質問4「遺伝的多様性はなぜ重要なのですか?」

(答)一言で言えば,遺伝的多様性が生物を生物たらしめている特性だからです.

地球上には,知られているだけでも150万種,おそらくはその10~100倍の種が存在しています.魚類だけでも2万種以上が知られています.このような種多様性は,とりもなおさず,それだけ遺伝的に異なるグループがあることを意味し,逆にいえば,遺伝的多様性がありとあらゆる形態や生態,行動の多様性を形作っているわけです.

しかし,重要なのは「種間」の遺伝的多様性だけではなく,種内の「地域集団間」,そして「地域集団内」の遺伝的多様性も,生物にとって本質的な特性であることです.

「地域集団間」の遺伝的多様性,言いかえれば遺伝的分化は,上にも述べたように,別々の地域に隔離された集団が,それぞれの環境のもとで独自の歴史を経てきた結果,生まれてきたものです.これは一般に新しい種が生まれる上でも重要なステップです(つまり「種間」の多様性に引き継がれます).

地域集団内の遺伝的多様性は,まさに生物の生物らしい特徴である「適応」を生む原動力となります.遺伝的多様性の究極のソースはDNA上に起こる突然変異だといえますが,遺伝子の組換え,自然淘汰,浮動などが遺伝的多様性の増減に大きく関与しています.特に自然淘汰は,集団内の遺伝的多様性(変異)が大きいほど速やかにはたらき,より環境に適した遺伝的特徴をもつ個体が集団内に広がる力となります.生物集団は,このように常に遺伝的な変化(=進化)をもたらす力にさらされ続けており,まさに「生物は進化する実体」というにふさわしいものです.

ふつう,集団内には多数の遺伝的変異が蓄積されていますが,環境の悪化や乱獲などによって個体数が激減すると,近親交配の影響によって遺伝的多様性も低下します.その結果,病気や環境変化への耐性が低下したり,近交弱勢が起こったりすることが知られています.その直接的な悪影響の程度は,その集団が経てきた歴史によって,さまざまだと考えられます.しかし,集団内の遺伝的多様性の減少が,適応進化の原動力を失うことを意味することには変わりありません.

遺伝的多様性は,アロザイム,ミトコンドリアDNA,核DNAの特定の部位に着目して実測できます.多くの場合,淘汰に対して中立(有利でも不利でもない)と考えられるDNAマーカーが用いられますが,そこで測られる遺伝的多様性は,かならずしも多数の遺伝子が関与する形質や適応に関わる形質における遺伝的多様性とは完全に一致しないことにも注意しなければなりません.