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Kazuhiro Takemoto
Assistant Prof.
Dept. Biosci. Bioinform.
Kyushu Inst. Tech.
竹本 和広
九州工大 生命情報工 助教
JSTさきがけ研究者(兼任)

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Research

関係性や相互作用を記述するネットワーク(右図参照)をキーワードに、生物系のような複雑なシステムに対する簡潔な視点(理論/モデル)を与えたいと考えています。特にネットワークが「どのように形成されるのか」あるいは「どうような性質・機能を持つのか」ということに着目して以下のような研究を行ってきました。

代謝系

代謝とは生体内で行われる一連の化学反応であり、それはしばしばネットワーク(代謝ネットワーク)として表現されます(Wagner and Fell, 2001Arita, 2004)。生物は、長い進化過程において代謝系を変化させることで様々な代謝物を合成し、環境に適応してきました。このような代謝物組成の決定や代謝ネットワークの形成に働く原理を明らかにすることは、適応進化の理解や生命現象の制御において重要です。より詳しくは総説(竹本, 2011)も参考になると思います。

代謝ネットワーク構造は生育環境によって異なる

生物は様々な温度環境で生育しています。人間を含む多くの生物は常温で最もよく成育しますが、中には100℃以上の極限環境で最もよく成育する生物も存在します。更に、多くの系統解析から、好熱菌(高温で生育する生物)は進化の源流に位置する生物であることが示唆されています(Nisbet and Sleep, 2001)。このため、環境適応を通してネットワークの形成についても考察することができると期待されます。

Takemoto et al. (2007)では、様々な生物における代謝ネットワークの構造パラメータと生育温度の関係を調査し、生育温度によってネットワーク構造が異なることを示しました。特に、高温で生育する代謝ネットワーク構造は常温で生育するそれよりも乱雑に構成されることを見出しました。結果は興味深いと考えていますが、結論には引き続きの検討が必要です。

関連研究としては、同時期にParter et al. (2007)は、バクテリアにおいてその生育環境の広さ(環境変動性)が代謝ネットワークのモジュール性を増加させることを示しています。ただ、Takemoto and Borjigin (2011)では、このようなモジュール性の違いが、環境変動性は低い(しかしながら様々な環境に分布する)古細菌では成立せず、むしろ生育温度や栄養要求性などの生育条件に強く依存することを見出し、モジュール性の変化には別のシナリオも存在することを示しました。これは上記の代謝ネットワーク構造における生育温度依存性の主張を補強する結果にもなっています。

代謝ネットワークの適応に関してはPapp et al. (2009)の総説も役に立ちます。

代謝ネットワークに対する簡潔なモデルとその応用

上記で説明したような構造差異はどのようにしておこるのでしょうか? これを知るためには、まず代謝ネットワーク形成に対する簡潔なモデルが必要だと考えました。代謝ネットワーク(代謝経路)の形成に関してはいくつかの仮説が提案されています(Fani and Fondi, 2009)が、いずれも経路拡張に対する微視的な機構に言及するのみで、ネットワークの構造パタン(巨視的な特性)との対応関係を知ることはできません。そこで、この微視的機構と構造パタンとをつなぐ簡潔なモデルを構築しました(Takemoto and Akutsu, 2008)。

このモデルを通して、ネットワークの構造変化が進化イベントよって既存の反応経路に対してバイパスが出現することによって起こることを見出しました。生育温度が高い場合、強い負の選択のためそのような反応は淘汰されます。逆に生育温度が低い場合、負の選択圧は比較的弱いため、バイパスは選択されます。このような環境による選択圧の違いがネットワークの構造差異をもたらすという仮説を導きました。これはNam et al. (2011)の総説においても紹介されています。

代謝ネットワークにおける別の重要な問題として、ロバスト性が挙げられます。例えば、遺伝子が欠損する、あるいは働かなくなるような外乱に対して代謝機能はどの程度頑強なのでしょうか。このようなロバスト性をネットワーク構造から定量化する数値的な手法が存在します(Lemke et al. 2004; Smart et al. 2008; Jiang et al. 2009; Tamura et al. 2009)が、理論的なアプローチはありませんでした。そこで、Takemoto et al. (2012)でこのロバスト性を分岐過程近似を用いて解析的に求める手法を示しました。高度にモジュール化されたネットワークの場合には近似が悪くなるという欠点を持ちますが、大半の場合において非常に高い予測精度を示します。

代謝ネットワークにおけるシャペロニンの役割

シャペロニンとはタンパク質の折り畳みを手助けするタンパク質(シャペロン)の一種で、大腸菌由来のGroELがよく調査されています(田口英樹先生による解説; Bukau et al. 2006Hartl et al. 2011)。近年、このGroELによって折り畳みが手助けされるタンパク質(GroEL基質)が網羅的に同定され、それらの多くは代謝酵素であることが分かってきました(Kerner et al. 2005; Fujiwara et al. 2010)。これはGroELが代謝系において重要な意味を持つことを示唆しますが、その詳細は不明瞭なままでした。

そこで、代謝系におけるGroELの役割を考察する第一歩として、GroEL基質の代謝ネットワーク上での分布を調査しました(Takemoto et al. 2011)。すると、折り畳みにGroELを必要とする酵素(タンパク質)はGroELを全く必要としないそれに比べて、代謝ネットワークの周辺に分布することが分かりました。この分布傾向はタンパク質存在量など、タンパク質固有の性質から単純に説明することができないため、別の解釈が必要となります。

そこで、簡単な比較ゲノム解析から、GroELを必要とする酵素は(必要としないそれに比べ)種間での保存度が低く、それらは比較的最近になって獲得された(進化的に新しい)ことが示唆されました。これらの結果から、GroELによって酵素の多様性が促進され、結果として代謝ネットワークが拡張されたという仮説が導かれます。このGroELによるネットワーク拡張を考えると先のGroEL基質分布傾向は簡単に説明できます。

シャペロンが進化を促進させる(多様性をもたらす)役割を果たすという仮説はショウジョウバエを用いた実験を通してRutherford and Lindquist (1998)によって提案されています。更に、Tokuriki and Tawfik (2009)によってGroELが酵素の進化を促進させることが実験的に示されています。今回提案した仮説はこれらの実験結果によって支持され、これはシャペロンが代謝の進化に関与するより具体的な形になっていると考えています。

生物種間における代謝物の分布パタン

代謝を理解するためには代謝ネットワークに加えて代謝物の種間における分布(どの生物がどの代謝物を持つか)も考えることも重要です。特に、生物は環境に応じて特異的な代謝物を利用・合成しています。例として植物における二次代謝物の一種であるフラボノイドに注目しました。植物は環境に応じて特異なフラボノイドを持つと考えられています。

データ解析の結果、代謝物種間分布には入れ子構造やモジュール構造といった特徴的なパタンがあることを見出し、この構造パタンの起源を説明するための簡潔なモデルを与えました(Takemoto and Arita, 2009; Takemoto, 2010)。形質(この場合、代謝物組成)の継承と分岐といった一般的な進化過程から、不可避的にこのような不均一な分布パタンが生成されていることを示しました。

ネットワーク理論一般

ネットワーク形成には確率モデル(例えばBarabási et al. 1999)と決定モデル(例えばRavasz and Barabási, 2003)が存在し、現実のネットワークで見られる構造パタン(具体的には、不均一な結合度とモジュールの階層性)の起源については、これら異なるモデルで個別に説明されています。しかしながら、現実のネットワークはこれらの構造パタンを同時に示すため、ふたつのモデルにはつながりがあるはずです。Takemoto and Oosawa (2005)では「優先選択によるモジュール(構成単位)の埋め込み」を考えることで、ふたつの異なるモデルがつながることを示しました。これに加えて、ネットワークにおけるモジュールの埋め込みを解析するための理論的な枠組み(Takemoto et al. 2007)を与えました。更に、適応度の概念を導入し、現実の生体ネットワークの多様な構造パタンを再現するモデルを構築しました(Takemoto and Oosawa, 2007)。

タンパク質科学

タンパク質の立体構造は、アミノ酸残基をノードとし、それらの近接度に基づいて(つまり、もしあるアミノ酸残基ペアがある距離以内で近接していれば、それらふたつの残基間に)エッジを描くことによって、ネットワークとして表現することができます。これは「コンタクトマップ」もしくは「(タンパク質)コンタクトネットワーク」(Wikipedia)と呼ばれ、タンパク質立体構造のひとつのモデルとして用いられます。これまでに、コンタクトネットワークの解析を通して、タンパク質におけるアミノ酸残基の暴露傾向の予測(Song et al. 2008)やタンパク質のフォールディング速度の予測(Song et al. 2010)において貢献しました。

生態系

送粉系の形成に関する考察

植物と受粉媒介者(主に昆虫)の共生関係(送粉系)はネットワークとして表現できますが、これはどのように形成されたのでしょうか? このような生態系ネットワークの形成を理解することは生態系の保全に重要であり、古くから食物網(食う-食われるの関係)において議論されています(例えばStouffer et al., 2005)。古典的な理論は、個体間の相互作用は互いの形質や環境等の外部因子で決定されると考えており、Saavedra et al. (2009)はこの食物網の考え方を共生ネットワークに応用しました。この理論(モデル)は実データによく合致するものの、形質や外部因子に基づく相互作用の決定機構は複雑で、その解釈が困難です。

一方で、個体間の相互作用の決定には進化的な側面も影響すると考えられます(Cattin et al., 2004)。特に、形質は種分岐の際に(ある程度は)継承されるものであり、相互作用の決定は単純な進化過程で記述することができるはずです。そこで、そのような単純な過程を考慮したモデル(Takemoto and Arita, 2010)を提案し、実データとの比較を行いました。結果として、モデルは簡略化したにも関わらず、既存モデルと同等の(一部それ以上の)合致を示しました。この結果から、個体間相互作用の決定は進化的側面によってうまく説明できると主張しました。

しかしながら、この主張はすんなりと受け入れられませんでした。それというのも、共生ネットワークにおいて個体間相互作用の決定は進化的な側面というよりはむしろ形質に強く影響されるという考え方が一般的だからです(Rezende et al., 2007)。そのため査読は難航しました。しかしながら、これらふたつの要因は折り合いがつくことを主張して食い下がり、最終的に編集者の判断で受理されました。その後Gómez et al. (2010)によって個体間相互作用が進化的な制約を受けていることが示され、私たちの主張は支持される結果となりました。