フェレット全身性コロナウィルス感染症 (FRSCV)

フェレットのコロナウィルスとしてはカタル性腸炎(ECE)を起こす腸炎型コロナウィルス(FRECV)が以前から知られていますが近年これまでの腸炎型とは異なる全身性コロナウィルス感染症が報告されています。(2019年以降世界的に蔓延する新型コロナウィルス・COVID-19とは異なるウィルスに関する記述です。)2004年に海外の実験動物用に飼育されていたフェレットで初めて見られその後ペットのフェレットでも診断されるようになりました。日本では2010年に最初の報告があり、その後も何例かの報告があります。リンパ腫などの腫瘍性疾患と混同されたり、検査が行われなかったケースも含めるとさらに増えることが予想されますが実際の発生率は不明です。

全身性コロナウィルス感染症の症状は猫の肉芽腫型伝染性腹膜炎(FIP)に非常によく似ており、猫の腹膜炎と同様に腸炎型のコロナウィルス(FRECV)が体内で病原性の強い(FRSCV) に変異し、 さらに過剰な免疫反応を引き起こすことにより発症すると考えられていますが、詳細は不明です。 18ヶ月令以下の比較的若いフェレットに多く見られますが、2歳以上の例もあります。元気消失・下痢や嘔吐などの腸炎症状・体重減少など一般的な症状が多い一方で呼吸器や神経系症状など様々な症状が報告されています。多くは腹部の肉芽腫による腫瘤や臓器の肥大から腫瘍と鑑別するために組織検査を行うことで診断されます。

猫の腹膜炎と同様に診断は困難で、通常の血液検査ではグロブリンの上昇・貧血・リンパ球減少などが見られますが特徴的な所見ではありません。腫瘤が見られる場合はリンパ腫などの腫瘍性疾患との鑑別のために手術で病変の一部を採取し病理組織検査を行う必要があります。

治療

猫の伝染性腹膜炎と同様に非常に致死率が高く、現時点では有効な治療法は見つかっていません。病気の進行には個体差があり、短期間に亡くなるケースが多い一方で治療により診断後2年間の生存や再発まで1年間の治癒期間が得られたケースも報告されています。 現行の抗ウィルス薬では効果が見られず原因を除去する治療法はないため症状を減弱しQOLを向上させることが主な治療目標になります。一般的に行われる治療として下記が挙げられます。

免疫抑制療法

FRSCVの症状は病原ウィルスによって直接起こるのではなく異常な免疫反応によると考えられています。そこで高容量のステロイド・免疫抑制剤・抗がん剤などを用いて免疫反応を減弱させるものです。残念ながら経験的に良い結果が得られたという報告の一方で比較研究では大きな効果は見られていません。

免疫刺激療法

本来備わる免疫力を活性化し、ウィルスを排除しようとするもので、インターフェロン・アロエ抽出物・ポリプレニル免疫活性剤など様々な薬品がありますが現時点ではその効果を証明するものはほとんどありません。

ポリプレニル免疫活性剤(PI)は猫の肉芽腫性腹膜炎で効果が見られた製剤ですが非常に高価で、腹水を伴う腹膜炎では効果がないとされています。フェレットでもある程度の効果が得られた報告はありますが経験報告によるもので比較研究による証明はされていません。

参考

  • Whittington, et al., 2014, Treatment and Clinical Outcome of Systemic Coronavirus-Associated Disease in Two Ferrets (Mustela putorius) Treated with Polyprenyl Immunostimulant, Association of Exotic Mammal Veterinarians Conference 2014 proceedings

  • Lindemann, et al., 2016, Pyogranulomatous panophthalmitis with systemic coronavirus disease in a domestic ferret (Mustela putorius furo), Vet Ophthalmol. March 2016;19(2):167-71.

  • Torra, et al., 2016, Coronavirus Infection in Ferrets: Antigen Distribution and Inflammatory Response. Vet Pathol. November 2016;53(6):1180-1186.

  • Autieri, et al., 2015, Systemic Coronaviral Disease in 5 Ferrets., Comp Med. December 2015;65(6):508-16

  • Shigemoto, et al., 2014, Two cases of systemic coronavirus-associated disease resembling feline infectious peritonitis in domestic ferrets in Japan, J Exotic Pet Med. April 2014;23(2):196-200. 15 Refs

  • Johnson, C., A., 2018, Ferret Medicine and Surgery, CRC Press, FL