保護猫 外傷

左肘付近から上腕にかけて大きな傷を負った保護猫の来院がありました。皮膚は大きく欠損し皮下組織も一部喪失、大きな空洞ができています。一方大きな肉芽組織ができて欠損部を埋めようとする治癒過程がが始まっていることから、負傷からかなり日数が経過していることがわかります。

治療方法としては消毒と傷口の保護により自然治癒を促す方法と外科的に縫合する方法があります。自然治癒の場合2-3ヶ月程度の期間が見込まれ、また非常時動きの激しい場所なので肉芽組織は大きくなる一方で皮膚の正常な治癒は進まず傷は開いたままになることがあります。今回は短期的な治療が望ましいということで外科的に縫合することになりました。

手術では菌に感染している組織や壊死している組織、余計な肉芽組織も全て取り除いていき新鮮な組織だけを残すようにします。また傷口はわずかに広がることになりますが皮膚の辺縁を切り、切り口をきれいにすることで縫合した際に皮膚が癒合するようになります。

上腕部の皮膚だけでは足りないので胸部の方から皮膚を剥がし上腕部の傷の方へ引っ張りながら縫合します。ただ切り口を縫合するだけでは縫合部が逆に引っ張られ傷口が空いてしまうので、皮膚を引っ張った状態で皮膚の裏側と皮下組織を縫いながら少しずつ傷口の方へ進んでいくWalking suture という縫合の仕方をします。Walking Sutureはもともと皮膚と皮下組織の隙間(死腔)を減らし密着させることを目的としますが、皮膚の縫合部を接近させた状態で維持するため縫合部にかかかる張力を減らすことができます。た前足の肉球も深く切られていたため洗浄し縫合しました。

最後に皮膚を縫合して終了しましたが、それでも激しい動きをすると傷口が空いてしまう可能性があるため術後1週間はケージ内で安静を保ちました。手術後2週間の再診ではすでに被毛も生えており、縫合部はほとんど見えなくなるまで治癒したので抜糸しました。肉球は表層の古い組織が剥がれていますが、下から新しい組織ができているのが見られます。