パリ公演「アテルイ」に同行して

衝撃波を放った画期的成功の舞台
豊島和子舞踊グループ、パリ公演「アテルイ」に同行して

新堂耕二(八戸小劇場)

 去る十一月二十八、二十九日の両日、パリのデジャゼ劇場で、フランス人観客約四百人を前に、八戸市の豊島和子舞踊団による「アテルイ」(昨・演出豊島重之)の公演があった。フランス文化省後援の伝統的劇場で、日本の、しかも東北の一グループが自主公演をやりおおせたというのは日本でも稀有の壮挙といえよう。
 本場での公演という緊張もあってか一行十二人は今まで味わった事のないプレッシャーを背負っていたと察せられたが、開演の合図とともにそれは払拭され、パッションと集中力のある見事な舞台で古代日本の東北を現出させてくれた。フランス人の感受性に衝撃波を放っただろうことは、終演直後のブラボーの歓声と鳴りやまぬアンコールの拍手がクリアに物語っていた。
 グループの主催で主演者でもある豊島和子は、日本で独特な文化的位置をもつ創作舞踊家であるが、今公演の画期的な成功は彼女の卓越した才と情念ともあいまって、同行した有能なスタッフと演者たちの力にもよるところ大であろう。むろん、それは創造者としての彼女のストイックなまでの日常姿勢が十分にあがなったとして当然といえば当然の結集ではあった。
 グループ中、とりわけ特筆したいのは作演出の豊島重之である。昨年夏、八戸市公会堂で行われた全国レベルのビッグ・エベント「東北演劇祭」を企画、成功させた人でその参加作品においても独特の劇空間を構築、披露してくれた。
 物語りとしての自明性を拒絶しつつ、自らのマイノリティと位置づけ粘着力のある作演出活動は、今、あぶらののり切ったという感がある。彼の舞台は時としてミクロとマクロが複眼的に噴き出し、見る者をして惑乱させ、故意でもあるかのように難解な劇処理を企てるが、そういう攻撃性こそ彼の真骨頂なのだ。「東北演劇祭」では八戸の風土から取材し、そのモチーフに内なる東北を照射することで人間の営みの普遍性を表出させた。今度はそれを事もあろうにパリでやり遂げてしまったのだ。なんというスケール、なんという行動力であろうか。確かに彼はマイノリティではあるが、彼の勝れて制作者としての顔が突出する時、過言ではなくマスである。今後の演劇行動が各方面から注目されている。楽しみだ。
 パフォーマーとして出色していたのは鳥屋部文夫と荒谷勝彦と見た。鳥屋部文夫には屹立・転回そして歩行と、その動きのどのディテールにも豊かなイマジネーションの発散があった。容易ならざる才能だ。一層の活躍を期待したい。荒谷勝彦はグループの中で年齢経験とももっとも若いパフォーマーとして得難い場を踏んだ。若いという憂いを裏切り、ういういしいが稚拙さのない堂々としたデビューといってよいだろう。彼の魅力はビビッドな感性がダイレクトに身体の豊かな表現に転移する所である。豊島演出は、それをうまく引き出した。流星のように現われた若く幸運な創造者に拍手をおくろう。願わくば大きく成って欲しい逸材である。蛇足ながら、自己の恵まれたシチエーションを貪欲にむさぼって欲しい。けれんみなく真摯であれば、舞台は無限に問うことを惜しみはしないだろうから・・・。終演直後の打ち上げ客の質問攻めに遭ったスタッフたちがいる。吉井直竹(音楽)と袰主正規(照明)たちである。井村芳紀(衣装が)丹精したコスチュームは演者の膚によくなじんでいた。さすがである。豊島演出はこの「アテルイ」をして“己がアイデンテティを確立するために、自らの内部にそれを脅かすもの(内なる凶・内なる魔)を探りだしては血祭りにあげる、といったスケープゴートの変奏譚であるとともに現代が見失った<夢>と<情念>のつづれ織りによるレクイエムである”と規定した。そしてそのイメージ化は、グループ一人一人の良質で有機的関係で言語を克服し超えた。その成功はきわめて大きな意味を持っている。
 今、数々の残像が脳裏をよぎる。中でも強く印象に残ったのは、舞台前方に置かれた木組みの井戸である。八戸の市樹、イチイ、北にしか生息しない聖性、その樹皮をはいだみずみずしい白い肌。それは物語の凝縮と解体と存立を暗示させて一時間と半、ポンと置かれていた。

 なお、このパリ初演「アテルイ」は来る三月三、四日八戸市公民館ホールで改訂再演され、十一月には東京公演もあるという。一見を乞うところである。

(初出「季刊装置1」/1984.02.01)

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