案内せねばならんな」
「位置を教えていただければ自分で行けます」
「うむ‥‥あ、いや、丁度第二戦闘艇部隊が帰艦したようだ。隊長との顔合わせも兼ねて、彼女に案内させよう」
「彼女‥‥女性ですか」
「乙女心とやらを見くびってはイカンよ。クラウスにも多少は自分の食い扶持を稼いでもらわねばな」
 艦長は悪戯っぽく笑ってコントロールモニターへ近づいていく。
 確かに、クラウスの美貌に夢みられない女性はいないだろう。その夢をクラウスが食って生きているのだとしたら、これはなかなかに省エネルギーな循環だ。
「ジェブナイル一号機、着艦」
「デッキモニター03にレルヴィ大尉を呼び出せ」
「はッ」
 オペレーターがインカムに向かって何事か告げると、スクリーンモニタの端のサブウィンドウに少女の姿が映った。
「レルヴィです。艦長、お呼びでしょうか」
「うむ、ブリッジへ上がってくれ、貴官の隊に配属された補充兵を紹介する」
「お言葉ですが、再出撃が二十分後です」
「貴官のところは副官が優秀だ。君がいなくても少しの間くらい大丈夫だろう」
「‥‥了解しました。すぐに参ります」
 敬礼。モニターが切り替わる直前、背後のパイロットに顔を顰めて指示を出すレルヴィの姿が一瞬映った。メトーは苦笑する。
「小官はここの女性達に良く思われていないようです」
「まさか」
 艦長は笑った。
「ああ見えて隙あらばブリッジに来たくて仕方ないのさ」
「あの不機嫌そうな顔でですか?」
「発情期のメスというのは大概がイライラしているものだ。大体、彼女らにクラウス以外の男など目に入ってすらおらん。嫌われる道理がない」
 艦長はメトーに背を向けると自動座標固定装置の不調で航海図の作成に手間取っているオペレーターの方へと立ち去っていった。
「しばらくそこで待ってい給え、レルヴィはすぐ来るだろう」
「了解しました」
 普通に歩けば戦闘艇用のデッキから艦橋までは十分以上かかるはずのところを、五分もそこそこでやってきたところからして、レルヴィが艦橋に来るのを楽しみにしているというのは本当のようだった。レルヴィはメトーを見るなり目を見張って、一瞬動きを止めた。
「本日付で第二戦闘艇部隊に配属になりましたメトー少尉です。‥‥年寄りなので驚かれましたか?」
「あ、いや‥‥」
 レルヴィはようやく我に返って、
「年寄りという言葉は良くないが、驚いたのは事実だ。気に障ったなら謝ろう。以後よろしく頼む」
 手を差し出す表情に敵意は感じられなかった。クラウス以外目に入っていないというのも本当のようだ。メトーを案内するといって踵を返す瞬間、視線をクラウスのほうへやったのをメトーは見逃さなかった。
「補充兵というから、おむつも取れぬ赤ん坊がやってくるかと思っていた」
 歩きながら、無言に耐えかねたのか、レルヴィが口を開いた。
「そんなに、メリヴィル中佐のヴェジュー値は高いのですか」
「知らんのか? 生まれた瞬間に両親も周囲もこの子は絶対にヴェジューになると確信して、以降夢以外の一切のものを与えなかったおかげで、母乳すら口にしたことがないという筋金入りのヴェジューだ」
「母乳もですか‥‥そんな時期から夢って食べられるものなのですかね?」
「さあな、私はヴェジューではないから、赤ん坊にしろ、大人にしろ、夢だけ食って生きていくなぞ理解しかねる」
 クラウスに夢中な割には意外とヴェジュー自体については冷ややかだ。
「ウチの隊ではないが、以前歴戦のパイロットが艇ごと突っ込んで死んだことがある」
「敵艦に?」
「命がけの特攻などというロマンチックなことを考えられるくらいなら彼は死なずに済んだだろうな。もう最後は朦朧としていたらしい。自分がなぜ生きているのか分からずに、ループする思考の中を延々堂々めぐり。助けようとした味方の戦闘艇に突っ込んだ」
「‥‥」
「丁度貴官と同じくらいの歳だった。それまでの戦績を考えればパイロットとしてはずば抜けて優れた人材だったのは間違いない。しかし、中佐のヴェジュレーションに耐えるにはもう年齢的に限界が来たということなのだろう」
 細い手がメトーの背中を叩いた。口調や表情からしばしば忘れそうになるがレルヴィはまだ十七、八の少女だ。
「その所為で、ここでは若ければ若いほど偉いと思っている変な奴らがいるが、気にするな。奴らはこの船以外の世界を知らぬ、可哀想な子供達だ」
 それで先ほどのバリエの態度も説明がつく。ヴェジュー艦ではヴェジューにどれだけの夢を見る力を提供できるかというインヴェジュー能力が階級よりも優先されるというわけだ。
「それで、イサ准尉が上官からあんなに丁寧な扱いを受けていたのか‥‥」
「イサ? イサ准尉に会ったのか?」
「はい。さきほど艦橋まで案内していただきました」
 ふう、とレルヴィは息をついた。
「イサ准尉はまたあれは特別だ」
「とおっしゃいますと?」
「イサは非常に優れたインヴェジューであると同時に、ヴェジュー候補でもあると言われている」
 大抵の場合、ヴェジューというのは優れたインヴェジューだ。ただ、自分の夢を自分で喰らうことが出来ないのが玉に瑕なのだが。
「ヴェジュー候補というのは十四歳まで決まらないはずでは」
 ヴェジューは本人が十四歳の時に候補として選定され、一年間の準備期間を経て問題なければ十五の誕生日とともにヴェジューとなる。
「そうだ。イサはまだ十歳だからヴェジュー候補になるはずがないのだが、四年後の候補選出に根回しが終わっているだのと根も葉もない噂を流すやつがいる。確かに、そういわれれば信じそうになるくらいのものをイサが持っているから余計だ」
「食事は?」
「‥‥今のところ半々だな。後々ヴェジューになるかも知れぬと思えば、下手な食事で俗化させてしまってはまずいし、かといって中佐の召し上がる分さえままならぬこの艦で、これ以上夢を消費されては困る。MPLセンターは頭を痛めているよ」
 イサ准尉がMPLセンターに呼び出されたと聞いたときはなぜ一介の下士官にMPLセンターが関係あるのだろうと思ったが、ただでさえヴェジューバランス が不安定になる戦闘中に、コントロールに困ったMPLセンターがヴェジュー兼インヴェジューの手を借りようとしたなら納得がいく。
 下層の居住区域に入り混むと、道はだんだんと入り組んできた。レルヴィは迷いもなく進んでいくが、どこも似たような内装なので話をしながら道も覚えるのは中々に大変だ。
「この状況下で派遣されてきたのだ。貴官にはその年齢を補って余りあるインヴェジュー能力と戦闘能力があると見ているが、どうだ」
「光栄ですが、実際のところはやってみないことには。ヴェジュー艦は初めてですし」
 フッ、とレルヴィは鼻で笑って立ち止まり、扉を指差した。
「ここの扉を右に入ると女性尉官専用の居室だ。男性尉官用は左手の扉。私はこの先には付いて行ってやれないが、貴官の部屋は入って突き当たりの階段を上がったすぐの部屋だ。部屋番号が4D-M101と書いてあるから分かるだろう」
 メトーは頷いた。レルヴィは軍服のポケットからカードを取り出してメトーに渡す。
「そこの微妙に色が違う四角い部分がセンサーだ。このカードはレベルCのセキュリティエリアに入れるが、テンポラリだから明日貴官のID入りのものを総務部で受け取ってくれ。総務部の場所は部屋に端末があるからそのセキュリティカードで調べられる」
「は、ありがとうございます」
 メトーが敬礼すると、レルヴィも軽く敬礼を返し、身を翻した。
「ああ、それと」
 一瞬、歩みをとめる。
「死ぬなとは言わんが、その時は敵機に向かえよ。間違っても味方機を巻き込むな。玉砕の夢をみる気力はなくても、上官命令を遂行するくらいの理性は残っているだろう」
 レルヴィの声から、メトーの歳を心配しているわけではないのは明らかだったので、メトーは再び敬礼して芝居がかった口調で答えた。
「了解、万一の際は敵機に機首を向けます、サー!」
 レルヴィは振り返らなかったので、笑ったかどうかは分からない。

 「今日中は出撃はない」と艦長は言っていたが、その言葉通り、時計の針が十二時を回るのを待っていたかのように出撃命令が出た。先ほどイスの上に脱ぎ捨 てたパイロットスーツを再び着込むと、ヘルメットを抱えて後部デッキへ走る。ラダーへ足をかけようとしたところ整備兵がメトーを呼んだ。
「中佐がお呼びです」
 デッキ奥の壁面に設置されたモニタに近寄ると、自動的にモニターの電源が入り、戦神をやるよりも美の神をやったほうがよいのではないかと言いたくなる顔が映し出された。
「メトー少尉」
 この声で自分の名を呼ばれると、男の自分でもドキリとする。
「こんなところから初顔合わせで申し訳ない。本艦の作戦参謀指揮官のメリヴィルだ。初出撃で気負っているかもしれないが、敵の追撃は一時間程度と推測され る。無駄な損失を避けるために、こちらもその辺りで帰艦することを念頭に戦って欲しい。万一一時間以上経っても敵の追撃の勢いが衰えない場合、追って指示 を出す」
「了解」
「グッドラック」
 ジルデガードは陣形の乱れていた右舷の敵を切り崩したものの、左舷に展開して後背に回り込もうとしていた敵軍を振り切らなければならない戦局だった。メトーはその追撃の露払いのために投入されたのである。
 しかし、クラウスの予測通り、敵の追撃はあるタイミングを境に波が引くようにサッと止んだ。防衛ラインを突破された以上、追撃よりも次の防衛線の守りに力を注ぐことを優先したのだろう。次の防衛線を守る部隊と挟み撃ちにするにしろ、敵も編隊を立て直す必要がある。
 二機を撃墜してジルデガードに戻ると、丁度デッキにレルヴィが出てくるところだった。
 レルヴィはメトーが乗ってきた機体を見上げると感心したようにその脇腹を叩いた。
「ジャベリンか。ジェブナイルのプロトタイプから派生したマイナーバージョンだな。ステルス性は時代遅れの感があるが、完成度は高い。ドッグファイトでの操作性の高さを今でも評価する向きは多い。いい機を持ってるな」
「ありがとうございます。初めて乗った機がジャベリンの初代型でしたので、どうも他の機がもたついて感じられて」
「ハッ、そう言ってやるな。ジェブナイルの反応速度が追いつけぬ程の人間はそう多くは居るまい。‥‥とはいえ、私もジャベリンは訓練生時代はよく乗った。その気持ちは分かる。それよりどうだった」
 帰艦したのだから聞くまでもないか、と呟きながら、レルヴィは何かを探すように主翼の付け根を覗き込んだ。
「多少吸引力は感じましたが、気になるほどではないですね」
「そうか、さすがだな。私の予測は当たっていたろう?」
 得意げに笑うレルヴィに、メトーはただ微笑むにとどめた。
「ところで、レルヴィ大尉はなぜこちらへ? 追撃は止んだので再出撃は必要ないかと思いますが」
「いや、私はただの哨戒だ」
「大尉が哨戒を?」
「まあ、人手不足だからな。少尉にもいずれやってもらう機会があるだろうから、そのつもりで」
「了解しました」
 レルヴィは頷くや否や哨戒用の小型艇にひらりと飛び乗り、エアロック内にメトーが入るのも待たず急発進して行った。発進手順の無視も甚だしい。パイロットスーツを着ていなければ吹き飛ばされるところだ。