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医療の構造構成主義(structural constructivism)

(更新日:2009年5月3日)

目的

 本サイトの目的は,僕が研究している医療の構造構成主義を簡単に紹介することです.僕が行った医療の構造構成主義は,2006年に エビデンスに基づいたリハビリテーションの研究論文を発表して以来,医療論(医学哲学),障害学,作業療法学,実践法,Quality of life論,インフォームドコンセント,パターナリズム,医療倫理などの領域に展開していきました.おかげさまで多くの方々に関心を 持っていただいておりますが,本サイトによってもっと多くの方に関心を持ってもらえるようになればと思っています.ただし,医療の構造構成主義に取りくみ はじめてからまだ数年であり,僕としてはもっと豊かな研究・実践領域に育てていく必要があると考えております.本サイトを見てくださった方が,何か新しい アイデアを持つようなことがあれば,ぜひ研究・実践に取りくんで頂けたらと思います.医療の構造構成主義の輪が広がり,今よりももっと豊かになるのであれ ば,僕はとてもうれしいです.

医療の構造構成主義のモチーフと根本問題

 僕が医療の構造構成主義に取りくんだ最大のモチーフは,「持続・発展可能な医療を構築するこ と」にあります.ご存じのとおり,いま医療は崩壊の真っただ中にありますが,あらゆる医療・福祉は存続の危機に突きあたりつつあります.つまり,医療はこ のまま持続することは難しく,また建設的に発展していくことも期待しがたい状況に陥りつつあると言えます.病気になったり,障害を持ったりしても安心して 暮らせる社会を実現するために,医療をいかにして持続させ,発展させるのか.この問題意識が,僕にとって医療の構造構成主義の出発点でした.

 では,何が医療を崩壊させているのでしょうか?

  僕が見いだした一番の問題は「信念対立」です.僕に,信念対立という概念を教えてくれた人は,構造構成主義を開発した西條剛央さんです.西條さんは,人間 科学の信念対立を構造上消滅させるために,構造構成主義を開発しました.信念対立とは,正当性を巡る争いのことです.竹田青嗣先生が指摘しているように, 信念対立が国家間,宗教間で生じれば,行きつく先は生死を賭けた戦いです(たとえば世界大戦,宗教戦争).僕は医療が直面する危機は,この信念対立という 問題から起こっていると考え,いくつかの論文でそのことを論証しました.最近になって,僕は医療では必ずしも信念対立ではなくても危機が生じると考えて, 「考え方の矛盾対立」という概念を根底に置くようになりましたが,基本的にこれは信念対立を拡張したものです.
  • 文献
    • 京極 真:現代医療で克服すべき課題とは?.看護学雑誌72(4),340-344,2008

研究開発中の構造構成主義の臨床実践法

 そのため,僕は医療の構造構成主義において,考え方の矛盾対立(信念対立)を克服するための9つの思考様式(理論),行動様式(方法論)を研究開発中です.それらはすべて上述したモチーフを実質化するための臨床実践法を提供しています.以下では,その概要をまとめましたので参照していただけたらと思います.
  • 構造構成的エビデンスに基づいた実践
    • 実践目的に応じてあらゆるエビデンスを活用していくEBMの方法です.そのためのツールとして,構造構成的エビデンス,アナロジーに基づくエビデンスの一般化,目的相関的エビデンス活用法があります.詳細はSCEBP特設サイトをご覧ください.
    • 文献
      • 京極 真:新しいEBM-SCEBPがもたらす可能性.看護学雑誌72(12),1070-1074,2008
      • 京極 真:すべてのエビデンスの一般化可能性を基礎づける.看護学雑誌72(11),988-992,2008
      • 京極 真:すべてのエビデンスの科学性を基礎づける.看護学雑誌72(10),910-914,2008
      • 京極 真:「エビデンスの一般化可能性問題」とは何か.看護学雑誌72(9),814-818,2008
      • 京極 真:「エビデンスの科学論問題」とは何か.看護学雑誌72(8),710-714,2008
      • 京極 真:方法概念としてのエビデンス-EBMからEBPへ.看護学雑誌72(7),608-613,2008
      • 京極 真:構造構成的エビデンスに基づいたリハビリテーション.構造構成主義研究1, 28-40,2007
      • 京極 真:エビデンスに基づいたリハビリテーションの展開-構造構成主義の立場から.リハビリテーション科学ジャーナル2,1-9,2006
      • 京極 真:EBR(evidence-based rehabilitation)におけるエビデンスの科学論-構造構成主義アプローチ.総合リハビリテーション34(5),473-478,2006
      • 京極 真:エビデンスに基づいた作業療法の現状,問題,新展開-構造構成主義アプローチ.秋田作業療法学研究12,2-8,2005
  • 構造構成的医療論
    • 医療に関係する人々の間で生じる信念対立を克服するための方法を提供します.あらゆる医療領域を基礎づけられるよう整備されており,この方法によるチーム医療の最適化や,患者・家族・医療者間のコミュニケーションを改善する試みがなされています.また,構造構成的医療論を人間観,健康観に応用した構造構成的人間論,構造構成的健康論が定式化されており,ここから患者の疾病・障害に働きかける可能性が検討されています.
    • 文献
      • 京極 真:職種の「間」の壁の超え方-「立場の違いを超えた連携」とはどういうことか.助産雑誌62(1),20-24,2008
      • 京極 真:構造構成的医療論(SCHC)とその実践-構造構成主義で未来の医療はこう変わる.看護学雑誌71(8),698-704,2007
      • 京極 真:構造構成的医療論の構想-次世代医療の原理.構造構成主義研究1, 104-127,2007
  • 構造構成的障害論
    • 障害を個人の健康問題と捉える医学モデルだけでなく,障害を社会問題と捉える社会モデルも活用できる視点を提供します.これら2つの視点は通常併用できないとされているため,この理論によって提供される視点は,柔軟な実践行動を導きやすくしてくれると思います.なお,これは世界保健機構(WHO)によって開発された国際生活機能分類(ICF)のモチーフを発展的に継承しています.
    • 文献
      • 京極 真:構造構成的障害論-ICFの発展的継承.現代のエスプリ475,115-125,2007
      • 京極 真:「目的相関的実践原理」という新次元の実践法-構造構成的障害論を通して.構造構成主義研究2,209-229,2008
  • 目的相関的実践原理
    • 構造構成的障害論を通して開発された実践方法論であり,社会運動と医療という矛盾対立する技法を柔軟に活用するメタ技法を提供します.目的相関的実践選択,目的相関的実践,実践効果の目的相関的評価という3つの技法を備えており,これらを身につけることで考え方の矛盾対立に阻まれないしなやかな実践を行いやすくなると考えられています.
    • 文献
      • 京極 真:「目的相関的実践原理」という新次元の実践法-構造構成的障害論を通して.構造構成主義研究2,209-229,2008
      • 京極 真:作業療法士に伝えたい「構造構成主義」の可能性.作業療法ジャーナル42(13),1300-1301,2008
  • 構造構成的QOL理論
    • あらゆる医療領域に妥当するQOLの本質論です.QOLとは,よく生きることを問う営みであると定式化しており,QOLをめがける実践から研究まで,同時に基礎づける理論的基盤と方法論的基盤を提供しています.また,この理論は関心相関的パターナリズム,関心相関的インフォームドコンセント,関心相関的よい医療判断法の底板にすえられた理路でもあります.
    • 文献
      • 京極 真:Quality of Lifeに対する構造構成主義的見解.看護学雑誌73(1),90-94,2009
      • 京極 真,西條剛央:Quality of Lifeの再構築-構造構成主義的見解.人間総合科学会誌2(2),51-58, 2006
  • 関心相関的パターナリズム
    • 現代医療で否定されるパターナリズムを有効活用するための方法です.関心相関的パターナリズムでは,関心の妥当性を検討し,妥当と判断しうる関心に応じて適宜パターナリズムとその正当化モデルを選択,評価し,実際に干渉したり,事後的に干渉の正当性を批判的吟味していきます.関心相関的パターナリズムは,パターナリズムが孕む患者の人間性の蹂躙という問題を解消する方法を提供します.
    • 文献
      • 京極 真:構造構成主義によるパターナリズムの再解釈.看護学雑誌73(2),96-102,2009
      • 京極 真:Quality of Lifeに対する構造構成主義的見解.看護学雑誌73(1),90-94,2009
      • 京極 真,西條剛央:Quality of Lifeの再構築-構造構成主義的見解.人間総合科学会誌2(2),51-58, 2006
  • 関心相関的インフォームドコンセント
    • 「すべての情報は関心相関的に開示される」という理路を軸にして,患者-医療者間でより円滑に,かつ有効にインフォームドコンセントを実践するための方法です.またこれは,従来のインフォームドコンセントのメタレベルで機能する方法であることから,従来の方法論であるプロセスモデルやイベントモデルなどを否定するのではなく,より機能的な枠組みにバージョンアップさせる理路も提供しています.
    • 文献
      • 京極 真:構造構成主義の立場からインフォームドコンセントを再考する.看護学雑誌73(3),92-96,2009
      • 京極 真:Quality of Lifeに対する構造構成主義的見解.看護学雑誌73(1),90-94,2009
      • 京極 真,西條剛央:Quality of Lifeの再構築-構造構成主義的見解.人間総合科学会誌2(2),51-58, 2006
  • 関心相関的よい医療判断法
    • 「よい医療とは何か」という問題提起に解答するための方法です.関心相関的よい医療論,関心の相互承認,よい生の実質化という3つの方法概念を備えいます.義務論,功利主義,徳倫理などの倫理理論によって見出された「よい医療」をメタレベルで判定する方法でもあります.他の医療の構造構成主義が,「関心に応じて妥当な理論,方法論を選択,評価する」などという議論に終止しがちなのに対して,このメタ方法論は「ではどのような医療ならば『よい』といえるのか」という問いに解答できるようになっている点でユニークだと思います.
    • 文献
      • 京極 真:「よい医療」とは何か-構造構成主義的見解.看護学雑誌73(4),78-83,2009
      • 京極 真:Quality of Lifeに対する構造構成主義的見解.看護学雑誌73(1),90-94,2009
      • 京極 真,西條剛央:Quality of Lifeの再構築-構造構成主義的見解.人間総合科学会誌2(2),51-58, 2006
  • 関心相関的本質観取
    • 医療に関係する者たちの間で相互了解可能な考えを作りだすための原理的思考の方法です.判断停止,現象学的還元,本質観取,関心相関性という4つの方法概念を備えています.現象学的本質観取は,それによって取り出された理路を評価できない問題がありましたが,関心相関的本質観取ではその問題は解消されています.また,関心相関的本質観取は,関心の公共性や問題性に応じて洞察の程度を調整できる理路を備える点で使いやすくなっていると思われます.臨床実践から研究実践まで妥当する方法です.
    • 文献
      • 京極 真:「方法」を整備する-「関心相関的本質観取」の定式化.看護学雑誌72(6),530-534,2008
 以上,概念的な説明を行ってきましたが,ようはこれらのツールは医療に関係する人々が信念対立に拘泥しないために開発されたものだ,ということです.それぞれの方法を使うには,ちょっとしたコツを習得する必要があり,その努力を惜しまなければ後はそれほど難しくはないと思います.僕の経験上,文献を読み,反復練習すれば習得できると思うのですが,より効率よく学ぶには文献検討と議論を中心としたゼミを実施するのがいいようです.臨床にいる医療者の場合は,それに加えて,事例検討会やワークショップの実施がいいかもしれないと思います.
 
 ただし,使用にあたって留意しておいてほしいのは,これらのツールは原理的な理論的研究によって開発されたものであって,実証研究はこれからだという点です.医療の考え方の矛盾対立(信念対立)という問題を乗り越えるには,論理的に考える限りにおいて上記の諸文献で示した理路を採用せざるを得ないはずなのですが,確かな実証研究が多数実施されていないという点においては慎重な取り扱いをお願いしたいと思います.

医療の構造構成主義の今後

 上述してきた研究の中心は理論的研究です.今後も,理論的研究が重要な役割を果たしていくことに変わりはありません.特に,原理上新種の問題の解明に対しては理論的研究が有効になってくると思われます.また,今後は,質的研究,量的研究を組み合わせて,評価法や治療法の開発,効果研究などを実施していく必要があると考えています.もちろん,そうした研究は多数行われる必要があり,すぐに結果がでるものではありませんから,時間をかけて地道に行っていくことになるでしょう.

 また,病院や施設などで医療の構造構成主義を実践できる医療者を育成することも重要な課題になると考えています.医療の崩壊が起こっている現場は,病院や施設であるためです.そのためには,今後,事例検討会,講習会などの開催が必要になってくると思うのですが,そのためには問題意識を共有できる方たちのネットワークの構築がまず必要になるでしょう.そうした取り組みを通して新たな課題が見つかれば,既存のツールを修正したり,構造構成主義の新しい臨床実践法を開発したりしていくことになると思います.

 安心できる社会のため,持続可能で,発展可能な医療の構築に関心のある方は,医療の構造構成主義研究だけでなく,臨床実践にも取りくんでいただけたらと思います.

付記:このサイトは,下記の総説論文を大幅に修正して作成しました.