状況論1 - ”地方文化”の総体に向け  発語の方法認識を再措定

状況論1 - ”地方文化”の総体に向け  発語の方法認識を再措定
豊島重之(フォーク・シンガー)

 以上の拠点に佇み、さて海だ、もはや割とメリハリのない平安な海だ——という視堡に佇めば、状況論だろうが、亀一匹のあくびにすら及ぶまい。当面、そんな首をさらして風邪ひくしかないが、ここにお邪魔するのは二度目だし、大事な紙面を割いてくれた好意は、鼻水で流してはなるまい。
 なるほど今までは、地方とは、文化とは、が問われた。しかるに地方文化は問われなかったようだというのが亀の言い分である。ぼくの<4>(討論④「問題提起を受けて②(*1)」)すら地方と文化の短絡を避けて、「地方文化考」考からしか出立できなかった。伝統文化に続き、現行文化、あるいは文化の動向とその構造にまで赴くとしても、基点たる<1>(討議①「問題提起①」工藤欣一)をふまえた以上の拠点たる<4>の書き出しは、なお揺るがし難い。このシリーズが根本的誤謬を抱えて起始していると首かしげたり、顎しゃくったりする人にこそ、「地方文化考」の「」をはずしてもらおうとも思う。いずれ空中分解さ、という起きがけの涼顔は、蹉跌せぬ置いてけぼりがおまえになかったか、何を今さらと言いながらの盆栽いじりでなかったか、という手鏡をつきつけられよう。さらに、ミニコミなり深夜放送なり、井戸端道端、もがりはふりの酒席なりのあらゆる寝床から、新聞あたりに任しておけるかと、あらゆる視堡が放たれるのをぼくは決してネホレながら待たない。悲観ほど創造を妨げるものはないという言が吐かれるほど事態は悲観的なのだから「地方文化考」という、既に決算済みだったかと思えば今また請求書をチラつかせるような、老眼鏡はめた猫背の曲者には、あらゆる不定の現場よりあらゆる無名の発語が今や必要だろう。しかもその新聞的日常への勃出がなまなかな横すべりに終わらないためにも、たとえば<7>(討論⑦「問題提起を受けて④」火星村漢)に釘をさしておく。
 こんな批評めいた非難に<4>がつきあうべき筋合いじゃない、突っ込んでいってもどうせ互いの正当化のみに走り、文字でしつらえた逃げ道に果てるだろう。歳末の声を聞くと文化鍋というキタイなものがどこからともなく現れるが、互いに咳き込んでみても、氾濫する〝堕誌〟にもならぬ鍋文化がいいところだ—と亀も言う。なるほど畑違いへの見当違い、しかも肝心な部分をきれいに見逃しているから、もう事はやっかいだ。こういう照らいの手合いが沼にもはびこっていたとは。はっきり言おう。ぼくが現象と潜象のはざまに分水嶺が共振すると書いたことで、本質とは現象の背後にあるという同巧異曲はたちまち破産しているのだ。沼よ、何がまんまいさまだと<7>に言わしてはならない。ぼくはぼく然とし、氏は水墨村漠然としておればよい。決して新聞という妙にそら恐ろしい性格に飼い殺しになってはいけない。氏にしたって沼におれば、こんな青臭い苦笑はしないだろう。私意とも恣意ともつかぬとまで言われるとシインと静まり返るしかない。深まっていったのは、闇ではなく氏の性急ではなかったか。沼に首を浮かべてもう一度、<4>をキリからピンまで読み返してほしい。この苦言すら、ゴロ合わせに乱行する文化ゴロのていだと、亀はぼくに向かって静かに目を閉じる。しかもこのうなだれすら、実はひとつがいの抒情と論理に手枷足枷なのだということを〝枷村氏〟こそ見落とすな。さらにフエンされつつある正当化への無念を〝個に帰れ〟とは一言も述べてはいない<4>に背負わせておこう。
 ——いいか!「地方文化」よ、おまえは事件でなくてはならぬ。さもなくば<石油砂漠にまた火の手>という記事一つに、このシリーズは苦もなくぶちのめされよう。地方文化の頸部を根こそぎ抉り抜く原器としての、少なくともぼくは事件をめざす。しかし「事件」よ、おまえの土踏まずは茶飯事にすら向けて膨れていなくてはならぬ!文化というと素早く個に戻りたがる扁平足は、母の赤子殺し、アジアの日本人殺しなど数行の記事にすらひそかな負い目を感じることだ。どだい、孤落とぼくが言ったのは否定的培地としての苦い茎だ。いずれ、このシリーズのレギュラーを尻目にバッコしつつあるイレギュラーたちが、文と化の間畔(あいぐろ)に起爆剤のくさびをぶちこむだろう。そして<事件>はいまだ遠い。
 さて、先日は賢治の四十回忌であった。奇しくも賢治はフォーク・シンガーである。今でこそはやらないが、当初ぼくの肩書うんぬんが情念と風土でいいくるめられた誤謬性とともに語られた。これは脚注ではないか。「賢治伝—美しき銀河の歌」なる安直ミュージカルも観た。盛岡よ、一人の修羅は怒っているぞ。肩書伝はやるなと言ったはずだ。とりもなおさず、ロック・メルヘン「桜の園」を貫通していた何気なさをコロにして、賢治の農民芸術概論を脚注にしてみる、と亀は言いたげなのだ。確かにあれば<事件>であったし、今また一つの出立であろうと—。

(初出:「デーリー東北」紙リレー討論地方文化考<30>より/1973.11.2)

採録者註
(*1)実際の紙面では「問題提起を受けて①」となっている。

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