0. はじめに

3.4. 森林環境

3.4.1. ヨーロッパの森林における放射性核種

 森林生態系は、チェルノブイリのプリュームからのフォールアウトの結果として主要な半自然生態系の一つである。放射線学的視点から見た第一の関心事は、30年という半減期によって起こる、137Csによる森林環境やその産物の長期的な汚染である。汚染直後の数年は、より短寿命の134Cs同位体も同様に重要であった。森林では、90Srやプルトニウム同位体といった他の核種は、CEZ内および周辺の相対的に小さな地域を除くと、人間にとって限定された意義しか持たなかった。結果として、入手可能な環境のデータは137Csの振る舞いとそれに関連した放射線線量に関わるものとなる。
 森林は多くの国で、経済、栄養および余暇資源を提供する。図3.34はヨーロッパ大陸全体の森林の幅広い分布を示している。チェルノブイリ事故に引き続いて、ベラルーシ、ロシア連邦、そしてウクライナ、また旧ソ連の国境を越えたいくつかの国、特にフィンランド、スエーデン、オーストリア(図3.5を見よ)で森林の重大な放射能汚染が発生した。これらの国々での137Csによる森林汚染の程度は、いくつかの場所での >10MBq/m2から、10から50kBq/m2の範囲であり、後者は西ヨーロッパのいくつかの国での137Cs沈降の典型であった。
 チェルノブイリ事故以来、森林の自然による除染は極端にゆっくりしか進行しないことが明らかとなった。137Csの森林生態系からの純排出は1%/年以下[3.66, 3.67]であり、人為的な介入なしでは、森林がチェルノブイリのフォールアウトによって影響を受け続ける期間を主に左右するのは、137Csの物理的崩壊速度ということになりそうである。137Csの森林からの自然喪失の絶対量が少ないという事実にも関わらず、放射性セシウムの森林内での再循環は一つのダイナミックなプロセスであり、そこでは生態系の生命構成素および非生命構成素間で、季節的あるいはそれ以上の期間をベースとした、相互的移行が発生する。森林の適切な長期的管理を促進するためには、こうした交換プロセスの信頼できる理解が必要である。そうしたプロセスに関する多く情報が実験および実値測定から得られており、これらのデータの多くは数学的予測モデルの開発に使用されている[3.68]。

3.4.2. 初期フェーズの汚染のダイナミクス

 最初の放射能プリュームの軌跡に沿った位置にあるソ連の森林は主に感想沈降の結果汚染されたが、他方さらに遠方の、オーストリアやスウェーデンといった国では湿性沈降が発生し重大な汚染ホット・スポットを発生させた。ベラルーシのMogilev地区やロシア連邦のBryansk地区や他のいくつかの地区など、ソ連の他地域もまた降雨を伴う沈降によって汚染された。
 特に森林の端において、林間はあらゆる種類の大気中の汚染物質の効果的なフィルターである。チェルノブイリ事故後の樹木汚染の主要なメカニズムは、木の林間による放射性セシウムの直接捕獲であり、これは最初の沈降物の60%-90%を捕獲した[3.66]。原子炉から7kmの範囲内では、このプロセスが松の木の林間の非常に高レベルの汚染を引き起こし、その結果、松の木は事故によって放出された短寿命および長寿命核種の複雑な混合物から致死的な放射線線量を被った。事故直後の数日および数週のガンマ線線量率は原子炉近隣地域では5mGy/hを超えた。松の木の針状葉では計算上の吸収ガンマ線量は80-100Gyにのぼった。この小さい範囲の森林は赤い森 Red Forest として知られるようになった。木が死んで赤っぽい茶色になったからであり、それはその地域での有機体への放射線ダメージのうち、もっとも容易に観察可能は結果だったのである(セクション6を見よ)。
 木の樹幹の汚染は、雨水による洗浄と葉・針葉樹の落下という自然プロセスによって、数週から数ヶ月の期間に渡って急速に低減した(図3.35)。葉の表面により放射性セシウムの吸収もまた発生したが、これを直接測定するのは困難であった。1986年夏の終わりまでには、木の樹幹への最初の放射性セシウム負荷のおよそ15%が残留していたが、1987年夏までにさらにおよそ5%まで低減した。このおよそ1年の期間に、したがって、放射性セシウムの多くが木の樹幹からその下の土壌に移行せられたのである。
 1986年夏の間、キノコおよびベリーとしった森林生産物の放射性セシウム汚染が増加し、それが鹿やヘラジカなどの森林動物の汚染の増加につながった。スウェーデンではヘラジカ中の137Cs放射能濃度が生体重あたり2 kBq/kgを超えたが、ノロジカでの値はこれよりも高かった[3.71]。

3.4.3 森林における放射性セシウムの長期ダイナミクス

 最初の沈降からおよそ一年後までの間に、土壌が、森林内での放射性セシウム汚染の主な貯蔵場所となった。これに続いて、木や低層植物が根による取り込みによって汚染されたが、これは、放射性セシウムが土壌断面に移動したことによって現在まで続いている。カリウムと同様、森林内における放射性セシウムの栄養素類似の循環速度は速く、大気からのフォールアウトの数年後には疑似-平衡状態に至った[3.72]。上方の有機物の豊富な土壌層は、長期的な貯留場所としてだけでなく、森林植物の汚染にとっての放射性セシウムの一般的汚染源として働く。個別の植物種によって、この有機土壌由来の放射性セシウムを蓄積する能力は大幅に異なるのではあるが。
 排水を通じたシステムからの放射性セシウムの放出は、一般的に言うと、雲母類似の粘土鉱物へのその固着のせいで、限られたものとなる。放射性セシウムの再循環における森林植物の重要な役割は、放射性セシウムの部分的かつ一時的な貯蔵であり、大きな生物量を持つ木の幹や枝といった多年生の樹木構成物において特にそうである。しかし、土壌から草木によって取り込まれる放射性セシウムの一部は、毎年、滲出や針/葉の落下によって再循環され、表層土壌における放射性セシウムの長期持続するバイオアベイラビリティに帰結する。森林の立っている生物量内の放射性セシウムの貯蔵量は、温暖な森林生態系で全活量のおよそ5%であり、この活量の大部分が樹木内に存在する。
 放射性セシウムの生態学的な再循環および貯蔵に起因して、森林土壌内部での移動は限定的であり、長期にわたって汚染の大部分は上部の有機層に宿る(図3.37)。移動率は土壌のタイプや機構に応じて大きく変動するものの、放射性セシウムの遅い下方移動は生じ続ける。
 森林土壌の水門レジームは、森林生態系内での放射性核種移動を支配する重要なファクターである[3.75]。水門レジームに応じて、樹木、キノコ、ベリーおよび低木の放射性セシウムTagは、3桁以上の幅で変動しうる。最低のTag値は、均一なスロープで表面を自由に水が流出するという条件で発達した、粒状(乾燥)の森林および土壌で見られた。最大のTag値は、表面水が長期間停滞するという条件で発達した、水成の森林に関係した。森林における放射性核種移送を左右する他のファクターとしては、土壌断面中の根システム(菌糸)の分布や放射性セシウムの蓄積に関する種々の植物の容量が重要である[3.76]。
 土壌内での放射性セシウムの垂直分布は、葉状植物、樹木およびキノコによる取り込みのダイナミクスに重要な影響を与える。この分布は経時的な外部ガンマ線量の変化にも影響する。汚染のピークが下方に移動するにつれ、土壌の上部層が放射線からの遮蔽効果を増す(図3.38)。もっとも速い垂直移動は水成の森林で観察された[3.75]。
 一旦森林が放射性セシウムによって汚染されてしまうと、それ以上の再配分は限定された。小さなスケールでの再配分プロセスには再浮遊[3.78]、火災[3.78]および浸食/流出が含まれるが、これらのプロセスのどれも、当初の沈降の位置を超える放射性セシウムの大規模な移動につながることはないだろう。

3.4.4. 食用産物への取り込み

 森林から採れる食用品はキノコ、果実、狩猟動物を含む。チェルノブイリの沈降の被害を受けた森林では、こうした産物の各々が汚染された。放射性セシウムによる最高レベルの汚染は、種々のミネラル栄養素と同様放射性セシウムを蓄積する大きな容量のため、キノコで観察された。多くの被害国、特に旧ソ連の国々において、キノコは広く普及した重要な食料源を提供する。キノコの汚染の経時的変化は、種々のキノコの種に利用される様々な関連栄養源における、137Csのバイオアベイラビリティを繁栄する。
 キノコ種の中には特定の土壌層を栄養分として活用するものもあり、そうした種の汚染のダイナミクスはこうした層の汚染レベルに関連していた[3.80]。キノコ種における高レベルの汚染は、一般に、土壌からキノコへの高い移行係数に繁栄される。とはいえ、こうした移行係数 (Tag) もまた相当な可変性をもち、0.003から7 m2/kg (すなわち、およそ2000の係数で[3.81])の範囲を変動する。異なる種のキノコにおける放射性セシウムの蓄積には大きな差違がある(図3.39を見よ)[3.82]。一般に、腐生および木材腐功菌類、たとえばナラタケ(Armillaria mellea)は、汚染レベルが低く、他方木根と共生関係を形作る糸状菌(XerocomusやLactariusのような根菌根類)は高い取り込みを見せる。キノコの汚染の変動の度合いを図3.40に示すが、そこでは1990年代の汚染の遅い低減の傾向もまた見られる。
 森林におけるキノコの汚染はコケモモのような森林果実のそれより遙かに高度であることが多い。このことは森林産ベリーのTag値に繁栄されており、この値は0.02から0.2m2/kgの範囲を動く[3.81]。一般により低い放射性セシウムレベルと、消費される相対量のおかげで、森林産ベリーによる人間への放射線学的危険性はキノコよりは低い。とはいえ、両産品とも草食動物の食餌に大きく寄与しており、それによって狩猟動物を通じた人間の被曝の第二の経路を提供する。森林で草を食べる動物や他の半自然生態系はしばしば高い放射性セシウムレベルの肉を生み出す。そうした動物にはイノシシ、ナラジカ、ヘラジカ、トナカイが含まれるだけでなく、森林の境界エリアの草を食べる可能性のある牛や羊のような家畜も含まれる。
 鹿やヘラジカのような狩猟動物の汚染についての多くのデータが、狩猟と狩猟動物の接触が一般的である西ヨーロッパ諸国から得られてきた。キノコや地衣類のような食品の季節性の入手可能性に起因して、こうした動物における放射性セシウムの全身中の含有量には季節性の大きな変化が生じた。このうち地衣類はトナカイの食餌の成分として特に重要であった。北欧諸国やドイツから優良な時系列測定結果が得られている。図3.41はスウェーデンのある狩猟地域における1986年から2003年までのヘラジカについての、放射性セシウム活量の年間平均の完全な時系列を示しており、図3.42は南ドイツでのナラジカの筋肉における137Cs濃度の個別測定結果を示している。狩猟動物、特にナラジカの汚染の主要ファクターは、キノコ中の放射性セシウムの高い濃度である。ヘラジカについてのTagは0.006から0.03 m2/kgまで変動する[3.81]。スウェーデンにおけるヘラジカの平均Tagは当初の高汚染の時期以来低下してきており、ヘラジカにおける放射性セシウムの生態学的半減期は30年未満(すなわち、137Csの物理的半減期未満)であることを示唆している。

3.4.5. 木材の汚染

 チェルノブイリ事故の被害を受けたヨーロッパおよび旧ソ連の森林のほとんどは、材木生産のために植えられ管理されてきた。汚染された木材の輸出と、それに続く加工処理や使用が、森林それ自体の中で被曝することは通常ないだろう人々に、放射線線量をもたらすかもしれなかった。森林土壌から木材への放射性セシウムの取り込みはどちらかというと低い。集合TFは0.0003から0.003m2/kgの範囲であった。それ故、家具あるいは家屋の壁や床を制作するのに使用される木材が、それら製品を使用する人々における重大な放射線被曝を引き起こすことはなさそうだ[3.85]。とはいえ、紙のような消費財の製作は、放射性セシウムで大きく汚染されることになりうる、液状および固形廃棄物双方を生み出す。製紙用パルプ工場における労働者によるこの廃棄物の取り扱いによって、工場内で放射線線量が上昇する可能性がある[3.86]。
 針状葉、樹皮および枝のような木の他の部位の燃焼目的の使用が、放射活性をもつ木灰の処理の問題につながる可能性がある。こうした実践は、スカンジナビア諸国におけるバイオ燃料技術の急激な高まりのおかげで近年増加しており、木灰中の放射性セシウムが重大な問題となった。というのも、灰における放射性セシウム濃度は50-100倍、元の樹木よりも高いからである。汚染地域において屋内で薪を使用する者については、家庭および/あるいは庭での灰の積み上げもまた、放射性セシウムからのガンマ線による外部被曝を引き起こすだろう。


3.4.6. 予測される将来の傾向

 1986年以来、森林の放射性セシウム汚染の測定結果の膨大な配列を用いる、数理モデルの開発に多大な努力が注がれてきた[3.68]。これらのモデルは、チェルノブイリの汚染物質が森林生態系において振る舞う仕方に関する我々の理解を高めるのに役立つ。これにとどまらず、モデルは汚染の将来の傾向についての予言を提供するのに役立ち、それが汚染地域の将来の取り扱いに関する意志決定をする際に役立ちうる。
 森林における放射性セシウムの振る舞いの予測モデルは、長時間にわたる生態系での流れと分布を数値化することを目的としている。木材のような特定の生態学的コンパートメントや、キノコのような食用産物について予報が作成されうる。図3.43と3.44は様々なモデルを利用して得られたそうした予報の例を示している。図3.43は、二つの異なるタイプの森林生態系について、樹木の二つの齢級において、樹木における放射性セシウム活量が示す漸次的変化の予測を示している。これは、収穫可能な木材の汚染をコントロールするために、土壌条件と沈降時の樹木の発達段階との双方が重要であることを明らかにしている。図3.44はチェルノブイリの約130km南西にあるウクライナのZhytomyr地区における、松の木についての50年間の予報の概観をしめしている。図は11の異なるモデルによってなされた予測の間での可変性の度合いや、同一の森林中の場所から集められたデータに内在する可変性を示している。モニタリングデータおよび諸モデル間両方における不確実性によって、森林汚染の将来の傾向を予報する課題は相当難しいものになる。

3.4.7 森林および森林産物に関わる放射線被曝経路

 汚染された森林は、森林および関連産業における労働者の、そしてまた一般公衆の成因の、放射線被曝を引き起こすかもしれない。森林労働者は労働時間内に、樹木の林冠や上部土壌層における放射性セシウムの保持に起因する、直接の外部被曝を受ける。同様に、公衆の成因は、たとえば家具や木床などのような木材製品から外部被曝を受けうるし、これに加え、放射性セシウムを含む狩猟動物、野生キノコおよびベリーの消費の結果として被曝するかもしれない。森林の縁はまた牛や羊といった家畜を放牧するのに利用されるかもしれない。このことによってこれらの動物のミルクが汚染されることになるかもしれず、乳製品や肉の消費の結果人間の汚染につながるかもしれない。家庭用の薪の収集と使用の結果、さらなる被曝経路が生ずる。これは家庭内での被曝だけでなく、もし木灰が家庭内肥料として用いられるならば、庭での被曝にもつながりうる。同様に、エネルギー生産のための森林産物の工業的利用が、労働者および公衆成員双方の被曝を招きうる。森林および森林産物に関わる人間の放射線線量についての量的な情報は参考文献[3.85]および本報告のセクション6で与えられる。
 他の重要な被曝経路群は、汚染された森林地域からの材木および木材製品の収穫、加工処理および使用から生じる。材木や木材製品は、一旦森林から持ち出されると、しばしばかなりの距離離れた場所で、そして時には国境を越えて、潜在的な被曝源となる。こうした被曝経路の相対的な重要性は[3.85]で評価され数値化されている。