環境政策で世界をリードすることは良いことなの?

投稿日: 2012/12/15 11:24:45

拙稿 Hattori, K., Kitamura, T., "Endogenous Timing in Strategic Environmental Policymaking" Environmental and Resource Economics, forthcoming. の簡単な解説

地球温暖化問題や酸性雨,海洋汚染などの国境を越えるような環境問題に対して,先進諸国は様々な対策を取るようになってきました。このような越境汚染への対策は,関係諸国の協力的な政策決定がない場合には,いくつかの困難に直面することが知られています。例えば,どの国も,自国企業の国際競争力を低めないように,望ましい水準よりも緩い環境規制を選択するかもしれません。また,他の国が環境改善の努力をしてくれれば,自国は何もしなくても環境改善の便益を受けられるだろうといういわゆる「ただ乗り」を目論み,環境改善努力を怠るかもしれません。環境経済学の分野では,これまで数々の研究が,このような国際間の環境問題における,各国の非効率な環境規制水準の問題を分析してきました。つまり「どのような (how) 環境政策が行われるのか」を考えてきたと言えるでしょう。

しかし現実の政策決定の現場では,そのような「どの水準 (how)」という問題だけでなく「いつ (when) 政策を打ち出すのか」という問題も,同様に重要です。簡単に言うと「我が国は,他国に先駆けて環境政策を打ち出すべきなのか?それとも他国の政策が決まりそれを観察した後に環境政策を決めるべきなのか?」という問題,いわゆるリーダーシップの問題です。

この論文は,タイミングゲームという枠組みを用いて,上記のような相互依存関係をもつ戦略的環境政策における内生的なリーダーシップの問題を分析しました。具体的には,(1) 戦略的な環境政策の尤もらしい政策決定のタイミングはいかなるものか(同時手番か交互手番か), (2) どのような特徴を持つ国が,環境政策策定のリーダー(先導者)となるのか,という実証主義的問題と,(3) どのような場合に,環境政策に関してリーダーシップを取れば,自国の厚生にとって好ましいのか,(4) 政策策定の順序についてのどのようなコーディネーションが,各国の厚生や環境水準にとって好ましいのか,という規範的問題を考察しました。

分析の結果として,環境汚染の程度が比較的弱い場合には,環境政策決定のタイミングとして同時手番がサポートされ,強い場合には交互手番がサポートされること,そして交互手番均衡は同時手番均衡をパレート支配(前者が両国ともに好ましい)すること,さらに,環境被害の程度が弱い(環境悪化をそれほど考慮しない)国が,リーダーとなる均衡がリスク支配的(ある基準において尤もらしい解)であること,を明らかにしました。

この分析結果は,地球温暖化問題に対する途上国の不参加のコミットメントや,日本ー中国間の酸性雨問題における中国の政策コミットメントのような現実問題を説明しうる点,また,従来の戦略的環境政策の理論はほぼ同時手番のタイミングの仮定の上に分析なされてきたが,交互手番のタイミングが尤もらしいということを理論的に示した点において,重要なものであると考えられます。

この研究は,国際査読雑誌である Environmental and Resource Economics に掲載されました。