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京極 真(きょうごく まこと)

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研究紹介/research brief

 私は,多方面にわたる研究を行っていますが,一方で「全体として何をしているのか」がわかりにくい方もいるかもしれません.研究は社会貢献という側面がありますので,その観点からは何をやっているのかがわかりやすい方がよいと思います.そこで,私の研究を簡単に紹介したいと思います.下記を読むと,私が「何をしようとしているのか」をおおよそご理解していただけると思います. 

1.「臨床家」としての研究テーマ 

 一言で表せば,「作業療法理論の臨床応用」です.

 私は,臨床家(作業療法 士)としてスタートしました.臨床家として私は,(1)臨床的な経験と勘を拠りどころにした実践では,経験と勘を越えた問題に対処できないときがあるこ と,(2)作業療法が他職種に理解されがたいため,チーム医療を効果的にするためには作業療法独自の貢献を明確にする必要があること,という問題に突きあ たりました.

上記の問題意識を解決するため,私は作業療法の実践理論である「人間作業モデル(MOHO)」 を臨床に応用する試みをはじめました.MOHOを選択した理由は,(1)これが他の作業療法理論の追随を許さないほど研究開発されていること,(2)作業 療法の独自性を担保した理路を備えていること,(3)実践のための多くのツールを備えていること,などがありました.もう少し言えば,臨床家は目の前の患 者に直接介入するため,MOHOぐらい研究開発が進んだものでないと安心して実践に応用することはできない,という思いもありました.

こ の試みの結果は,事例研究としていくつかの論文にまとめて発表しました.主な結果として,(1)MOHOのようによく開発された理論を実践に応用すれば, 臨床経験の乏しさや臨床的推論の弱さを補える可能性がある,(2)MOHOは患者と臨床家の協業(インフォームド・コンセントをさらに推し進めた実践)を 促進する可能性がある,(3)MOHOを理論的基盤にして開発された「作業に関する自己評価改訂版(OSA-2)」,「コミュニケーションと交流技能評価 (ACIS)」,「意志質問紙(VQ)」,「運動と処理技能評価(AMPS)」は理論の臨床応用を促進する,(4)MOHOは作業療法の独自性を他職種に 伝えやすくする可能性がある,などでした.また,精神障害者を対象に,MOHOを理論的基盤にしたOSA-2の信頼性と妥当性を統計学的に検証すること で,他の臨床家がこの理論と評価を実践に応用しやすくなる可能性を開こうともしました.

作業療法理論を臨床に応用する研究は,後で説明する理論家としての研究テーマと円環することや,私のなかでMOHOの可能性が増し続けていることなどから,今後も継続して取り組んでいきたいテーマとなっています.

なお,理論を実践に応用させる可能性の方法として,「エビデンスに基づいた作業療法(EBOT)」にも関心を持つようになりました.もちろん,EBOTは理論ではなく,エビデンスを実践に応用する方法であるため,直接的には作業療法理論を臨床応用させる研究で扱うことはありませんでした.EBOTは,後で説明する「理論研究」で格闘するテーマの一つになりました. 

2.「教育家」としての研究テーマ

 これも一言で表せば,「非構成的評価の確かさに関する研究」です.

 上述した作業療法理論の臨床応用をテーマとした研究を経て,「非構成的評価」,すなわち「自然な観察と面接による評価」 をもっと体系的に研究していく必要性に気づきました.というのも,いくら理論に根ざしたシステマティックな評価法を開発しても,やはり臨床実践は自由度の 高い非構成的評価を抜きに成り立つものではないと感じたからです.そこで一念発起して,大学院に進学し,MOHO研究の第一人者である山田孝先生のもとで 非構成的評価の研究に取りくむことになりました.

  まず過去の研究を精査した結果,(1)非構成的評価の確かさ(dipendability)を高める諸条件が明らかにされていないこと,(2)確かさを判 断する能力の習得に何が影響するのかが不明なこと,(3)確かさを評価できるようになる教育プログラムの開発が行われていないことなどが明らかになりまし た.そのため,非構成的評価の確かさに焦点化して研究を進めてきました.

研究は,量的研究と質的研究を組み合わせて行っています.まず,コンセンサス・メソッドのひとつであるデルファイ法を応用して,非構成的評価の確かさを高める諸条件を明らかにしました.その諸条件とは,(1)第3者が評価者の想定した暗黙の前提を共有しやすい,(2)提示された事実は面接や観察から得られたもので,作業遂行を通して変化が認められる,(3)事実の表記は省略が少なく,概念が明確である,(4)判断は作業有能性に焦点を当てており,論理的に適正で明瞭である,というものでした.こうした諸条件は,過去の研究では明らかにされておらず,私としてはかなり独創性のある知見を得られたのではないかと思っております.

  次に,4条件を作業療法学生(対象は長期臨床実習に合格した者)に教育すれば,非構成的評価の確かさを判断することができるようになるかどうかを,郡内介 入実験を用いて研究しました.作業療法学生を対象にした理由は,私自身が教育家としての道を歩みはじめたこと,非構成的評価は作業療法評価の本質的な技法 であるため学内教育の段階から学習をサポートする必要があること,などがあります.さて,研究の結果ですが,4条件を学べば,質の低い非構成的評価結果を 判別できるようになることが示唆されました.つまり,4条件を知らなければ,作業療法学生は質の低い非構成的評価結果を見抜くことができない可能性があ る,ということです.

3.「理論家」としての研究テーマ

 またまた一言で表せば,「医療における様々な『考え方』の矛盾対立を解明する」ことです.

実のところ私は,臨床家として歩みはじめたころから,ずっと「どうして医療現場ってこんなにも矛盾したり,対立することが多いのだろう」という問題意識を抱えていました.たとえば,臨床家としての私は主に精神医療が専門なのですが,精神障害者に対する基本的なかかわり方ひとつとってみても,「医療(者)を中心に考えている者」と「患者を中心に考えている者」の間で埋められない溝があったように思います.ま た,「障害者を無能力」と捉える者もいれば,「障害者の可能性」に賭ける者もいたりして,これもやはり互いがなかなか了解しあえず,現実問題に直結した 「考え方」の矛盾対立であったと思います.医療はチーム・アプローチを抜きには成り立ちませんから,こうした溝があることによってなかなかうまく医療が提 供できなくなります.つまり,評価・治療の質が落ちるわけです.他にも実に色々(たとえば精神障害者に対する差別や偏見)とありましたが,こうした体験は 私にとって「よい医療とは何か」,「どのような医療がもっともよいのか」,そしてそれは「どのような条件のもとで可能性を開くのか」という問いを抱くきっかけとなり,医療における「考え方」の矛盾対立を解明する可能性の「原理」や「メタ理論」,「超メタ実践法」の構築に向かわせるものでした.

 そんなとき遭遇したのが「構造構成主義」でした.「考え方」の矛盾対立を解明するには,相反する立場の者でも特定の関心下で論理的に考えていけば共通了解に至れる可能性を備えた「設計思想」と「方法」 が必要になります.私が構造構成主義に出会ったころは,まだ西條剛央さんがそれを構築している最中で全体像は見えなかったのですが,数回議論を重ねるうち に私の理論的直観が働いて「これでいける!」という見通しを立てることができました.それでも,研究で使うためには,構造構成主義が相反する考え方の者同 士が了解できるような強靭な理路を備えているかどうかを厳密に吟味する必要がありました.そのため,2005年に「構造構成主義とは何か」(北大路書房) が出版された直後から,私は何度も批判的吟味を繰り返し,自分自身が納得できるまで完全読解を行ってきました(今でも論文を書くときは関連個所を批判的吟 味しています).その結果,やはり構造構成主義を設計思想と方法に採用できると了解できたため,これを理論研究で使って医療における「考え方」の矛盾対立 を解明する研究を行いはじめました.

 これまで研究してきた主たる領域は,医療論チーム医療エビデンスに基づいた医療(EBM)クオリティー・オブ・ライフ(QOL)障害学な どです.研究スタイルとしては,かなり学際性に富んだものになっていると思います.これらの領域をテーマに選んだ理由は,(1)既に各領域の専門家が「考 え方」の矛盾対立を問題として知覚していたため,構造構成主義を武器にした理論研究の意義が理解されやすいということ,(2)「考え方」の矛盾対立という 問題が,各領域の実践を阻みかねない(あるいは既にはばまれている)という「現実問題」に直結していたこと,(3)これらの領域が医療全般を編みかえるうえで,避けては通れない普遍性のある難問を抱え込んでいたこと,などがあります.その成果は,多数の論文で発表しておりますので,直接文献にあたりたい方は本サイトの研究業績著作紹介をご覧いただければと思います.

  なお,構造構成主義は,従来からある理論のポテンシャルを引きだす機能を備えています.そのため,私は構造構成主義者として従来の理論を排外するのではな く,それのモチーフを踏まえたうえで原理性の深度を吟味し,研究目的(関心)に応じて柔軟に活用していくスタンスを採用しております.たとえば,これまで 論文上で吟味してきた理論は,客観主義,実証主義,社会的構築主義,反還元主義,帰納主義,反証主義,論理実証主義,認識論的現実主義,構成主義,プラグ マティズム,ネオ・プラグマティズムなどです.現在は,功利主義,義務論,徳倫理,共同体主義,フェミニズム論などの文献を吟味しています.それにより,過去の偉大な理論家たちが取りだした原理を把握し,修正すべき箇所は修正したうえで,研究目的に照らしあわせて柔軟に活用していければと考えています.

 さて,今後ですが,構造構成主義を武器に構築した医療の超メタ理論や超メタ実践法を,実際の医療現場に応用していこうと考えております.つまり,最初に述べた「理論の臨床応用」 を,ここでも試みたいと考えているわけです.「考え方」の矛盾対立という問題は,医療現場で直面する深刻な現実問題として立ち現れています.構造構成主義 の観点から構築した医療の超メタ理論や超メタ実践法は,理論レベルでは「考え方」の矛盾対立を解く可能性を開くものになっていると考えられます.しかし, それが実際に実践レベルで機能するためには,各臨床家が「技化」できるようになるまで「反復練習」する必要があると思われるため,理論レベルとはまた違った次元で取り組んでいかなければなりません.もし,臨床応用してくださる方がいましたら,できれば論文化してくださいますようよろしくお願いいたします.

 また,医療論やEBMなど既に取り組んできた研究を押しすすめて体系化を図るとともに,新たに医療パターナリズムインフォームド・コンセント脳死臓器移植医療の正当化原理社会保障制度などの領域が抱える難題にも切り込む予定で準備を進めています.それにより,上述した「よい医療とは何か」,「どのような医療がもっともよいのか」,そしてそれは「どのような条件のもとで可能性を開くのか」という問題提起に対する私なりの「解答」をもっとも本質的な形で提示できればと考えております. 

4.その他

 上記の事柄とは別に,日本作業療法士協会の研究助成を受けた予防的作業療法の研究(代表研究者:中村裕美(埼玉県立大学))に共同研究者として参加しています.

 また,良質な臨床実習をサポートするための著作を編みつつあります.これにつきましては,順調にいけば来年ぐらいに成果が公表できる予定です.

まとめ

 私の研究の原点は「臨床」にあります.臨床で培った問題意識を,さまざまな角度からさまざまな方法を使って探究してきた,と言うことができると思います.よりよい医療のため,患者の健康と幸福のため,微力ながら研究を続けていきたいと考えています.

(最終更新:2008.09.28)