場所のリダンス/非場所のリダンダンス

場所のリダンス/非場所のリダンダンス
豊島重之(「非場所連弾」エディトリアル/劇団モルシアター作演出)

 私は15年来、劇的と病的のカテキシスなるコンテキストを自身のテキストとしてきた。既成の言説や物語というテキストではなく、上演というテキスト、遭遇というテキストにおいてコンテキストを懐胎しては奪胎してきたと言い換えてもいい。ここで、事後的に到来する後者を文脈や文体、制度や身体(それが次なる事前の場所を編むのだが)と称べば、それらに対する一撃や裂開の即時性=リテラリティが前者に託されている。ひとまず私はこのテキスト体を非場所と仮称しており、語弊を怖れずに付会するなら、前段の松岡氏の言うアトラクター(情報能産体あるいは分節力)とどこか似ているのではないかと思う。
 カテキシスとは求心性と遠心性、近接効果と遠隔効果、誘力(アトラクト)と斥力(ディストラクト)、そのトランザクション(相互行為)ダブルバインド(二重拘束)、松岡氏もふれているストカスティック(確率論的)な生成=制御過程(序5のケンダルの壷)をも含めた古くて新しい課題である。演劇も精神病も簡言すれば、その本質はコミュニケーションの表現であり、誘力や応力以上に斥力や歪力の表現であるからだ。従って、劇的と病的のカテキシスを考えることは、関係の場を、それも事前的かつ事後的な場を生きることに他ならず、さまざまな他者・家族・社会・その時間的外部と空間的外部に向けて個と場=言葉をどう自己組織化していくか、それ以上に、自己組織化しえぬバイアス(偏差)やエクセ(過剰)やノイズ(情報)を自己成分に対してどう考えるか、という不可避の急務に他ならない。
 ここに二種の舞踏が喚起される。リダンス(排除)とリダンダンス(ゆらぎ)である。境域たるバイアスをあくまでディストラクトに傾けるか、アトラクトに引寄せるかである。従来の演劇や精神医学は前者であり、このバイアスをセルフシステムの外に排除し、とりわけ内に、いわば内の内に排除してトリアス(=トリアーキー=三極構造)化してきた。いわゆるネガティヴ・フィードバックである。観客像(対他的身体)を内面化した俳優しかり、欲望や恐怖や無意識しかり、学校化社会・病院化社会のスケープゴート(有徴項)しかり、天皇制しかり。私達はリダンスなる舞踏をおどらされることなしに、凡てのカテキシスや自己組織化を生きることはできない。
 これに対して、近年のバイオテクノロジーやフラクタル数学やセカンドサイバネテクスの成果は、多かれ少なかれポジティヴ・フィードバック理論がドミナントである。たとえば、自己触媒的ハイパーサイクル・逸脱増幅過程・創造的ループ・ノイズあっての秩序・シスモジェネシス=分裂生成など。即ち、かのバイアスを有徴項として摂取・減衰・解消するのではなく、むしろ積極的に肯定・増幅・動態化していく、いわばシステムの内へゆらがせ、とりわけ外へ、外の外へとゆらがせていくリダンダンスなる場の舞踏。そこではもはやカテキシスもコンテキストも消え失せ、ディストラクトなしの一方的なアトラクトが、まさにTATAic(タータイック)に乱舞するばかりだ。
 しかし、事はそう簡単ではない。松岡氏の論調は、このリダンスとリダンダンスの両者をパララックス(視差)に収めながら、その外部を告知するものである。偶然にも石川舜氏は、前核細胞として死ぬことでミトコンドリアとして転生するという原生的なエントレィンメントに注目しているが(本誌30頁)、松岡氏は同様の展出をニューロンや言語=身体、宗教や埒=法のアティキュレーション(分節化)に観ているばかりか、0と1というニューメレート(演算)や母と父というデノミネート(命名=貨幣単位=宗教分派)にも見届けている。このニューメレーターが分子であり、デノミネーターが分母の謂であることを知るなら、私がなぜ、モナス=1でもトリアス=3でもなく、バイアス=2に照星を絞り、そこに非場所=リテラリティを点滴したいとまで企んでいるかが感知されよう。
 またしても符牒を合わせたように、TATA86上演作「パラサイト」とは、「分母と分節」の結びに措かれた寄生虫の謂であり、その上パラ・サイト=偏場所・錯場所をも含意している。即ち、ホスト(宿主)たる肝臓器が突如溶解してしまったあとの肝臓ジストマの自殺的生活、あるいはホスト=場所を間違えて異性異類の目鼻=非場所となってしまったパラサイトを想像すればよい。リダンスに寄生するバイアスとリダンダンスに寄生するそれとの異相を超えて、内外の転倒や生死の吃逆とかでは語り尽くせぬものがありそうだ。やはり、世界の半分はなお晦冥に抱かれているのかもしれない。松岡氏のプレTATA来八はポストTATAに繰り延べられたことをお断りしておく。そう、TATAもまた、パラサイティックな非場所なのだ。

(初出「TATA86 非場所連弾」/1986)

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