Diradical

ジラジカルd8遷移金属錯体の近赤外吸収プローブ・センシング機能の開拓

近赤外領域(NIR, 700~900 nm)に吸収を持つ物質は少なく,生体の分光学的窓といわれる.故にNIR光は生体を透過しやすく,生体のプローブ光として注目される.ここで生体組織や病変部位に集積する近赤外プローブが必要となる.近赤外吸収性物質としては専らπ電子系を拡張した有機分子と金ナノ粒子が用いられているが,我々はそれに対してラジカルを有する配位子とd8遷移金属からなるジラジカル錯体が強いNIR吸収(モル吸光係数105 M–1cm–1)を持つことに着目し,プローブとしての応用を検討した.まず,o-フェニレンジアミン-PtII錯体について疎水的媒体でNIR吸収を示すことを見いだした.特に3,5-ジブロモ-1,2-ジアミノベンゼンを配位子とするビラジカル錯体は生体膜モデルであるリポソーム存在下, NIR吸収を示した.

ジラジカル錯体の近赤外吸収特性を利用する水溶液微小環境のpH-電位センサー

疎水媒体でのジラジカル錯体のNIR吸収発現は,水溶液でのNIR吸収の有無について興味を抱かせる.そこでスルホン化したo-フェニレンジアミンを配位子とするジラジカル錯体を合成し,性質を調べた.その結果水溶液中でも705 nmに強大なNIR吸収を示すこと,それがラジカル配位子間の電荷移動吸収に基づくこと,低pH環境下(pH < 4.0)でNIR吸収を消失させること,それが自然電位変化に基づく酸化・二量化によることなどを明らかにした.以上のことから本錯体は細胞内組織など, 水系微小環境のNIR吸収pH・電位プローブとして機能し得るといえる.